SPECIAL INTERVIEW 「わざ」の伝達と倫理的感受性 その技は誰にとってすぐれているのか

川名 るりさん(写真右)
神奈川県立保健福祉大学 小児看護学 教授

 

仁宮 真紀さん(写真左)
心身障害児総合医療療育センター看護指導部
研修研究担当看護主任、小児看護専門看護師

 

 

 

シリーズ[看護の知]は、学術論文として言語化されたすぐれた看護の実践知を現場で働く看護職に読んでいただけるよう、読み物として再構成した書籍です。シリーズ第5弾となる『「わざ」を伝える』の著者・川名るりさんと、小児看護専門看護師の仁宮真紀さんに、看護スタッフ間で「わざ」を伝えることと、それに関連する倫理的感受性について語っていただきました。

 

編集部 仁宮さんは、仕事を終えて帰宅後に、この本を一気に読まれたとうかがいましたが、どのようなところに興味を惹かれたのでしょうか。

 

仁宮 重症児(重症心身障害児)は痛みとか喜びとかをなかなか言葉に表せないので、こちらが表情や態度からニーズを読み取って、いろいろ考えながら看護をするのですが、「これは本当にこの子のためになっているのかな」って思うことがあります。「先輩からこういうふうにやるって聞いたけど、実は違っているんじゃないか」みたいなこともあるんです。

 

この本に出てくる看護師の考え方とか発言とかが、うちの施設の看護師と同じなんですよ。(本に登場する)広田さんや西本さんは、うちでは〇〇さんと△△さんだなーって。障害児施設の当院とは背景も文化も全然違う(本では小児病棟が舞台)のに、これだけピタッとくるんだって、すごく感動しました。

 

本の中で、ベテラン看護師が新人看護師にわざをなんとか教えたい、伝えたいって思っている場面が出てきます。若手看護師は先輩から教わっているのに、できない。ベテラン看護師は「どうしてこれだけ教えているのに、わからないの?」と思うし、若手看護師は「先輩はできるのに、どうして自分はできないんだろう」って悩んでいる。

 

私はずっと、他者にわざが伝わらない、伝えられないことは仕方がないことと思っていました。気づいたらできるようになっていた、いつできるようになったかは思い出せない、そういうもののやり方を他者に教えるのは難しいなぁと。

 

でもこの本を読ませていただいて、「伝わる」ということにはちゃんと根拠があったんだって、自分の中でストンと落ちた。だから「伝わらない、伝えられない」と悩んでいる人がこの本を読んだら、どんなに救われるだろうって思うんです。「伝える」とか「伝えられる」っていう過程にはこういう経過があることを臨床で働いている看護師が知ることは、すごく意味があるんじゃないかと思います。

 

川名 執筆者として、読者に「こういうふうに感じてもらえたら」「こういうように活用していただけたら」と思っていたことすべてに反応してくださって、感激しました!

 

仁宮 この本を読んでいて、思い出したエピソードがあるんです。嚥下障害があって、ご飯を食べるのに2時間ぐらいかかる子がいたのですが、私はコツがわかっているので、その子がむせたり苦痛に感じることなく1時間かからずに食べ終えさせることができるんです。それを見た新人看護師から「仁宮さんはすごいですね。〇〇ちゃんの食介(食事介助)、めっちゃ早いですもん。私は全然終わらないです」って言われて、ちょっとガーンってなっちゃいました。早く食べ終えることがこの子にとって重要で、それができる私はすごい、みたいなのは違うよねって。だって、この子が楽しく1日を過ごすために、私は1日をかけて食べる環境をいろいろ整えるというプロセスを経て食事介助をしているのですから。

 

この本に「“上手”なのは単なる経験だけではない、“技術をわかる”ことが“本質”である」と書かれています。“技術をわかる”ことには、子どもの障害にまつわる病態生理はもちろんのこと、その日の子どもの状況、そのときの子どもの思い、そのときの環境、食事介助の微妙な技術、そして倫理的感受性が含まれているのではないかと思うのです。

 

川名 ちゃんと本質をとらえているから、その子は無理なく食べることができた。だからスムーズに早く終えられたのですよね。

 

仁宮 食事介助が早く終わることは、誰のためにいいのでしょうか。看護師がすぐに次の業務に移れるから? 新人看護師の言った「すごい」は、私にはそうとらえられたんです。でも、食事介助が早く終わるといいのは、その子なんですよ。その子は食事をするのにすごくエネルギーを使うので、無理なくスムーズに終われば食後に体力を残すことができる。その子にとって何が一番大事かを考えるというところが、まさしく看護倫理なのではないでしょうか。

 

川名 自分では訴えられない子どもにとって、何がいいこととみなすのかって、組織の倫理観の影響を受けると思うんです。本当に子どもにとってのすぐれた「わざ」として伝えられていくためには、組織全体の倫理的感受性が高まっていることが大切ですよね。組織の価値観にかかわってくることでもあるから、常に議論しあえ、お互いに高めあえる組織をつくっていくことができるといいですね。

 

仁宮 先日、倫理の講義で「重症児施設におけるモヤモヤ・あるある事例」のグループワークをしたのですが、「わざを伝えていくことは大切だと思うけれども、どう伝えるのがいいのか、どうしたらわざや価値観の共有ができるのか、悩む」という発言がどのグループでも出ました。だからぜひ、この本を使って勉強会をしていきたいと思ったのです。重症児施設の看護師のモヤモヤ解消や、暗黙知・経験知という見えない看護の言語化や伝達につながるのではないかと。「どうやればいいかわからない」と悩むことが多い重症児にかかわる看護師にとっては、わざを伝え、伝えられて、看護の手ごたえを実感することが絶対に必要な体験なのだと思っています。ですので、ぜひこの本を臨床で活用させてください。

 

 

新刊情報

シリーズ看護の知・05
『「わざ」を伝える』

 

川名るり 著
●A5判128ページ
●定価2,000円+税
ISBN 978-4-8180-2269-0
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 

 

 

臨床の場では、学校で教えられた「看護技術」とは異なる、現場で培われた巧みな「わざ」が存在する。しかしそれは、組織の正式な伝達の場では、あえて伝えるほどのことではないとみなされている。では、そのような「わざ」はどのような場で、どのように他者に伝わっていくのか。本書は知性と感性あふれた病棟のエスノグラフィーである。

 

 

→看護2020年11月号より

 

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