本人も介護者も心地よくなる 「タクティール®ケア」は 信頼感と豊かな出会いを生み出します!

 

 

木本 明恵さん
(きもと あきえ)
日本スウェーデン福祉研究所
シルヴィアホーム認定
インストラクター・リーダー
三育学院カレッジ看護学科卒業後、東京衛生病院に入職。病棟や院内からの訪問看護を経験。
1998年より訪問看護ステーションで
訪問看護師として8年間従事。
2006年より日本スウェーデン福祉研究所に
就職し、現在に至る。
桜美林大学大学院老年学研究科老年学専攻修了。「タクティールケア」と、その根本理念である「認知症緩和ケア理念」の普及のため、セミナー講師等で全国を奔走中。

 

両手でやさしく、ゆっくりとした動きで背中や手足に触れる「タクティールケア」。認知症の人をはじめ、あらゆる人を“心地よく”させるこのケアは、肌と肌の触れ合いによるコミュニケーション方法でもあり、ナース自身も癒される、まさに“看護の原点”に立ち返れるケアといえるでしょう。そのタクティールケアの第一人者である木本明恵さんに、入門書としての本書の活用法などをうかがいました。

■急性期病院での事例も加えて“書籍化”

───本書は、訪問看護師・施設看護職向け専門誌『コミュニティケア』2014年11月臨時増刊号「手で“触れて”痛み・苦しみを緩和する はじめてのタクティール®ケア」が大変好評で“完売”したため、全ページ細部を見直し、新たなパートも加えて、Community Care MOOK シリーズの1冊として書籍化されたものです。具体的に、どのような追加をされたのでしょうか?。

 

今回、追加した新たなパートは5点あります。まず、タクティールケアのセミナーなどで“よく聞かれる質問”を10点ピックアップし、イラストとともに解説しました。「タクティールケアはどのくらいのペースで行うか?」「車いすに座ったままケアを行う方法は?」など、かゆいところに手が届くポイントを紹介しています。

次に、タクティールケアの実践報告が豊富に掲載されている[第4章]において、「救命救急センター」「高次脳機能障害専門クリニック」「鍼灸院」の3つの事例を加えました。特に鍼灸院の報告は、ナースであり鍼灸師である石部春子さんからの報告なので、看護と鍼灸、両方の視点からタクティールケアの効果が論じられており、とても興味深い事例となっています。

そして、私の看護学校時代の後輩でもある元訪問看護師の永井香さんが関節リウマチ患者となったのですが、彼女にタクティールケアを行ってみたところ、とても効果があったため、その経験を報告していただきました。彼女の「ナースだからこそ感じとるタクティールケアの効果」の言葉に、私も新たな気づきを得ることができました。

───救命救急センターは、急性期病院の中でも特に時間に追われる場所ですよね。そんなところでもタクティールケアができるのですか?

その事例は静岡の磐田市立総合病院の認知症看護認定看護師・鈴木智子さんが報告してくれています。もう、これは“百聞は一見にしかず”で、ぜひ本書を読んでみてください! 鈴木さんからは「触れるケアを通して患者さんとナースの関係構築が促進されて、せん妄改善や疾患回復につながるんです」と喜びの声が語られています。急性期の場でも、病棟全体で取り組むことでタクティールケアが可能になる素晴らしい事例です。

■タクティールケアの“驚くべき効果”をぜひ感じてほしい

───では次に、総監修者として、本書の“オススメ”ポイントをぜひ教えてください。

そうですね、最初からいきましょうか。まず、[巻頭カラー]です。介護付き有料老人ホームでタクティールケアを導入しているところのルポと、その後の本文で詳しく解説される「背中・手・足のタクティールケア」の方法がダイジェスト版で紹介されています。ここはやはりカラー写真ならではの臨場感を味わってほしいです。

[第1章]タクティールケアの意義では、パーソンセンタードケアとしてのタクティールケアをはじめ、なぜタクティールケアが今求められているのかを、認知症看護にも詳しい浜松医科大学医学部看護学科の鈴木みずえ教授が解説しています。タクティールケアのエビデンスが明らかになっている必読の章です。

[第2章]医師から見たタクティールケアの可能性では、タクティールケアを実践する2人の医師が、その効果と可能性について医学的見地から解説してくれています。

[第3章]タクティールケアの基礎知識では、私が、タクティールケアの始まり・特長・効果・活用例を解説し、その後、豊富な写真とともに「背中・手・足のタクティールケア」の実際の方法を紹介しています。タクティールケアの本当のスキルは、やはり研修で学んでいただきたいのですが、ここに紹介した方法を、患者さんや利用者さんに見よう見まねで試みていただくだけでも、きっと変化が起こると思います。まず、家族にしてみていただいてもよいですね。

[第4章]タクティールケアを実践してみては、本書で最もオススメの章です。先ほどの急性期病院等のほか、小児科クリニック・精神科病棟・訪問看護ステーション・高齢者ケア施設など13施設での実践が、詳しく報告されています。どの報告でも“触れる”だけで得られる、タクティールケアの驚くべき効果が語られています。

―最後には木本さんの尊敬する川嶋みどり先生からの寄稿もありますね。

はい、川嶋先生は「看護の基本は“手当て”にある」と、手のケアの有用性をずっと指導されてきました。その川嶋先生にタクティールケアの可能性を示唆していただいているので、私も自信を深めることができました。

タクティールケアのいちばんのよさは「リスクがほとんどないケア」であること。だから、本書を参考にして、まずチャレンジしてみていただきたいと思います。

 

地域ケアの今⑯

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

プロセスを丁寧になぞると、

期待される看護が見えてくるかも?

文:上野まり

 

大昔、私が看護師になったばかりのころ、いや、看護学生のころから「看護過程」には悩みながらも慣れ親しんできて数十年がたちます。未熟なまま過ごしてきたにもかかわらず、それを棚に上げて大学や研修会で、看護過程について教授しているのはなんともお恥ずかしい限りです。
研修会などで出会うベテラン看護師の中にも、未だに看護過程に対する苦手意識が拭えない人は多いようです。看護師という専門職だからこそ最も得意としなければならないはずなのに、なぜこんなに難しいのか……と常々思っています。
 
訪問看護に求められているのは何か
 
先日、「訪問看護過程の展開」をテーマにした研修会に講師として参加しました。研修会では、1つの事例を用いて参加者全員で看護過程を展開することになりました。事例は架空の50代男性A氏。A氏は脳血管疾患の後遺症を持ち、要介護5の寝たきり状態で、複数の医療処置を受けており、今後も自宅で家族と一緒に生活することを希望しているという設定でした。

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トシコとヒロミの往復書簡 第16回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

病院スタッフの“地域へつなぐ力”
文:川越博美

 

看護が、政策や制度の作成にかかわる必要性について、井部さんの考えにまったく同感です。また、看護に関連する制度はやはり厚生労働省や日本医師会・日本看護協会などが中心になって動かしているのだと再確認しました。私たち現場にいる者は、療養者や家族の思いに沿ったケアを提供できるよう、制度改革の必要性を訴えます。半面、制度設計者とどのようにコンタクトをとり、物申す機会をつくっていくかは、依然として課題です。
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『診療報酬・介護報酬のしくみと考え方 第3版 改定の意図を知り看護管理に活かす』

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トシコとヒロミの往復書簡 第14回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

「今を生きる」に寄り添う看護
文:川越博美

 

「なぜ訪問看護師は制度矛盾に声を上げないのか」という井部さんの疑問に、言葉不足で十分に説明ができていなかったと反省しています。

訪問看護の創設期に、看護師たちが組織のバックもないまま現場から制度について物申してきた働きを忘れないでほしいという思いから、再度補足させていただきます。制度ができたときは、天からのプレゼントのようにうれしく感じました。当初は訪問すればするほど赤字になりましたが、それでも創設されたことに大きな意味があると考えていました。これから制度の中身を変えていけばよいと思ったのです。

訪問看護師たちは、報酬がなくても必要に迫られ行っていたことについて、データを集めて要望書を書きました。24時間対応への加算、ターミナルケア療養費、医療処置の多い人への特別管理加算……。療養通所介護や看護小規模多機能型居宅介護も、制度外のサービスをボランティアで提供していたことが始まりです。その現場も見学しました。ある訪問看護ステーションでは、事務所の一角に難病の利用者を預かり、「今日、この人は泊まっていくの」と説明してくれました。「家族を休ませてあげたいから」と。こうしたことは全国で行われていました。訪問看護師たちの新しいサービスを生み出す力に感動したことは忘れられません。

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