CC2014年11月号掲載【『納得の老後――日欧在宅ケア探訪』を上梓】の紹介

〈C.C.Report PEOPLE〉
日欧のケアを通して老後を考える
『納得の老後――日欧在宅ケア探訪』を上梓

 

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村上 紀美子さん Murakami Kimiko

医療ジャーナリスト
1952年石川県生まれ。1975年東京教育大学卒業。日本看護協会の調査研究部を経て広報部長に就任。2004年からフリーランスの医療ジャーナリストとして活躍している。2012年に国際医療福祉大学医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。本誌の隔月連載『コミュニティケア探訪』で、国内外のケアを紹介している。

 

 

本誌隔月連載『コミュニティケア探訪』の筆者としておなじみの村上紀美子さんが、2014年6月、自身の初の単著『納得の老後――日欧在宅ケア探訪』を上梓した。同書は、コミュニティケア探訪に掲載した日欧各地の在宅ケアについての記事を、医療従事者以外の人も読みやすいようにまとめ直したものだ。
同書の基となったコミュニティケア探訪が始まった経緯や同書の見どころなどを村上さんに尋ねてみた。

 

素晴らしい出会いから

 

村上さんは、日本看護協会の調査研究部・広報部を経て2004年にフリーランスの医療ジャーナリストに転身。時間の自由が利く身になった村上さんは「お礼を言いたくて」と、前職で知り合った人を訪ね歩いた。
「行く先々で素晴らしいケアに出会うんですよ。その話を当時のコミュニティケアの編集長にたびたびお話ししていたら、『コミュニティケア探訪』という連載を私に用意してくださったんです」
村上さんは、国内の在宅ケアをテーマに連載をスタートさせた。しかし、村上さんの興味は日本の中だけにとどまらない。日本の医療に大きな影響を与えるアメリカに何度も渡り、病院や高齢者ケア施設、大学などを訪ね、あるときは訪問看護師に同行した。そして2009年、村上さんはドイツに住み始める。
「夫が赴任することになったので、一緒に。ドイツを拠点にヨーロッパの国々をめぐり、ケアの現場を取材することができました」
村上さんは、面白いケアをしている人に会えそうなチャンスがあると、すぐに駆けつけた。言葉の壁があったそうだが、そんな苦労をしていたとは思えないほどにフットワーク軽く飛び回っている。もちろんその間もコミュニティケア探訪の連載は続けていた。
そして、3年間のドイツ生活を終えて帰国。大学院で、コミュニティケア探訪のヨーロッパの記事をまとめ直して修士論文とした。実は、この論文が同書の始まりだ。村上さんは、同書のためにあらためて原稿を整理し直していたときを振り返り「思いのほか苦労しました」と言う。
「この本は医療従事者ではない、一般の人が読むことを前提にしなくてはいけませんでした。下地となる修士論文があるんだから、簡単じゃないかと思っていたんですけど、平易な言葉に直したり、解説を加えたり――これがなかなか難しくて」
村上さんの苦労のかいあって、同書は医療従事者以外でも容易に読める。だが、テーマは日欧におけるケアの実態。医療従事者が読んでも十分に満足できる情報が数多く盛り込まれている。

 

ケアの根本に焦点を絞る

 

同書では、ドイツ・オランダ・デンマーク・イギリス・日本と、国ごとに分けて、医療・福祉制度やそこで行われているケアについて紹介している。説明に終始せず、人物を軸に展開するいつもの“村上スタイル”は同書でも健在だ。
「ケアを提供する人、ケアを受ける人のどちらか一方に話を聞くのではなく、両者の会話を聞きながら理解を深めていくのが私のやり方。会話の中に真実がありますからね」
同書が取り上げているのは、ヨーロッパのケアが大半であり、当然、ケアの背景にある制度や仕組みは日本と異なる。だが、ケアの根本にある人の心持ちや考え方に焦点を絞ってつづられているため、日本でも生かせる内容となっている。
一般の人にとっては、自分の周りの人が老いていくときに、どうかかわればよいか考える手がかりとなり、そして医療従事者にとっては、日々のケアをよりよくするためのヒントとなるだろう。

 

心持ちや姿勢を学べる本

 

ここで、同書の内容のうち、本誌読者にきっと役に立つと村上さんが考える部分を少しだけ紹介する。これは村上さんから本誌読者への小さなプレゼントだ。
「サム アーバイダ――これはデンマーク語で“一緒に働く”“物事をともに行う”という意味。この発想を持つと、気持ちよく援助できるのではないでしょうか」
例えば、着替えのシーンを考えてみよう。着替えをする人が腕を上げ、援助する人が袖を通す。腕を上げることは、些細な動作かもしれないが、その動作があるだけで着替えの援助は格段にやりやすくなる。着替えは両者の“共同作業”の末に完了するといえるだろう。
こう考えられるようになると、援助する人は「私が着替えさせてあげているんだ」という考えを改めることができ、両者は人間的で対等な快い関係を築けるに違いない。
同書には、このような心持ちや姿勢に関するアイデアが満載だ。また、第5章の最後には、村上さんが考える老後の過ごし方がまとめてある。自らの老後の生活を想像するための参考にもなりそうだ。
「医療従事者と一個人、どちらの立場からも納得できる道を探そうとして書きました。ぜひ、読んでみてください。この本は第3回日本医学ジャーナリスト協会賞・書籍部門の優秀賞を受賞しました。身にあまる光栄です。原点であるコミュニティケア探訪。まだまだ続けていきますので、これからもどうぞよろしくお願いします」
(レポート:編集部)

 

→コミュニティケア2014年11月号