CC2014年3月号掲載【“本人のしたいこと”に焦点を当てる 柔軟で融通無碍な「生活リハビリ」〜滋賀県湖北の「訪問看護ステーションれもん」――久木ひろ美さん】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.29〉
【本人のしたいことに焦点を当てる柔軟で融通無碍な生活リハビリ

〜滋賀県湖北の「訪問看護ステーションれもん」

――久木ひろ美さん】

 

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写真1 ‌Kさんのお宅にて。

壁にはご主人とKさんの似顔絵や写真が笑っています(左)

写真2 ‌キーボードを弾くBさんと、歌う久木さん。

リハーサルで生き生きしています

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
身近な超高齢者トリオ。1人はグループホームで健康を取り戻し、在宅老々暮らし組は、ヘルパーさんも訪問看護も卒業して、デイサービスに挑戦することに。私は毎日新聞の日曜版の月1回連載は4月以降も延長になり、楽しく書いていきます。

 ドイツやオランダで感心した「柔軟な在宅ケア」を日本でもいっぱい発見中です。本シリーズ2回目に登場した滋賀県の久木ひろ美さん。定年前に転身し、訪問看護ステーションが足りない湖北地域で「れもん」を立ち上げました。利用者さんに沿った、柔軟で融通無碍な「久木流ケア」を探訪します。

 2013年11月、「世界の訪問看護」をテーマに講演するために長浜市を訪ねた折に、久木さんの訪問看護に同行するという念願がかないました。
穏やかな琵琶湖の向こう岸に、なだらかな山々が重なる美しい景色は感動的。訪問車は山中までも分け入って、点在する利用者さんのお宅へ走ります。

全介助の方が「起きたい」と思えるように

 広くてきれいなバリアフリーのKさん宅をお訪ねしました(写真1)。ご主人がお勤めの傍らKさんを看病しています。朝夕、世話をする畑には元気な野菜が並んでいます。お隣に長男一家が住んでいるので心強いそうです。
Kさんは難病が徐々に進行し、今はほぼ全介助の状態。2つの訪問看護ステーションのスタッフが日曜日以外、毎日訪問しています。私が同行した日は、午後に訪問入浴が入るので、午前中に久木さんが手際よくバイタルチェックと処置。Kさん、ご主人とも、世間話が弾みます。
訪問を始めたころ、Kさんには褥瘡ができていました。久木さんは「寝たきりになれば、褥瘡ができる条件がそろってしまう。本人がもっと起きたくなるようにしなければ」が持論です。
まだ50代と若いKさんなので「せめてきれいな湖北の景色や桜を見せてあげようよ」とスタッフに話し、本人に「そうでしょ?」と聞いたら、「うん」とうなずいたのを確かめて、訪問リハビリも導入しました。
Kさんが先日、胃瘻の交換で半年ぶりに病院に出かけた話になり、久木さんは「久しぶりで、道中つらくなかった?」と尋ねました。“起きたくなるかかわり”のかいがあったのか、移動も大丈夫だったと知ると、「少しずつ起きないとね」と励まし、「どこに出かけようか」と無理なく行けそうなところを一緒に相談しています。
久木さんは前の職場においても、人工呼吸器で寝たきりの人でも、結婚式などに出席したいと言うと、ステーション内のスタッフや理学療法士が一丸となって実行していました。
「そういう計画をすることこそが、訪問看護の醍醐味。訪問看護は処置だけじゃないでしょう」

暮らしに目標を持てると前向きになれる

 次のお宅では、元気な女性が現れ、介護している家族かと思ったら、利用者のBさんでした。若年性パーキンソン病で、リハビリテーション病院から退院してまだ1週間です。訪問看護が毎日入り、身体ケアとして排便のコントロールと、生活支援を受けています。
でもこの日は訪問看護ではありません。翌日、難病の人たちの会があり、Bさんと久木さんは15分間の前座を務めるので、そのリハーサルと打ち合わせのためでした(写真2)。看護師が歌の練習で訪問? なんだか不思議ですが、これには深い看護上の意図があります。
Bさんは、オンとオフの落差が激しい病状です。オンのときは元気に動けるのですが、何かのショックがあると急にオフになり動けなくなります。家では、自分で薬を飲んで病状をコントロールし、ご主人と自分の食事づくりなどの家事をしなければなりません。オンの状態で、できることを増やしていくことが必要です。「そのためには、暮らしの目標があったほうがよい」と、久木さんは考え、Bさんと会に出ることになったのです。
もともと教員だったBさんは、翌日のステージの進行やセリフを用意していました。
「私は、元気そうに見えますが、若年性パーキンソン病で、動けないときは手も足もまったく動かせず何もできません。今日は久木さんたちのサポートで、歌わせてもらいます」
松山千春さんの「大空と大地の中で」を、キーボードを弾き、自分の気持ちを託して歌います。
次は、Bさんの詩の朗読。「精一杯生きています。天国と地獄を何度も何度も行き来しないと生きていけないのです……。人のやさしさに、心からありがとうとお礼を言いたい。今、私が生きているのも、たくさんの人のやさしさのおかげだ」
そして「本当に本当にお世話になっている訪問看護師の久木さんと一緒に歌いたいと思います」という締めくくりの言葉のあとに「花は咲く」の二重唱が響きました。
あるとき久木さんは「私がBさんと一緒に会に出て歌うのは、なぜだと思う?」と、スタッフに投げかけました。「病院から在宅に戻って本人も介護するご主人も大変なときを、会に出るという目標を持つことによって“オンの時間”でつなぐため。これも看護のひとつ」と説明し(言語化)、見えるように(可視化)いつも気をつけているのです。Bさんは病状がコントロールできずにオフの状態になると、苦しくて1日に5回も6回もステーションに電話がかかります。そういうことの予防でもあると。

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■訪問看護ステーションれもん
滋賀県内に訪問看護ステーションは約70カ所あるが、湖北地域には少ないため、長浜市郊外に開設。源内クリニックに隣接するレモンイエローの戸建てステーション。スタッフはベテランの常勤3人、非常勤4人。利用者さんは60人。米原市にもサテライトステーションを置いている。

■久木ひろ美さん(訪問看護ステーションれもん所長)
豊郷病院の副看護部長兼訪問看護ステーションレインボウ3カ所の統括所長を務めた後、現職。修士論文のテーマは「訪問看護管理者のマネジメント能力」。3年前に夫が出張先で倒れ、京都のリハビリ病院で療養。仕事先から病院へ通い、「さあ自宅に帰れる」と準備した矢先、夫は64歳で逝去。「失ったものは大きいけれど、得たものもいっぱい。夫を亡くす人の気持ちがよくわかるようになり、仕事の糧になっています」
趣味は、読書、一人ぶらぶら歩き、歌。

→続きは本誌で(コミュニティケア2014年3月号)


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