「スタッフが離職していくのは自分の能力不足が原因かも」「自分は管理職に向いていない」などと思っている主任・師長の方はいませんか?
『キラリと光る主任・看護師長になるための 人間関係マネジメント術–スタッフ定着を促す技とココロ』の著者・鈴木安名(やすな)先生によると、看護職は総じて自己評価が低く、主任・師長でも管理職としての自分の能力に自信がない人が他の業界と比べてかなり多いとのこと。
「自分はよくやっている。今のままでも十分立派な管理職だ、とまず自己肯定することが大切。その上で、知識を身に付け、ちょっとした工夫をすることで、自分らしさを生かしつつ、スタッフの定着を促し、モチベーションを高めることができます」と鈴木先生は仰っています。
知識を身に付け、ちょっとした工夫をするためのヒントを本書から学んでください。たくさんでてくる事例は、読んでいてつい笑ってしまうようなユーモアあふれるものも。例えば、以下のような感じです。
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Case 「向井ひとみ師長(43歳)の思い」(一部抜粋)
ともかく机に向かっている時間がない。毎日、毎時間、いや10分ごとにいろいろな出来事が起こって、私の仕事は中断されてしまう。
今日、総師長たちは出張で、ミーティングは中止。よかった~。今日中にあの報告書を何とか仕上げれば、明日の締め切りに間に合うはず。
[でも、私の仕事はバラバラ]
「サクションの装置が故障しました」と、ななみさん(4年目)がやってきた。ガラス瓶とゴムのパッキンが緩んでいるのかも、と予想。
やっぱりそうだった。説明の後で「4年目になって、こんなこともわからないの!」って、つい言ってしまって後悔する。案の定、彼女の表情がこわばっていった。ここはフォローしなくちゃ。「報告してくれてありがとう!」
[廊下でも呼び止められちゃう]
病室を出れば、深夜の井上さん(5年目)が待ち構えたようにやってきた。
「○号室の××さん、準夜でせん妄がひどくて、薬の副作用じゃないんでしょうか?」
そういえば、主治医はやたらと処方を変更する人だ。この子は勉強もするし、勘も鋭いから当たっているだろう。将来の主任候補かも。
ナースステーションで書類を点検する。処置の時間帯で誰もいなくなることが多いので、私はナースコールの番人。ナースコールが次々鳴って、書類の点検が進まないわ。
ドクターが病棟に来るのは早くて3時過ぎ。今、研修医が救急で呼ばれたから、1時間は戻ってこないだろう。こんな“無医村”の状態が当たり前だけど、これでも病院といえるのだろうか?
[他部門との板挟み]
6年目の持田さんが赤い顔でむくれてきた。聞けば、放射線技師とやり合ったと。例によって“患者を下ろすのが遅い”と皮肉る、あの技師だ。
だけど、夜遅く病室でポータブルのXPを黙々と撮影してくれるし、腕はいちばんだし。私が行って話をつけなきゃ。またもや板挟み!
[もうこんな時間!]
しまった、会議だった。経営対策委員会なんて、アタシたちに何ができるというの? また在院日数の話でしょ。総師長や院長は数字が大好きだけど、もっと現場を知ってほしい。
ああ、病棟を離れたくないよ~! やばい、5分も遅刻だ。
[私は神様じゃない!]
病棟はホッとするね。そうそう、勤務表の続きをしなきゃ……。
みんな勝手な希望を出してきて、私は神様じゃないよ。でもね、スタッフは本当に頑張っているから、何とかしてあげたい。
そうだ、昨日、愛美さん(中途採用者)から不眠症という診断書が出たっけ。1カ月夜勤は禁止だった。本当はうつ病じゃないの?
また山下さん(5年目)にお願いするしかないか? あの子は人がよすぎるから、どっかで配慮してあげないと……ああ、板挟み!
[この人とは合わないかも?]
桜田主任(46歳)が硬い顔でやってきた。「×号室の△△さんの娘さんからクレームです」って。中身を聞いたら主任が対応できるレベルじゃん。
ぶっちゃけ、この人とは反りが合わない。重症度の高い患者を看るのはいいんだけど、介護度の高いたいへんな患者を中堅や若手に押しつける。で、中堅やプリセプタークラスから不満が出る。
昔はできた人で、若くして主任になれたのに、それから努力をしなくなったそうだ。それに、ぶっきらぼうで場の空気が読めない発言をする。研修マニアでコミュニケーション研修とか出ているはずなのに。
けれど、私より2年先輩だし、なぜか病棟医長とはうまくやってるから微妙だ。でも、これじゃあ師長の仕事が回らない。
看護部から勤務表は主任がつくってもよい、っていう方針が出たけど、桜田さんには人望がないから、結局私がやることになる。
もう1人の若い野田主任はスキルもあって、ほがらかで若手の受けもよい。けど、お勉強嫌い。桜田さんと足して2で割ればうまく行くのに。「天は二物を与えず」って、こういうことか。
[やばい、総師長からの連絡]
PHSが鳴った。うわっ、総師長からだ。もう出張から戻ってきたんだ。なんと、あの報告書の締め切りは昨日だったと。「提出期限を守れないのは、いったい何度目!?」と責められた。
申し訳ありませんと言っても、「言い訳はやめて。時間は自分でつくるものでしょ」「あなたより忙しい○○師長だって期限を守ってるのよ」。最後には「師長の資質が問われる問題」と、とどめを刺されてしまった。
こういう言われ方は何度目かな? 新人の頃から数えれば何百回だろう。でも、涙を流すほど私は若くない。だって、師長だもん!
病棟に戻る。叱られたことをスタッフに気づかれないよう、あえてニコニコする。
[誰にも負けない!]
いろいろ仕事を片づけて、ようやく帰宅しようと思ったら、「師長さん、すいません。○○さん、浮腫がひどくて、ルートがとれないんです」と、8年目の崎田さんがすがりつくような目でやってきた。「ベテランなのに」と思いつつも、「ルートの確保は誰にも負けない!」と、病室に駆けつける。
奮闘の結果、ようやく入った! 崎田さんから「ありがとうございます」と二度も頭を下げられ、家族も「さすが師長さん」とささやいている。うれしい一瞬だ。
でも、スタッフはいいね。最後は師長がいるんだから……っていうか、スタッフからお願いされるばかり。私にはリーダーシップがないのかな? これでも師長といえるのだろうか?
[家では家事が待っている!]
そろそろ帰らなくっちゃ。帰っても家事が待っているから。グチを聞いてくれる夫で気は晴れるけど、それで問題が解決するわけじゃあないし。中1の娘がナースになりたいと言ってくれるのが励みだわ。
土曜日は研修だ。正直、ドタキャンしたい……ああ、もうこんな時間。お風呂に入って寝なきゃ!
布団の中で「今日も1日流された。せめて1日が25時間ならいいのに……あ~、ダメな私」と思っているうちに強烈な眠気が……。
気づけば朝になっていた。
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このような毎日の繰り返しが平均的な、言い換えればほとんどの主任・師長の姿です。
これでよいのです。
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いかがでしたか? 自分と同じだと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
キラリと光る主任・師長になるために、本書をご活用いただければ幸いです。
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