SPECIAL INTERVIEW 医療職・当事者の視点から健康や病いをみる『「チーム医療」とは何か 第2版』が刊行 

細田 満和子さん(ほそだ・みわこ)

星槎大学大学院教授

 

1992年東京大学文学部社会学科卒業。2002年同大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院アソシエイト、ハーバード公衆衛生大学院フェローを経て現職。専門は社会学、医療社会学、生命倫理学、公衆衛生学。著書に『脳卒中を生きる意味』(青海社)、『パブリックヘルス 市民が変える医療社会』(明石書店)など。

 

 

医療社会学者としてのフィールドワークをもとにチーム医療の理念と現実を明らかにした『「チーム医療」とは何か』が、9年ぶりに改訂されました。チーム医療を構成する「4つの要素」とチーム医療がうまくいかない「6つの困難」の考察に加え、第2版では地域・在宅医療への移行、看護の専門性の高まり、当事者の医療参画などの新たな実践を紹介しています。著者の細田満和子さんに、社会学の視点からみた「チーム医療」と本書の読みどころについてうかがいました。

 

■チーム医療を社会学の視点から分析

 

本書はチーム医療を社会学の視点から分析し、それを現場の医療に役立てていただくために書いたもので、2003年に刊行した『「チーム医療」の理念と現実』がもととなっています。当時の論文が雑誌『ナーシング・トゥディ』の編集委員をされていた井部俊子先生(当時・聖路加国際病院看護部長・副院長)の目にとまり連載が始まり、それを書籍の形にまとめました。

 

従来、医療については患者と医療職の非対称性や医療職間のヒエラルキーという見方がありました。しかし実際に医師やメディカルスタッフから話を聞くと、確かに医療職同士のコンフリクトはあるけれど、共に目指すものがあること、それはチーム医療や医療職同士の協働であることがわかりました。その一方で「実際には難しい」という話も聞きました。大切と考えられているのに難しいのはなぜか――。インタビューや参与観察を行い、それが結実したのが『「チーム医療」の理念と現実』でした。

 

日本では1990年代からチーム医療への関心が高まったものの、当時は一部の熱心な人が考えることでした。2000年頃よりいわば「チーム医療の制度化」が進められ、2002年に緩和ケア診療加算が新設され、2010年には厚生労働省が「チーム医療の推進に関する検討会」報告書をまとめました。「地域包括ケアシステム」が展開されるようになり、介護職や福祉関係者も含めた「チーム・アプローチ」の取り組みも広がってきました。こうした状況の変化をまとめたのが、2012年刊行の本書(第1版)です。

 

その後、2015年には「特定行為に係る看護師の研修制度」が始まり、看護の専門職化が急速に進みました。また、私は患者会や当事者の方々へのフィールドワークをしていますが、当事者団体の中には親睦や病院所属の集まりの域を超えて、政策提言や治療・研究への働きかけなどアドボカシー(権利擁護)活動をしているところもあります。同じ病気や障がいをもつ当事者同士で支援するピアサポートも活発になってきました。こうした多様なステークホルダーが参画する医療の現実を反映する形で、今回、第2版を刊行することになりました。

 

■第2版の読みどころ

 

まず、「チーム医療」の4つの要素である「専門性志向」「患者志向」「職種構成志向」「協働志向」から、ご自身の実践をみていただきたいと思います。第7章で「チーム医療ワークショップ」の方法と実例を加筆しているので、実践を振り返り多職種でディスカッションをする材料としてぜひご活用ください。

 

このワークショップでは数人のグループで「多職種連携で患者にとって良い医療ケアができたエピソード」「多職種連携が難しかったエピソード」を話し合っていただきます。そして、どんな要素があったから上手くいったのか、難しかったのかを「チーム医療」の4つの要素を使って分析してもらいます。こんな風に話し合うことで、困難の要因を発見し改善につながるのではと思います。

 

■患者・当事者と共に医療を作り上げる視点

 

また、本書は患者・当事者と共に医療を作り上げることを考えるヒントになると思います。病気になると社会的役割を免除されるという病人役割や、病者・障がい者に対する偏見や差別(スティグマ)があるなかで、患者が自分のしたいこと(就職や就学など)をできるための強力なアドボケーターになるのは医療職だと思います。治療中や闘病中であっても、患者が日常生活を送り、社会参画できるように医療職は応援しています。医療職には社会における病者への偏見や差別を変える役割もあることを読み取っていただけたらと思います。

 

第6章では、チーム医療に病気や障がいのある当事者や家族なども参加する「当事者(患者)・市民協働参画」について解説しています。いま医療の現場では、患者もチームの一員として一緒に課題を解決し治療方針などを決める共同意思決定(SDM)が実践されています。1990年代に「患者の自己決定権」の概念が広まりましたが、一方で患者に情報を与え「さあ、どうしますか」と決断を迫ることは必ずしも良い医療ではないという指摘もありました。話し合いの過程で患者の判断が揺れても丁寧に寄り添うのがSDMであり、患者と医療職との「エンゲージメント」の視点から解説しています。

 

エンゲージメントは、患者が自分らしい人生を生きることができるように、各ステークホルダーがそれぞれの立場から支援し、患者と双方向にかかわり合うことを意味します。こうしたつながりを強め、病気の告知から治療、退院後の生活や終末期に至るまでの「ペイシェント・ジャーニー」(患者の旅路)を理解しながら治療・ケアに当たることが大事だとお伝えしています。

 

■病を持ちながら生きる人を支える

 

高齢社会は病を持ちながら生きる人が多い社会であり、医療職の働きは非常に重要です。また高齢化に限らず、現在の新型コロナウイルスの状況においても医療職への社会的期待は大きく、人々が生きていくうえで大変重要な職種です。医療職自身も病気になる可能性があるなかで、皆さまにはぜひ医療職の視点と患者の視点、そして市民の視点をもちながら本書を読んでいただければと思います。

 

もう一つ、特定行為研修制度やナース・プラクティショナーの検討が進められ、看護の専門性はさらに高度化しています。そのなかで「他の職種の視点」がとても大事だと思います。これまで各職種は医師の指示の下に実践していましたが、これからは看護師も指示をする立場になります。他の職種がそれをどう見ているのか、どうすれば互いを理解しより良い医療になるのかを考えながら、さらなる患者中心の医療に向けて取り組んでいただければと思います。

 

 

新刊情報

「チーム医療」とは何か 第2版
患者・利用者本位のアプローチに向けて

 

細田満和子[著]
B5判 280ページ
定価2750円

(本体2500円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2361-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

著者による解説動画と「チーム医療ワークショップの進め方と分析シート」をホームページに掲載中です。

 

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看護2022年3月号より

 

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