地域ケアの今(25)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

 

看取り介護加算と看取りの実態

文:鳥海房枝

 

高齢者ケア施設に勤務する職員を対象にした、看取りに関するセミナーが全国で開催されています。私も各種団体主催の「施設での看取り」をテーマとするセミナーの講師を引き受けることがあります。参加者は主に看護師・介護福祉士・生活相談員等の専門職です。参加者からは「看取りに取り組むための準備が大変と聞いている」「書類の準備に1年をかけたと聞いた」「何をどのように準備すればよいのか」「必要書類にはどのようなものがあるのか、様式例を知りたい」といった声を聞きます。これは所属施設が介護保険の「看取り介護加算」の取得を考えているためです。

 

そこで私はまず、看取り介護加算の加算額を示します。多くの参加者は、その額の低さに驚きます。行政の指導監査では看取りに関する質問を受け、書類の提示を求められます。「詳しく聞かれ、書類作成も求められるからもっと高額かと思っていた」というのが参加者の率直な感想です。

 

施設での看取りに風穴を開けた「看取り介護加算」

 

介護報酬において、特別養護老人ホームに看取り介護加算が新設されたのは、2006年のことでした。2009年には認知症対応型共同生活介護と介護老人保健施設(ターミナルケア加算)、2012年には特定施設入居者生活介護、そして2015年には小規模多機能型居宅介護(看取り連携体制加算)へと看取りに関する加算の対象が拡大されてきています。この動きは、それらの高齢者の暮らしの場が終の棲家としての役割も担うようにする政策転換でもあります。約8割の人が医療機関で亡くなる状況に対し、それ以外の場でも死を迎えられるよう体制整備を推進したのです。

 

私が勤務していた特養は1998年の開設です。開設準備の際、数カ所の特養を見学しましたが、このころ看取りに取り組んでいた特養は大変まれでした。ある特養では「ここは入居者が死ぬような縁起の悪い所ではない。霊安室は一度も使ったことがない」と、施設長と配置医が誇らしげに説明してくれました。

 

このような考え方に変化をもたらしたのが、看取り介護加算です。誰にでも死は訪れること、死を排除せずに老いて逝くことを肯定的に受け止める第一歩だったと考えます。加算額の多寡はともかく、死を避けてきたこれまでの施設の対応に風穴を開けたことに意義を感じます。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2017年10月号)