認知症高齢者の言動には理由(わけ)がある。あなたを“認知症高齢者が生きる世界”へと誘います!


0616_認知症高齢者の世界_カバー認知症高齢者の言葉や行動に寄り添い、彼らが“体験している世界”へと近づくことで、何を感じ、どのように行動しているかを理解しようと試みたのが、

新刊『認知症高齢者の世界』です。今回は保健師として、また特別養護老人ホーム副施設長として認知症高齢者と向き合ってこられた鳥海房枝さんに、本書を読み解いていただきました。

 

 

 

 

■キーワードは「尊厳」と「安楽」

本書は日本赤十字看護学会臨床看護実践開発事業委員会の活動から生まれました。同委員会は第3期(平成24〜26年度)において、「認知症高齢者のワンセットケアの確立と普及」をテーマに、今後増加する認知症高齢者へのアプローチについて討議を重ねてきました。その成果をまとめたものが本書です。

 

著者の1人である川嶋みどり氏は、認知症高齢者へのケアについて「根底の『哲学の共有』がまず必要ではないかと思われます。つまり、どんな症状であっても、認知症高齢者に向き合うときに決して忘れてはならない看護師の姿勢を支える根底理念です」と述べ、そのキーワードとして「尊厳」と「安楽」を挙げています。この「尊厳」と「安楽」が、本書における“認知症高齢者のワンセットケア”の柱となっています。

 

■「治療的かかわり」ではない看護師の姿勢
本書では、認知症高齢者を“看護の対象者”と位置づける前に、私たちと同じ世界に暮らす“人”として理解しようとしています。そのため、認知症の中核症状や周辺症状にはあえて深入りせずに、しばしば看護師が対応に戸惑う、「お風呂は、はいりません」「うちに帰りたい」「ごはん、いりません」「ごはん、まだいただいていません」「トイレに行きたい」という認知症高齢者の生の言葉をそのままに伝え、そこにある思いや意味を解説しています。例えば、「うちに帰りたい」という言葉は「帰宅願望」と表現する書物が多い中で、あえて認知症高齢者が話す言葉をそのまま表現しています。また、「お風呂は、はいりません」の反応も「入浴拒否」とはしていません。帰宅願望や入浴拒否という捉え方は、すでに支援する側の都合から見た表現だからです。

 

本書では、認知症高齢者を非認知症の世界(正常領域)というこちら側に近づける「治療的かかわり」ではなく、認知症高齢者が見て感じている世界に近づき知ろうとする姿勢と、その実践を紹介しています。つまり、認知症高齢者に「何が起きているのか」「なぜそのような表現や行動をするのか」を、認知症高齢者が生きている世界に寄り添い、入り込んで理解しようとする看護師の姿勢です。これが本書のタイトルである「認知症高齢者の世界」につながります。

 

■理解不能に見える言動にも理由がある
各章では、認知症高齢者の言葉をテーマに、認知症高齢者グループホームでの事例、病院での事例をそれぞれ紹介し、どのように理解してかかわるようにしたか、その過程でどのような変化が見られたかまで詳細に述べています。そして各章の最後で、認知症高齢者の発言や行動に至る背景を研究者が解説する構成となっています。

 

特にグループホームの事例は、認知症の周辺症状で在宅生活困難を理由に入所した例もあり、暮らしに支障がなくなるまでスタッフはさまざまな見方、かかわり方をしています。その過程で、一見「理解不能」に見える発言や行動に、「認知症高齢者本人なりの理由がある」ということに気づけています。

 

また、病院の事例では、膀胱留置カテーテル挿入中の入院患者の「トイレに行きたい」への対応も見事です。看護師の気づきは感動的ですらあり、本書を読み進むうちに目からうろこが落ち、ワクワク感に包まれます。そして研究者の解説は、認知症高齢者が見て感じている世界を読者にわかりやすいものにし、認知症高齢者へのさらなる興味と関心を抱かせます。

 

■介護現場の職員にも読んでいただきたい
私が統合失調症患者の社会復帰訓練事業に携わっていたとき、「あらゆる刺激をむき出しの神経で受けている状態」と表現した患者がいました。「怖くて不安な気持ち」から起こすさまざまな反応は、防衛反応でもあったのです。彼らに対する姿勢として、害を及ぼす人ではないこと、自分を守ってくれる人であること、頼ってもよい人であると認められるようになることが必要で、それが信頼関係の構築につながることがわかりました。

 

認知症高齢者に対する姿勢にも同様のことがいえると思います。例えば、「見守り」「寄り添い」といったかかわり方は、認知症高齢者の世界を知ろうとすることであり、一方で彼らに認められることです。そして、さまざまな反応には理由があり、それがわかると、認知症高齢者が大変いとおしい存在になるはずです。認知症高齢者の発言や行動を理解するために、看護職のみならず介護現場の職員にも読んでいただきたい1冊です。

 

鳥海房枝(NPO法人メイアイヘルプユー事務局長・保健師)

http://meiai.org/index.html

 

認知症3人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書のイラストは著者の1人である堀内園子さんによるもの。堀内さんが描く“認知症高齢者の世界”もお楽しみください!

 

-「看護」2015年9月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –

 

 

認知症高齢者の世界