CC2015年5月号掲載【外国人を含めた包括的な社会サポート 産後ケア・子ども・言葉―ドイツのある街にて】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.36〉
【外国人を含めた包括的な社会サポート

産後ケア・子ども・言葉―ドイツのある街にて

ドイツ語教室 講師――ウタ・ハーマイスターさん】

 

 

文・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
2012年まで暮らしていたドイツでの3年間を振り返ると、いかに多くの人にお世話になっていたかと感謝あるのみ。そして今、日本で見かける外国の人たちが何か困っていないか、日本人と交流できているか、声をかけたくなります。mkimiko@mbf.nifty.com

“地域包括ケア”が盛んに議論されています。健康な暮らしを包括的にサポートするには、多種多様な活動が必要です。それも、外国から移り住んだ人が多いと状況はさらに複雑。外国人はどんなサポートが必要なのでしょう。ドイツで私が外国人として暮らした経験を含めて考えます。
※ドイツ語通訳:内田元子さん

日本は人口減少の時代を迎え、外国人の移住の受け入れが話題となり、また観光で外国から来る旅人も増えています。多国籍の人が一緒にいる社会でお互いに折り合いをつけ、余計な摩擦やトラブルを避ける知恵を考えておきたいところです。

 

私が外国人として2012年までの約3年間暮らしたドイツの小さな街、シュバルバッハ市で外国人が利用できるサポートの一端をご紹介しましょう。ご主人と一緒にドイツに来て2人のお子さんを育てている田中真枝さんと、ドイツ語教室の講師であるウタ・ハーマイスターさんのお二人にインタビューしました。

 

 

産後ケアは訪問助産師

 

 

田中さんには、出産退院後に助産師による家庭訪問を利用した経験と、子どもが通った幼児期の言葉の発達治療について聞きました。

 

田中さんは2人目を妊娠中、上の子の世話もあるので、通いやすい隣の市の産婦人科医院に通院していました。そこで「産後、自宅に訪問してくれる助産師を決めたい」と相談すると、家庭訪問してくれる地元の助産師のリストを渡されました。それを見ながら自分で電話して、出産予定日などを助産師に伝え、訪問が可能かどうかを話し合い、契約するシステムです。

 

出産する場所は、妊娠中に通った医院ではなく、都会にある出産設備の整った病院に決めて、やはり自分で事前に予約し、落ち着いて無事に出産。

 

「産後、契約した助産師に『○日に退院します』と電話をしたら、退院した日か翌日にはその助産師が自宅に来てくれて助かりました」と田中さんは話します。訪問に来た助産師は赤ちゃんと田中さんの状態を確かめ、沐浴の手伝いや骨盤低筋を鍛える体操を指導。「将来の失禁防止になりますよ」と説明つきでした。

 

もし、初産で母親が戸惑ったり落ち込んだりしていれば、気持ちの静まるハーブティーをすすめたり、赤ちゃんの世話を手伝ってアドバイスしたり。助産師はオムツかぶれなどの日常薬の処方もできます。こうした“訪問助産師サービス”は、公的医療保険で10回まで利用できるのです。

 

家庭訪問する助産師は、普段は病院に勤めています。助産師にとっても、病院では見られない地域での母子の様子を知ることは、トータルケア力が身につく貴重なチャンスといえそうです。

 

 

幼児期に言葉の発達を治療

 

 

外国語を学ぶ人にとって、その言語特有の発音は難しいものです。ドイツでは、耳と口が柔軟で発音を習得しやすい幼児期に、“ロゴペディー”(言語治療、スピーチセラピー)が用意されています。このことを、田中さんは上の子の幼稚園で、他のお母さんから教わりました。

 

小児科医の診察を受け、“言葉の練習が必要”という処方箋が出たら、ロゴペディーを行うセラピーに通います。セラピーは毎週1回45分間、言語セラピストとマンツーマンで、発音だけでなく言葉の発達そのものをみます。幼児の興味に合わせて、人形やゲームで遊びながら、家族構成、衣類などの名前や動作などをドイツ語で聞きとる・理解する・話せるようセラピーを重ねるのです。

 

最高60回(約1年)で、医師の診断によっては延長もあり、治療費は公的医療保険で支払われます。

 

言葉を正確に話せることは、ドイツ社会で生活し、教育を受け、働くための土台になります。そのため正確な発音を身につけることに、外国人でも幼いころからこれほど力を入れているのです。

 

田中さんのお子さんもセラピーに通ったおかげで、ドイツ語の発音が本格的です。これなら、ドイツで子育てをする田中さんの「子どもたちはずっとドイツで暮らすことになる。大丈夫かな……」という心配もクリアしていけそうです。

 

 

外国人小学生への援助

 

 

シュバルバッハ市の大きな団地は移民が多く、その近くにある小学校は、生徒の7割が外国人です。ドイツでは、外国人の生徒が一定割合以上になると特別な予算がついて、教師が増員され、1クラスは15〜18人の少人数になり、教師は丁寧に生徒にかかわれるようになります。このように教育を手厚くすることは、落ちこぼれを減らし、また社会に適応できず非行や犯罪に走る子どもが増えるのを防ぐ近道なのです。

 

しかし、外国人が少ない小学校には、特別な予算はつきません。そこに通っている外国人の子どもたちは親が私費で補習を受けさせています。親たちからは「もっとサポートが必要」という声が出ているそうです。

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■シュバルバッハ(つばめ)市
ドイツのフランクフルト市(人口約70万人)の近郊。人口約1万5000人のうち外国人は14.6%、出身国は80カ国に上る(ドイツ全体では人口約8200万人のうち約19%の1570万人が外国人)。小学校が2校、中高一貫校が1校、スーパーマーケットが2店舗。開業医や開業理学療法士が何人かいる。総合病院は隣の市にある。

■ウタ・ハーマイスターさん Uta Hameister
(ドイツ語教室 講師)
炭鉱で働く外国人労働者が多いルール地方出身。幼いころから外国人に親切な母親の姿を見て「言葉に苦労する人たちにドイツ語を教えたい」と思っていた。成人して編集の仕事をし、その後、司書に転じて、難民の子どもに読書をすすめるプロジェクトにかかわり、ドイツ語を教えるように。結婚してシュバルバッハ市に転居。市の広報でドイツ語教室の講師を募集しているのを見つけて応募し、採用された。子ども2人。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2015年5月号)