CC2015年3月号掲載【患者・家族が戸惑い、孤独なときの病院でも家でもない居場所 香港マギーズセンター センター長――ヘレン・ルイさん】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.35〉
【患者・家族が戸惑い、孤独なときの病院でも家でもない居場所
香港マギーズセンター センター長――ヘレン・ルイさん】

 

 

写真3

写真 ‌庭側から見た香港マギーズの全景。
   奥に見える高層ビルが屯門病院

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
2年間楽しく続けてきた毎日新聞の日曜版の連載は、この3月で終了。2月末〜5月に「医療ジャーナリスト基礎講座」を企画しています。参加者募集中。
mkimiko@mbf.nifty.com

がん相談支援の新しい形として知られる、英国のマギーズセンター。2013年、英国外初のマギーズセンターが香港にオープンしました。
アジアの文化の中でどのように展開しているのでしょうか。香港マギーズセンター(以下:香港マギーズ)に興味を持った看護師・建築専門家など数人でお訪ねしました。今回、お話をうかがったのは、香港マギーズのセンター長を務めるヘレン・ルイさんです(2012年3月、5月号参照)。 ※通訳:重松加代子さん

マギーズセンター創案者のマギー・ジェンクスさんは実は、香港生まれ。彼女を直接知る人がいる香港のがん関連の団体が、英国のマギーズセンターのことを知り、香港にも必要ではないか? と考えたのが香港マギーズ設立の始まりです。
医師や患者さんに調査をしたところ、香港にもニーズがあるとわかり、英国のマギーズセンターのサポートを得て、設立に向けて準備を進めていきました。
患者・家族・友人・医療者が、自分で心の整理がつかない状態に陥って戸惑い、孤独で不安になったときでも、安心して居られる。病院でも家でも言えないことを安心して打ち明けられる居場所。そして「また自分で歩いていけそう」と思えるサポートもあるマギーズセンターが、病院でも家でもなく、地域にあれば、と。
場所探しにあたって病院に声をかける中で、2006年、西部地区の中核病院である屯門病院が「協力しましょう」と応じました。
そして準備期間の5年間は、屯門病院の駐車場の端に建てたプレハブで活動を続け、2013年3月に正式オープン(写真)。香港マギーズは、緩和ケアのデイケアセンターの横を通るときに自然に目に入る位置にあります。
香港マギーズの玄関を入るとすぐにキッチンテーブルがあり、その向こうの広い窓からは自然光が入ります。窓の外には水辺とそれを取り囲む緑や遠くの山々が見えます。
そのほかには、話のしやすい小部屋や、ヨガなどができるフロア、泣きたいときはひっそり泣けるトイレ――英国のマギーズセンターの建築基準に沿い、アジアの風情も加味した設計です。
無料で利用できる香港マギーズには、さまざまな方が来訪しますが、比較的多いのは高齢者だそうです。来訪者数は、最初の1年目は延べ1万6300人。2年目は1割ほど増えそう、とのこと。
来訪者には、まずナースが「どうしましたか」と声をかけてアセスメントを開始。本人に必要なことを自然に提供する姿勢を大切にしながら、病気や治療の問題にはナースが、心理面からの対処が必要な方には臨床心理士が対応します。
英国と違い、香港の人にとっては「臨床心理士の面接を受けることは重大な病気」というイメージが強いので「カウンセリングを」とあらためて言わず、来訪者の様子をみながら、部屋の片隅などでさりげなく話を進めることが多いそうです。また、家族と一緒に話したり、グループカウンセリングをしたりする際は小部屋に移ります。

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■香港マギーズセンターのスタッフ
英国のマギーズセンターの基準に倣い、がん専門ナース・臨床心理士・ソーシャルワーカーが各2人配属されている。彼らは英国のマギーズセンターでオリエンテーション・トレーニングを受けた。そのほかに数多くのボランティアがおり、マネジメントや事務を行っている。
■ヘレン・ルイさん Helen Lui
(香港マギーズセンター センター長)
以前の職場は自死予防センター。センター全体では成果を上げていたが、自死防止が困難だったのが、がん患者さん。がんと診断されただけで、人生に希望を見いだせずに絶望し、自死を選んでしまう人もいた。ヘレンさんは「なんとかするには、自死予防センターとは別のかかわりが必要?」と考えていたときにマギーズセンターから誘いがあり、「これが私の使命だ」と感じた。医療ソーシャルワーカー。

→続きは本誌で(コミュニティケア2015年3月号)