CC2014年5月号掲載【コミュニティケア探訪】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.30〉
【精神疾患を伴う人への柔軟ケア

利用者との“やったー感”が楽しくて

〜滋賀県湖北の「訪問看護ステーションれもん」

――久木ひろ美さん その2】

 

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■久木ひろ美さん(訪問看護ステーションれもん所長)
看護短期大学を卒業し、近江学園(児童福祉施設)で勤務した後、結婚を機に豊郷病院へと転職。外来を経験した後、訪問看護ステーションレインボウ3カ所を次々に開設する。2012年、定年を前に退職し、訪問看護ステーションの少なかった滋賀県湖北地方で開業。2013年には米原にサテライトを開いた。これからは、暮らしを支える訪問看護の技を、後輩に伝えていきたい。
民生委員をしていた父のところには、悩みを抱える人がいつも話しに来ていた。その父の姿が自分のルーツと思う。

 

 

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
身近な高齢者トリオが落ち着き、私は仕事に励んでいます。私が編者となった『患者の目線―医療関係者が患者・家族になってわかったこと』(医学書院)は、20人の貴重な体験談が満載でおススメです。

 認知症やうつ病など精神疾患を伴う訪問看護の利用者さんは大勢います。どのようなケアが効果的なのでしょうか。滋賀県の「訪問看護ステーションれもん」の久木ひろ美さんたちは、精神科訪問看護の経験も豊かです。その柔軟なケアを、前回(2014年3月号)に続き探訪します。

 20年前に初めて訪問看護ステーションを立ち上げたときから、久木さんは精神科訪問看護にずっと携わってきました。久木さんは、もともと精神医療に定評のある豊郷病院で外来師長として患者さんにかかわってきたので、そのころすでに「これからは地域でメンタルヘルスの支援が絶対に必要になる」と見込んでいたのです。
精神科訪問看護についての久木さんの考え方を紹介します。

 

  • 病院で治療を受け、病状が安定した方が退院されている。精神に障害があっても生活していけるように支援するのが、訪問看護の役割
  • 呼吸器疾患・心疾患・精神疾患など、病気や障害は違っても、訪問看護のベースは生活なので原則は共通。疾患の特徴を理解して、もし怠薬などによって精神症状が悪化したら、病院と連携をとって早期に解決すればよい
  • 精神科は看護の基本であり、多くの看護理論家を生んだ。処置中心の看護とは別の奥深さがある

久木さんたちの訪問看護は柔軟ですが、ケアを組み立てる軸はぶれません。①利用者さんが抱えている課題をどうしたら解決できるか、②科学的な推論に基づく看護で効果を出してQOLをよりよくする、という2つの軸で行動しています。

さて、どのように展開するのでしょう。れもんの訪問看護の利用者さんの話を聞きました。

 

ケース1 認知症一人暮らし
その人に合わせて支える

 

失認があるAさんは、字は読めますし、会話のときは話もかみ合いますが、実はAさん自身は言葉の意味をきちんとわかっていないため、混乱してしまいます。
例えば、洗濯機を見ても、これが何であり、どうやって使うものなのかわかりません。でも、誰かが手を貸せば洗濯機を回して、自分で洗濯物を干して取り入れることができます。ゴミ出しも1人ではできませんが、ヘルパーが手伝って分別したものを、デイサービスのスタッフが迎えのときにゴミ収集所に出してくれます。このように誰かがそばで少しの手助けをすれば、住み慣れた自宅での生活にはそんなに不自由はありません。玄関や家の掃除などは1人でできます。
Aさん自身は、いろいろなことができなくなっているという自覚がないためにサービス利用が難しく、訪問看護師は離れて住む娘さんと相談しつつ工夫を重ねてきました(契約や費用のことは娘さんがしています)。
訪問看護については「一人暮らしの人の所を回っています」と説明したら、受け入れてもらえました。デイサービスは「Aさん、ぜひボランティアに来てください」とお願いし、Aさんは「それなら手伝いましょう」ということで通っています。「お昼になったから、じゃあご飯を食べていって」といった調子です。
あるとき、Aさんは道に迷って道端に座り込んでしまったのですが、そこを通りかかった近所の人が「帰ろう」と声をかけて連れて帰ってくれました。娘さんが近所の人に事情を話していたので、何かと気をつけて、さりげなくサポートしてくれるのです。
Aさんは、とても落ち着いているときもありますが、1人でいるときに、ふと「自分はどうなっていくのかな」と不安になることがあります。
不安になると、Aさんはあちこち電話をかけま
す。それも電話のかけ方を忘れているので、直前にかけてきた人に折り返すだけです。そのため、夕方に担当の訪問看護師がAさんに電話すると、その後でAさんからの電話が何度も入るということもありました。
担当訪問看護師も大変です。それでも、Aさんが自分の落ち着く自宅で自分流に暮らしていけるように、工夫しながらずっと支えました。
そして、「頑張っていたAさんの一人暮らしも、いずれは限界のときが来るだろう」とAさんにかかわる皆で話し合い、地元にできた地域密着型特養に入居しました。Aさんは今、そこにとても馴染んで、夜も安心して眠れています。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2014年5月号)