CC2014年1月号掲載【家庭医は“全科診療”の実力を備え多職種チームケアで息長く イギリス・リーズ市郊外の日本人家庭医療専門医—— 澤憲明さん】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.28〉
【家庭医は“全科診療”の実力を備え多職種チームケアで息長く

イギリス・リーズ市郊外の日本人家庭医療専門医—— 澤憲明さん】

 

写真1 診察風景

写真1 ‌イギリス中部の古都リーズ市郊外にある「スチュアートロード診療所」にて、澤医師(右)の外来診療

 

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写真2 ‌同診療所にて。看護師(左)も診療室を持ち、日常的・基本的な外傷ケアや慢性疾患の定期的管理を担当。禁煙・避妊などの専門外来も行う

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
昨秋は日本にいながらにしてフランス・イギリス・オランダ・デンマークのケアと教育を学びました。滋賀と石川への旅では地元のケアに感動! 今年は、日本と世界と織り交ぜてご紹介します。 mkimiko@mbf.nifty.com

 

これから“在宅ケア重視”へと進む日本。かかりつけ医・総合診療医が重要になります。それはどのような役割なのでしょう? 前回の“ドイツの家庭医”に続き、今回はイギリスで家庭医療専門医として活躍する澤憲明さんに聞きました。

イギリス中部にある落ち着いた古都リーズ市郊外の小さな町・ポンテフラクトには、人口約3万人に対して家庭医診療所が3つあります。その1つ「スチュアートロード診療所」が、澤さんの職場です(写真1)。ここは5人の家庭医によるグループ診療で、登録している住人は約8500人。その人たちから連絡があれば、何でもまずは診て、多職種連携チームで対応します(写真2)

 

全科診療プラス医療以外の相談も

 

家庭医は全科診療を行うので、内科・外科・小児科・精神科・整形外科・老年科……何科の問題でも、まずは対応します。平日の外来は8時から18時。患者さん1人につき10分の対応です。
慢性疾患の患者さんは予約しての受診ですが、急性の健康問題は当日に連絡して受診できます。家庭医の1人はオンコール(日直)当番として、予約がない急性の健康問題や緊急度の高い場合に対応します。
患者さんの日常的な病気や健康問題への対応、全人的・包括的な診療を行い、高度な検査や治療が必要なら専門医や病院に紹介します。緩和ケアや認知症なども、家庭医と多職種・専門医などが連携してチームとして対応していきます。
患者さんが持ち込むことは、医学的問題以外でも相談に乗ります。夫婦仲の問題、精神的・社会的問題、予防や健康増進、介護や生活支援なども、地域看護師や理学療法士・作業療法士、養護教諭など数多くの職種と協力して、チームケアで対応するのです。
例えば、7歳の子どもの母親が「この子はスナック菓子やジャンクフードばかり食べて、私が工夫してつくる料理を食べてくれません。下の子もまねして食べなくなってきました」と涙ながらに訴えてきたときは、子どもの通う学校の養護教諭に連絡して、学校で“食事”について話してもらうという解決策をとったそうです。

 

孤立には“社会的活動の処方”

 

生活支援や介護サービスにつなぐことも家庭医の役割です。「薬の処方のように“社会的活動の処方”もよくしますよ」と澤さん。“社会的活動の処方”とは、地域の中で人と人をつなぐような活動のことをいいます。

例えば、「あちこちが痛い」と訴えの多い80代の女性を自宅で診たとき、女性はせきを切ったように話し始めました。それを聞いて「孤立していて寂しいのではないか」と判断し、地域の散歩クラブやランチクラブなどの“社会的活動の処方”をしたら、痛みの訴えはなくなったそうです。
また、健康増進や予防に関して、澤さんは「移民や虚弱な高齢者などサービスが必要な人ほど、自分から求めてこない傾向があり、こちらから“探しに行く”ことが必要です」と話します。同じような言葉は、イギリスの地域看護師も言いますし、これは日本の保健師活動にも通じます。
こうして、患者さんの受診内容のうち、家庭医チームの一次医療で対応できるのが96%、二次医療は3%、三次医療に回るのは1%といわれています。
オランダ・デンマーク・ドイツでも、イギリスと同じように、家庭医は家庭内の問題や離婚相談なども含めてかかわり、健康問題の9割は家庭医で対応しています。それでこそ家庭医なのでしょう。

 

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2014年1月号)