「よい看護」の現場を もっと見せていこう

文と写真:錢 淑君

(INR日本版 2012年秋号, p.107に掲載)

 

chinaskill

天津市で行われた全国職業学校競技大会にて各国の学生が交流を深めた。写真は千葉大学看護学部の学部生たち(中央2人)と、カナダの学生たち。

 

中国の教育部部長(文部科学大臣)袁貴仁は、中国政府と国連の教育科学文化機関が共同主催した第3回国際職業学校競技大会の開会式の中で、中国が今後「人口大国」から「人間資源大国」に転換するためには、職業教育が重要な役割を果たすと述べています。

 

2012年6月26〜29日、天津市における一大行事として、全国職業学校競技大会が行われました。国際的な職業教育の水準を目指して、今年度は50あまりの地域・国から、さまざまな団体が集まりました。

 

看護の部では、中国光華科技基金会看護基金の主催で、中国国内の5つの看護学部(北京大学、地元の天津医科大学、東北地方の哈爾浜医科大学、西部にある寧夏医科大学、南部の広東省にある南方医科大学)と、イギリスのGlas­gow Cal­e­do­ni­an University、 Ste­phen­son Collegeおよび、カナダのMount Royal University、そして日本からは千葉大学看護学部が招聘され、心肺蘇生法と患者への教育指導という、2つの技術と知識について交流が行われました。

 

中国国内の職業学院に所属する看護学生の競技内容は、15分間にバイタルサイン測定と心肺蘇生法を行い、心電計の電極を装着し、最後に点滴静脈注射を実施するという、一連の業務の速さと正確さを競います。

 

審査委員は現地の大規模病院に勤めるベテラン看護師でした。2004年の中国国内の医師と看護師の比率は1対0.61(日本は1対4.16)で、つまり他の先進国とは反対に医師より看護師のほうが少ないという現状です。臨床に出た際、医師の指示をどれだけ素早く、正確に実行できるかということが、中国の看護師にとって差し迫った学習目標であることも理解できるでしょう。

 

大会3日目の午後は、招聘された大学教員が自分たちの教育内容を紹介するセックションがありました。イギリスとカナダはそれぞれの大学の概要、教育課程を中心に紹介しましたが、筆者は中国と日本の看護における考え方の相違点を提示したいと思い、一緒に参加した千葉大学看護学研究科の斉藤しのぶ准教授と話し合って、「看護教育における看護技術の位置づけ」というテーマで臨みました。

 

看護技術を単なるハウツーではなく、科学的根拠に基づく専門的な判断の下で行える思考力を育てるためには、理論が不可欠です。看護技術は相手のために行うことが大前提であり、それにはどのように対象を見つめるかをまず学習しなければなりません。

 

医学との一番大きな違いとして、看護は対象の持っている力を見極め、よりよく生きるために、個人に合った生活を改善・調整し、支えていくことを重視します。したがって学生は入学当初から健康的な生活や人間であることについて学習し、24時間の自らの生活でそれを検証し、客観的に自己評価することが、看護技術学習の礎となるのです。

 

プレゼンテーション後、何人もの教員と学生から、「今後積極的に交流していきましょう」との申し出や、中身をもっと深く知りたいので、連絡先がほしいとの要望がありました。

 

この大会から約1カ月後に、日本学生支援機構のショートステイ・プログラムで、北京大学看護学部から2名の学生が千葉大学看護学部を訪れました。その1人で現在、病院実習の段階に入っている3年生の学生は初めての来日した。オーストラリアに行ったことがあり、台湾の6大学の医学部学生との交流経験もありました。

 

プログラムに参加した当初は、将来オーストラリアで働きたいと述べていましたが、日本で多くの施設を見学し、プログラムを修了した後は「日本の医療施設で働きたくなりました」と語っていました。もう1人の学生は「人間性を大切にする看護を勉強できてよかったです」と感想を残しました。これまで受けた学習には、いかに対象を見つめ、寄り添い看護するか、という発想はあまりなかったそうです。

 

このように「看護とは」を考えることがまだ確立されていない地域や国では、まず目の前の業務を行う能力を高めることが優先されます。しかし国や民族が違っても、人との関わりへの思いや感情は同じです。異国の文化や環境で育った若者でも、それまで知ることのなかった「よい看護」の現場を見せられれば、心が動かされるのです。

 

これは、日本の看護が国際化する一つの利器だと思われます。

 


ちぇん・しゅちゅん

台湾出身。千葉大学准教授。1984年に同大学看護学部に入学、90年より国立成功大学講師、2004年博士号取得後、2004~2012年3月まで、宮崎県立看護大学准教授。現在、千葉大学看護学部准教授。



コラム「海外でくらす、はたらく。」(INR 158号)

“異邦人”看護師7人の日々を、誌面とWebで紹介


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