ニーズ変化に応じて学びは続く地域公衆衛生専門家の教育と再登録制度 ——シティ大学ロンドン ロス・ブライア教授(その2)

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
涼しげな秋風とともに腰椎手術後のリハビリも進み、国内での活動、再スタートです。手はじめは「ニューヨークの在宅ケアとスピリチュアル自主勉強会」やオランダのBuurtzorg・ヨス代表の来日講演会。
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英国の看護教育は、教育時間が理論と実践で半々バランス、教員も理論と実践の力が求められます。そして仕事に就いてからもニーズの変化に対応すべく知識・技術を学び続け、数年ごとの再登録制度が待っているのです。前回に続き、シティ大学ロンドン(写真1)で、地域&プライマリケア看護が専門のロス・ブライア教授と仲間たちのお話です。(通訳は医療専門の重松加代子さん)

 

理論と実践をつなぐ実践教員の知恵と技

「理論と実践半々バランスの教育」に大きな役割を果たすのが、実践の場の教員たち「メンター」や「実践教員」です。シティ大学ロンドンのチャリティ・アニカさん(写真2)は、スペシャリスト実践教員として、「学生が患者さんの現実の状態に接するときに、学校で学んできた理論と実践が離れないように結びつけることが、私たちの役目」と言い切ります。
●社会人学生に合わせた個別教育
実践教員は、それぞれの学生に合わせて教育プログラムを立てます。というのは、学生の多くはすでに看護師として働いており、さらに学んで地域看護師や学校看護師、ヘルスビジターの資格をとって指導的役割に進むために、大学に来ているからです。そういう学生は「私たちはもう仕事ができるので学ぶことはあまりない」と思いがち、という難しさがあります。
そこで実践教員に必須なのは「ファシリテート能力」。つまり、学生個々の力やニーズをアセスメントし、どの段階でどの現場で何を教えればいいかを判断し、学生がゴールを達成する手段を見つけ出せるようにガイドし、サポートするのです。
アニカさんは、学生に答えを与えるよりも、学生が考えていけるように「あなたはどう考えますか?」と聞くことを大切にしています。
「私にも強みがあり、弱みもあることを隠さず、わからないことは学生と一緒に探っていきます」
学生と教員の間で、互いを受容して理解し、尊敬し合えたときに最も学習が進む――アニカさんの経験知です。
●うまくいかない場合も想定して対策
教育は、人と人の間で行われる生モノ。いつもうまくいくとは限りません。さまざまな葛藤や問題は、あるのが当然。でも学習への支障にはならないよう、対策も想定しておきます。例えば、
・‌学生と実践教員の性格が合わない:大学側教員と相談して対応。担当教員を変えることも。
・‌文化背景・価値観・信念が違う:互いの違いは教育に支障がない範囲で許容。支障があれば、その都度対応。例えば“すべてを教えてもらいたい”という受け身文化の学生には“学生が自分でリードするよう”に方向づけする。
・‌学生が「教師よりも高い知識レベルを持っている」と思い込んでいる:「今は、新しいことを学びに来ている」ことの再認識を促す。
学生も実践教員も仕事を続けながらの教育なので、職場の制約が厳しく、過重負担になります。アニカさんは「実践教員としては、どういう状況であれ、自分のありったけの知恵を絞って、学生の学習をサポートしなければなりません」とキッパリ。こうした実践教員が知識・技術をアップデートできるよう、シティ大学ロンドンは最大限のサポートを惜しみません。

 

社会のニーズ変化を反映し実践に必要なことを教育

ブライア教授は言います。
「基礎教育は、専門の道に進むための入り口に過ぎません。卒業後も生涯を通してずっと学び続ける継続教育が重要――これは看護系も医系(囲み1)も同じです。教育内容は、養成する職種の仕事の目的を反映します。対象となる人々が社会背景や人口動態の変化によって変わる中で、患者さんたちの背景やニーズが変化し、保健医療の仕事も変化するのに伴って、教育も変えていかなければ社会に貢献できません」

→続きは本誌で

 

■英国の看護教育と資格制度:2013年の変化
義務教育:従来は16歳までだったが、18歳の高校卒業までになる。
看護教育:高卒後3年間の教育で、看護師(パート1:成人看護・小児看護・精神保健看護・知的障害看護の4種類)あるいは助産師(パート2)の資格を得る。これまでは専門学校も残っていたが、2013年にすべて大学教育に。
看護師あるいは助産師が、さらに1年間(働きながらのパートタイムだと2年間)学んで地域公衆衛生専門家(パート3:ヘルスビジター・学校看護師・地域看護師の3種類)になる。

■看護系教員は4種類
看護教員は、①現場で働くすべての人、②メンター、③実践教員、④教員(教授・助手・講師など)の4種類。このうち学校所属は④教員だけで、前三者は実践の場で働いている。教員の種類やコンピテンシー・教育・行動規範などは、すべて看護師助産師協議会(NMC:Nursing&Midwifery Council)が定めた全英共通の基準に基づいて運用される。

 

■【囲み1】英国の家庭医〜教育・試験・再登録制度

英国民はすべて家庭医(Family Doctor=General Practitioner)に登録して、まず家庭医を受診して、必要時は病院に紹介される仕組み。家庭医と地域看護師や助産師などのプライマリケアチームが、赤ちゃんからお年寄りまでの初期医療を一手に引き受け、重大な疾患は見逃さない。
かつては登録だけすれば家庭医になれた。1960年代には家庭医療専門医の試験を導入(希望者のみ受験)。2007年からは、研修プログラムを修了し、家庭医療専門医試験が必須の免許制となった。家庭医協会(Royal College of General Practitioners=RCGP)が認定登録を行う。
●医学部での教育(5年制)
高校卒業後、医学部進学には全英共通試験(GCSEs)で数学・英語・理科を含む6教科で最高ランクが必須。そして適性や素質(傾聴、コミュニケーションスキル、口頭説明での理由づけ、意思決定など)をみる「英国臨床適性試験: UKCAT(UK Clinical Aptitude Test)」が普及中。
●医学部卒業後の臨床研修(基礎2年+後期3年+試験)
・‌基礎研修2年間:医師としての基礎となる病院や専門臨床分野での実務研修。後期の専門医研修への橋渡し(基礎研修のプログラムが参照できるホームページ http://www.foundationprogramme.nhs.uk)。
・‌後期専門研修3年間:家庭医コース希望者は、定員の2倍にのぼる。6カ月ごとにローテーションで経験する。18カ月は病院で指導医がついて3科(一般内科・救急・小児科・精神科・産婦人科・緩和医療科などが推奨される)を経験。後の18カ月は家庭医3カ所で研修する。ここで“家庭医トレーナー”がついて、家庭医としての知識・技能・職業的態度が叩き込まれる。
●家庭医療専門医試験
筆記試験(3時間で200問)、臨床技能のアセスメント(模擬患者に診療10分ずつ13人)、職場基礎のアセスメント(毎日の臨床活動や、患者・同僚・指導者からの評価など、詳細に記録)。
●医師の資格再登録制の開始近づく
5年ごとの医師免許再認定制が、2014〜15年ごろにスタートする予定。過去の医療事故や不祥事の反省からとられてきた対策(事故や不祥事を起こした家庭医の再教育=家庭医復帰プログラムなど)の延長線。
※‌「国際家庭医療セミナー」での、英国家庭医療専門医・澤憲明氏の講義を加味させていただいた。

 

-「コミュニティケア」2012年11月号「コミュニティケア探訪」より-

 

→コミュニティケア2012年11月号


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