理論と実践の半々バランス英国の地域ケア専門家の教育 —— シティ大学ロンドン ロス・ブライア教授(その1)

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)

 

日本に戻って大忙し。6月は腰椎椎間板ヘルニアで内視鏡下手術。続いて兵庫県西宮市で、一戸建てに住む88歳の独居の方の在宅介護の調整に苦戦。そんな中、連載を読んだ神奈川県の読者が欧州視察に行くという知らせに大喜びです。ご感想はmkimiko@mbf.nifty.comへどうぞ。

 

 

地域で働く専門家の教育は、各国でどんなふうに行われているのでしょう? 教育は働き方にも影響しているでしょうし、日本との違いも知りたいところです。

 

地域で働く専門家の教育について、英国・シティ大学ロンドン保健科学部のロス・ブライア教授、ジャニス・クリスティさん、チャリティ・アニカさんにお話を聞きました。ブライア教授の専門は地域&プライマリケア看護です。

 

※英国の地域ケアについては、本誌2010年3月号42ページ、9月号62ページ、2011年11月号62ページを参照。
※英国(グレート・ブリテン)は、スコットランド・ウェールズ・北アイルランド・イングランドの4つの地域に分かれている。地方分権が進み、地方ごとに看護教育にもかなり違いがある。本稿は「全英共通」と注記した以外は、主にイングランドの教育。
※シティ大学ロンドンの取材は2010・2011年と2012年の1月。

 

団塊世代の大量退職に備え、地域ケア専門家の教育を増強中

 

日本はもちろん欧米各国で「病院での治療期間は最短にし、できるだけ在宅ケアに移行」の動きは強まるばかり。地域で働く職種に、大きな期待がかかります。中でも英国は、地域医療の老舗。地域看護師は150年以上も人々の健康のために活躍してきた歴史があり、女王のバックアップを得て「クイーンズナース」と呼ばれてきました。

 

その地域ケアを支えてきた団塊世代が、退職の時期を迎えています。5年後には人材不足に陥ることが懸念され、その対策として、英国は今、地域・公衆衛生教育を強化し、学生を毎年100人規模で増やしているところです。

 

英国の教育方法の日本との大きな違いは、実践を理論と同じ重さで重視すること! 教育時間は、実践と理論が50%ずつ。教員も、理論と実践両方の力が求められます。

 

英国での地域公衆衛生専門家の種類と教育は?

 

英国での教育はどんなふうに行われているのか? ブライア教授の話は、ゼロ歳から始まりました。

 

「子どもの教育は、学校に上がってからと思うかもしれません。でも公衆衛生的視点で考えると、生まれてから3歳までは脳の発達に特に重要な時期ですから、教育の面からも力を入れるようになってきました」

 

3歳までに脳の発達を促すにはどんな刺激がよいか、親が質のよい子育てをするには親をどうサポートするか。そのため、子どもが生まれると(病院や助産院からの連絡を受けて)出産後2週間以内に、全員に家庭訪問して子育てサポートが始まります。そこで活躍するのは、地域公衆衛生専門家の1つである「ヘルスビジター」です。

 

地域公衆衛生専門家の資格は、看護師あるいは助産師の資格を持つ人がさらに学んで取得します。3種類あり、それぞれに違う役割があります。

 

○ヘルスビジター:Health Visitor

健康問題を予測して、家族の健康と幸福度を向上する予防活動を担当します。保健センターに勤務したり、自分のクリニックを持って家庭訪問するのです。「ヘルスビジターの活動により、親子の健康や幸福度が増進された」という研究結果から、英国政府はヘルスビジターに着目し、2015年までに大幅に増員する計画です。

 

○学校看護師:School Nurse

学校看護師の仕事は、児童虐待(アセスメントして早期対応)、学校全体の健康増進、健康的な食事やライフスタイルなどの全国キャンペーン、予防接種、危険な薬物や性行動の防止指導、特別なニーズを持つ子どもへの個別ケアも行います。

 

地域内のいくつかの学校を巡回して活動することが多いのですが、1つの学校に常駐する場合もあります。看護師も学校で働きますが、学校看護師になると、学校全体の健康増進のリーダーになれます。

英国政府は「ヘルシーチャイルド政策」に力を入れており、5歳以下のことはヘルスビジター、5〜19歳は学校看護師が分担します。

 

○地域看護師:District Nurse

地域看護師は、在宅ケアが中心で、緩和ケア・創のケア・健康増進・家族介護者のサポート・高齢者ケア・慢性疾患のケアなど広く対応します。病院から早期退院して地域ケアへという政府の方針のもと、地域内でリーダーシップをとり、地域で働く看護師のスーパーバイズができ、クリニックを開くこともできるのです。

 

理論と実践半々の教育スケジュール

 

看護系職種の資格登録や仕事・教育の基準策定は、NMC(看護師助産師協議会)が行っています。NMCは看護系職種の実践能力を重視し、教育については理論時間50%、実践時間50%を求めています。さて、実際はどんなふう?

 

シティ大学ロンドン保健科学部の「ヘルスビジター・学校看護師・地域看護師1年間集中コース」は、地域公衆衛生専門家になるため、看護師や助産師が働きながら学べることが特徴です。1年間と2年間を選べます。

 

1年間、52週集中コースの学習スケジュールを聞いてみました。

 

○‌9月(入学)〜翌年6月:週2日は実習先で“実践教員”の監督付きで実践を、週3日は大学で理論を学びます。途中12月と3月に評価を行い、個々の学生が伸ばすべきことや修正すべきことをフィードバック。

 

○‌6月の評価:監督付き実践が修了する6月には、実習先で“実践教員”が合否判定。これに合格すると独り立ちして、次のステップへ進みます。

 

○‌6月〜9月:大学での理論学習は修了し、週5日すべて実習先で実践を学びます。この時期は、学生が少数の担当ケースを持って、それまでに学んだことの統合実践です。最初は“実践教員”の監督が少し入りますが、「この学生は1人で大丈夫」と見極めたところで監督を減らしていき、学生が自分でマネジメントしていきます。

 

○‌9月の評価:修了時点の9月に最終合否判定。学生が自律して、担当患者に対して安全で効果的な活動ができたかどうか、実習先で“実践教員”が評価を行います。合格すると晴れてNMCに登録され、資格を得られるのです。

 

このように、理論と実践をまさに並行して学ぶスケジュールでした。

「実践では、理論で学んだことを応用するように。理論では、実践で経験したことをしっかり意味づけできるように」というわけです。さらに論文を書くときは「実践で経験したことに基づいて書くように」と指導します。まさに「理論は実践に活用されるべき、そして実践からの学びを理論は反映すべき」というわけです。

 

教員は4種類理論と実践能力をキープ

 

理論と実践が同じ重さの教育は、どんな教員が担うのでしょう?

 

→続きは本誌で

 

 

 

 

■シティ大学ロンドン保健科学部の概要(City University London School of Health Science)

公衆衛生関係を網羅する大規模な伝統校。 3つのキャンパスで、看護基礎教育(小児看護・成人看護・精神看護)や、助産師・地域看護師・ヘルスビジター・学校看護師・音楽療法士・眼鏡士・ST・放射線技師・保健政策のコースなどを開講。修士コースも多数。


■看護師助産師協議会(NMC)

看護師助産師協議会(NMC:Nursing&Midwifery Council)は看護職種の登録を行う民間機関。各職種に求められる実践能力やコンピテンシー、行動規範、臨床ケアの質などについて、全英共通のスタンダードや資格登録に必要な基準を設定。専門看護師として、処方やNPなど約30の資格を認定(2009年)。看護教育機関はみな、NMCの基準を満たす看護系職種が卒業できるよう教育を行う。学校が基準を満たさないと、登録を取り消すなど強い権限を持つ。http://www.nmc-uk.org/

 

-「コミュニティケア」2012年9月号「コミュニティケア探訪」より-
 
 


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