@wnursing せかいのつぶやき #04「看護学生による胎盤写真投稿事件」

text by Yumi Fukumoto

 

「Twitterのタイムラインを見て、最新のニュースを知ることが増えた」というツイートを目にすることがあります。国内のテレビや新聞が伝えない外国のニュースでは、それをいっそう実感します。今年の新年早々、アメリカの看護師たちの間で、ある出来事に関するツイートが飛び交いました。始まりは、ニューヨークの登録看護師Amy Drouin(@holisticnurses)さんの1月2日のツイートでした。

 

「看護学校にはソーシャルメディア・ポリシーが必要。RT @msnbc_health: 看護学生が胎盤の写真で退学」

 

このツイートに記されたリンクは、昨年12月30日のカンザス州でのニュースの内容で(今はアクセス期限切れ)、これをThe Wall Steet JournalThe Huffington Postなど、多くの有名ニュースサイトが次のように報じました。

 

「Johnson County Community College(カンザス州)の学生Doyle Byrnesさんは、5月に卒業して秋には登録看護師になる予定だったが、授業で用いた胎盤の写真をFacebookに投稿したことを理由に退学処分になった」

 

退学になったのは4人でしたが、裁判を起こしたのはByrnesさんのみ。The Wall Street Journalのサイトには次のように述べられています。

 

「12月23日に州の地方裁判所に提出された訴状によれば、Byrnesさんは、写真は学校のポリシーを侵害してはおらず、教官の許可を得て投稿したと主張している。しかしカレッジ側は、“許可しておらず、インターネット上に投稿することは知らなかった”と声明を発表した。

 

問題の写真は11月10日、匿名のドナーから提供された胎盤を用いて、胎児に栄養を与える臓器を学習する授業で撮られた。訴状には、匿名性を侵害してはいないとある。また教官は、学生から胎盤の写真を撮ってよいかと尋ねられた時、“Oh, you girls”と言っただけで、その後、4人の学生が写真を撮った際に制止も警告もしなかった。

 

そしてByrnesさんは胎盤を持った自分の写真をFacebookに投稿したが、3時間後に教官から求められてすぐに削除。翌日、Byrnes さんと他の3人の学生は退学となった。訴状には、判断を誤ったとする謝罪の言葉と、退学にしないでほしいという願いが書かれたByrnesさんによるカレッジ宛の手紙が添えられていた」。

 

地元メディアKansas City Starの記事(すでにリンク切れ) によれば、Jeanne Walsh看護学部長は「彼女らの行動は学習環境を混乱に招き、プロフェッショナルとしてあるまじき行為だった」と書面でコメントしていますが、Byrnesさんの弁護人Clifford Cohen氏は、「彼女の行為は、学校の規則を侵したり、臓器や学校の尊厳を損なったりしてはいない」と述べ、彼女自身は「わくわくするような驚くべき学習経験を、大好きな人たちと共有したかった。投稿した行為については申し訳なく思っている」として、Facebookのアカウントを削除したそうです。

 

Byrnesさんは、学校側から再入学の提案をされましたが、結婚とバージニア州での就職がすでに決まっているため、1月19日の授業再開前に、保全処分と仮差し止めを請求したとのことです。同記事には、「提供者は特定されていないのだから、個人情報の侵害には当たらない」「看護師として不名誉な行動だ」など、賛否交えて450件ほどのコメントが寄せられていました。

 

看護師Sarah Beth Cowherdさん(@Sarah Bethrn)が、この報道について書いたブログ記事(1月2日)も注目を集めました。彼女は「問題の根底には世代間の大きな誤解がある。ジェネレーションX(1960〜1974年生まれ)やジェネレーションY(1975〜1989年生まれ)の人々とは異なり、それ以降の世代にとっては、もはや手紙はもちろんE-mailすら過去のもの。今はFacebookが親しい人たちと生活を共有し、真剣な議論を行い、研究をし、意見を語ったりする場になっている。投稿は学習の機会であり、看護教育の広報手段でさえある」と述べています。

 

長文の書き込みが並ぶコメント欄には、賛同する声の他、「FacebookがE-mailや手紙に取って代わったとする意見には同意するが、技術の進歩は10〜30年前に許されなかったことを行う言い訳にはならない。Facebookではクリック1つでプライベートな情報が一般の目に触れることになる。古風な尊重の念(特に人間の体に対する)は時代遅れではなく現代にも存在する。私たちはお互いを知る必要がある」(30歳の医師)、「標本提供者の同意のない投稿には注意を払うべきで、若い女性の近視眼的な議論を、世代や文化の異なる世界全体に向けて発することの影響を考えないことは無責任」(子宮筋腫で子宮を摘出した女性)、などの意見もありました。

 

ツイートからもいくつか紹介します。「状況を明確に示したポリシーが学校にあればよかったのに。教育者にも同じだけ教育しなくては」「看護学校は、学生のFacebookへの写真投稿に関する規則を備えるのが賢明!」 「世代の違う者同士がお互いに学ばなければならない実例。教育者に守るべきポリシーと、先を読む力が欠けていた」「この学生は退学に値するのか、それとも学校が厳しすぎるのか? 患者の特定ができないとしても、臨床経験に関わる写真の投稿はOKなのか?」

 

注目を集めたニュースでしたが、Forbes誌(1月7日)によれば、地方裁判所判事は1月6日、「写真は見られるために撮る。撮ることが許可されたなら、その写真で何をしたかは無関係。写真には患者を特定できるものは何もないので、患者のプライバシーを侵害してはいない。処分に関してByrnesの公平な意見聴取が認められなかった」として、カレッジの処分を覆し、4人は学業に戻ることになったそうです。カレッジ側は「患者への思いやりと患者のケアにおける秘密保持の教育を行っており、我々は適切な対応をしたと考えているが、裁判所はそう判断しなかった」とし、「落胆した」とありました。

 

 

150号, p.51, 2011.より。※リンク先は本誌掲載当時)

 


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