■VOL.179
大竹 尊典
公益財団法人日本訪問看護財団
事務局 次長
在宅の医療安全 カスタマーハラスメントへの対応
日本訪問看護財団では、訪問看護をはじめとした在宅ケアサービスの普及・発展をはかるため、さまざまな取り組みを行っています。本稿では、昨今、訪問看護の現場で利用者やその家族からのカスタマーハラスメントが深刻な問題となっていることを受け、対策の方向性について言及します。
本連載では、過去2年にわたり、日本訪問看護財団(以下:本財団)の「あんしん総合保険」における賠償事案(保険金の支払いに至った事案)について報告しました。昨年度の賠償責任保険でも、「歩行訓練時に椅子に座ったままずり落ち骨折する」など、利用者の活動中の事故が支払金の上位を占め、また、職員の傷害保険においては、業務に関連する移動中の事故等での負傷による保険金支払いが上位を占めていました。賠償責任保険や業務従事者傷害保険は、当事者への直接的な被害が生じているケースのため、訪問看護において特色あるアクシデント事例が見てとれます。
近年においては訪問看護ステーション数も約1万7,000カ所★1と、直近5年で1.5倍に増加。訪問看護利用者も、介護保険利用者は約74万人、医療保険利用者は約48万人★1と経年的に増えており、それに伴いインシデントやアクシデント事例が増加し、類似の事案が発生しているであろうことは一定程度予想できます。他方、昨今は利用者や家族からのハラスメントの課題も取り上げられるようになりました。今回は、職員の安全ひいては安全な医療の提供につながるという観点から、ハラスメントへの対応について言及します。
●訪問看護におけるハラスメント対策
2025年6月4日にカスタマーハラスメント(以下:カスハラ)対策を企業に義務づける改正労働施策総合推進法が国会で成立しました。本法律は、2026年中の施行をめざしており、企業は従業員をカスハラから守るために、防止措置を講じることが義務づけられます。そのような政策議論が行われている中、今年4月に大阪市で訪問看護師が切りつけられるという事件が発生しました。訪問看護は利用者宅に看護師が訪問する特性上、利用者・家族などにとっては「第三者が家に来る」という認識となりがちで、以前よりハラスメントのリスクが高いことが指摘されていました。
★1 厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第610回),総-4「医療提供体制等について」,p.48・49.
(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001508722.pdf)
→続きは本誌で(看護2025年10号)