N.Focus 看護職のセルフ・コンパッションを育む

 

看護職のセルフ・コンパッションを育む

 

秋山 美紀

 

患者に対する献身、そして自己犠牲が美徳とされてきた看護職に対して、セルフケアは罪悪ではなく、むしろ専門職として大切なことです。セルフ・コンパッションを持つことを自分に許し、看護という仕事を通して、幸せな人生を歩んでほしいと、願っています。

 

セルフ・コンパッションとは
1.思いやりとは
看護職に求められるものは、何でしょうか。内閣府の調査1)では、看護職に求めるものについて、約8割の国民が「思いやり」と答えていました。このように看護職に対して求められている「思いやり」ですが、それは大きく2種類に分類されます。1つはエンパシー、そして、もう1つはコンパッション2)です。
エンパシーは、人の痛み・苦しみを目にすることによって、自分も同じような痛み・苦しみを感じることです。一見、患者の気持ちに寄り添う上で、強みとも思われるのですが、エンパシーでもって患者をケアすると、自分もつらくなってしまい、共感疲労を引き起こして、患者に適切なケアができなくなります。どちらかというとネガティブな気持ち2)です。
一方、コンパッションは、人の痛み・苦しみを見て、なんとかしてそれを和らげたいと思う気持ちを持ち、行動することです。コンパッションは患者の痛み・苦しみを理解することはできても、自分の痛みとはなりません。なんとかしたい、と前向きに考えるポジティブな気持ち2)です
このコンパッションを自分に向けるのが、セルフ・コンパッションです。読者の皆さんの中に、コンパッションを「自分に向ける」ということに違和感を抱いた方はいらっしゃいますか。「思いやりは患者さんへ向けるものであり、看護職が自分に向けるものではない」と思っていらっしゃる方がいるかもしれません。

 

2.自分をケアすることを許す
では、看護職は「セルフケア」してはいけないのでしょうか。セルフケアも患者だけのものでしょうか。看護職も患者と同じ人間です。だから、セルフケアは必要なはずです。しかし、看護職は古くから、患者に対する献身、そして自己犠牲が美徳とされてきた歴史があり、わが身を粉にしてでも患者に尽くすべき、という昔からの考え方が看護職を苦しめています。
看護職がセルフケアすることは罪悪ではありません。むしろ、アスリートが本番に向けて自分の体調を整えていくように、専門職として大切なことです。セルフ・コンパッションについて語る前に、まずは、セルフケアすることを自分に許すことが大切であることを言っておきます。

 

続きは本誌で(看護2024年2月号)