SPECIAL INTERVIEW 今こそチームで取り組みたい 基本の医療安全対策

内藤 清美さん(右)

(ないとう・きよみ)

 

山内 桂子さん(左)

(やまうち・けいこ)

東京海上日動メディカルサービス株式会社

メディカルリスクマネジメント室

 

【メディカルリスクマネジメント室について】

医療・健康に関するさまざまな事業を展開する東京海上日動メディカルサービス株式会社の一部門。医療機関向けに医療安全の研修やコンサルティングなどのサービスを提供している。

 

医療機関の医療安全を支援する事業として、研修やコンサルティング、教材開発などを手がける東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室。同室は昨年12月、新刊『医療安全実践ガイド 第2版』を上梓しました。室長の内藤清美さんと特別講師の山内桂子さんに、近年の医療安全研修の傾向、書籍の活用法などについてうかがいました。

 

■変化する医療安全研修の形式

 

──メディカルリスクマネジメント室の事業について、簡単に紹介してもらえますか。
内藤:メディカルリスクマネジメント室は1998年の開設以来、医療機関の医療安全を支援する業務を行ってきました。具体的には、医療機関に向けて定期的に医療安全ニュースを発信して情報提供を行ったり、コンサルティングという形で安全管理部門の皆さんの相談を受けたり、医療安全研修の講師を務めたりしています。

また、その中で蓄積してきた知見を広く知ってもらうための執筆活動や、教材の開発も行っています。2022年2月現在、室員7名のうち5名が現場経験の豊富な看護職です。ほかに薬剤師や心理学の研究者がいます。研修講師としては、法律の専門家や医師、公認心理士などの協力を得ています。

 

──医療機関の医療安全研修は、新型コロナウイルス感染症の影響でどう変わったのでしょうか。

 

内藤:2020年の初め、定期的に訪問して研修を行ってきた医療機関から「来てもらうことが難しい中で、代替の研修ができませんか」という相談がありました。そこで、1つは当室の講師が音声を吹き込んだパワーポイントを提供し、それを使って各病院で研修会を実施してもらう取り組み、もう1つは各研修メニューについて1テーマ20〜30分程度の動画教材を作成し、それをストリーミング配信する取り組みを始めました。後者は職員の皆さんが、一定期間いつでも自分のパソコンやスマホで学習できる仕様です。

2021年になると、医療機関もZoomなどを利用した研修や会議に慣れてきたため、当室と医療機関をつないで研修を行う形が増えてきました。研修のテーマは、個人情報の取り扱いやコミュニケーション、トラブル対応などの依頼が多い傾向にあります。感染対策をテーマとした依頼も増えていますね。

 

──コンサルティングも行っているとのことですが、現場から寄せられる相談内容に変化はあるのでしょうか。

 

山内:医療安全に関する相談は多様ですが、コロナ前と比べて大きな変化が生じているわけではないようです。むしろ、このような状況だからこそ、医療安全管理者の皆さんは、安全を確保して患者さんと職員を守ることが重要と考えています。職員の状況に配慮しつつ、職員の教育、マニュアルの作成や改訂、基本的な安全対策の徹底、インシデントの再発防止策の策定などで現場の安全を支える業務を粛々と継続しようとされていると感じます。

 

■医療安全にかかわるすべてのチームに

 

──今回の『医療安全実践ガイド第2版』は、約10年前に発行した初版の改訂版です。新しく盛り込んだ内容について教えてください。

 

山内:初版を作成した2009年は、2006年に診療報酬の医療安全対策加算が新設されたことを背景に、各医療機関に医療安全管理者として主に看護師の配置が進められてきた時期でした。そのため、体系的な情報の少ない中で孤軍奮闘されている医療安全管理者向けに、手助けとなる情報を提供することが目的でした。今回の第2版では、初版発行後の10年で薬剤や機器の改善など仕組みが整うことによってある程度解決したテーマは割愛し、最近注目されているテーマ、例えば画像診断結果の見逃しやSNS利用に関連するインシデント、新型コロナウイルス感染症にかかわる項目を新たに加えました。

一方、高濃度カリウム製剤やインスリンの誤投与などの重大事故につながる課題については、引き続き取り組むべき課題として、最新情報を加えて掲載しています。これらは、今は発生頻度が抑えられていたとしても、警戒を緩めずに現場の状況確認や、職員への注意喚起を継続してほしいと思います。

近年、医療安全は単一の部署、職種では進められないことがよりいっそう明確になってきました。専門性やメンタルモデル(個人の経験や知識などを基に形成される物事の捉え方)の異なる多職種が協働するために、各課題に関する基本的な知識や認識を共有してもらうことが必要です。第2版のサブタイトルを「チームで活かす知見と対策」としたのも、チームで共通認識を持ってもらうことがねらいです。

 

──医療安全管理者だけでなく、医療安全にかかわるチーム全員に読んでほしいということですね。

 

山内:そうですね。まず興味のある項目から読んでもらって、医療安全に関する知識をアップデートしてほしいと思います。チームで対策やマニュアルの見直しなどを検討する前には、事前に該当する項目をメンバーに読んでもらうと、共通の知識や認識を持つことで建設的な議論が期待できるはずです。

テーマごとに理論と実践をコンパクトにまとめていますので、新人スタッフの研修教材としても活用できると思います。「自施設のマニュアルではなぜこういう手順になっているのか」を理解するのに役立ててほしいですね。

 

 

 

新刊情報

医療安全実践ガイド 第2版

チームで活かす知見と対策

東京海上日動メディカルサービス株式会社 メディカルリスクマネジメント室[著]

●B5判 172ページ

●定価2750円

(本体2500円+税10%)

ISBN 978-4-8180-2365-9

発行 日本看護協会出版会

(TEL:0436-23-3271)

 

 

 

 

 

 

 

[主な内容]

第1章 お悩み解決! よりよい医療安全対策の実際

第2章
そこが知りたい! 医療安全管理者からよく聞かれる20のギモン

資料 医療安全管理者サポートツール

 

看護2022年4月号より

 

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