トシコとヒロミの往復書簡 第18回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

「賢い消費者」を育てるPR
文:川越博美


2017年もあっと言う間に3月。年を重ねると時が過ぎるのが早いことを実感しています。前号では、それについてピエール・ジャネの説を紹介して説明してくださいました。なるほどと納得しながらも、井部さんや私は、その説による「機械的な日課に転換され」「空っぽになって崩れていく」には当てはまらないと思います。なぜなら私は、刺激的で変化に富んだ今を「どうしてこんなに忙しく仕事をしているのか」と思いながらも楽しんでいますから。時には悠々とした定年退職後の生活をうらやましく感じることもありますが、それでもまだ働くことが許されていることを“看護師”という職業のおかげだと感謝しています。高齢者は75歳からと定義される時代。後輩たちに訪問看護の歴史を語りながら、今という時代に通じる看護師でありたいと、骨粗しょう症の薬を飲みながら日々奮闘している私です。


話は変わりますが、最近、現在利用している訪問診療や訪問看護の医療機関・事業所等を変えたいという相談がとても多く、考えさせられています。病院では治療を選ぶとき、希望すればほかの医師に相談するセカンドオピニオンが当たり前の時代になりました。ところが在宅では、病院の退院調整看護師やケアマネジャーが紹介したからというのが一般的です。口コミでよい評判を聞いたので選んだという人もいますが、少数です。
人々が生活の場を選び、どんなサービスを活用するかを決められるように、井部さんは「賢い消費者を増やそう」と提言してくださいました。そのとおりです。でも現実は、自分で退院後の生活を選ぶ、また在宅サービスを自分で選んで使うという理想形にはなっていません。介護保険制度の開始時、サービスのケアマネジメントは本人や家族が行うことがすすめられていました。しかし市町村等の担当窓口は、その道を閉ざしているとしか思えません。制度や事務的手続きが複雑で、専門職以外の人にはなかなかチャレンジし難いからです。
人々が自分で生活の場を選び、そのためのサービスを選択できる賢い消費者になるまで、私たち看護職やその領域のプロが導く責任があるのではないでしょうか(パターナリズムだとも言われそうですが)。理想形になるまでには少し時間が必要です。その意味でも病院の看護師に在宅へつなぐ力を持ってほしいというのが私の切なる願いです。

続きは本誌で(コミュニティケア2017年3月号)