「退院したら認知症が悪化していた」とならないために 急性期病院での認知症高齢者の ケアの質向上に向けて

認知症高齢者のケア

パーソン・センタードな視点から進める

急性期病院で治療を受ける
認知症高齢者のケア

入院時から退院後の地域連携まで

 

 人口の高齢化が進む現在、急性期病院に入院してきた高齢者が認知症だったということは珍しくなくなってきました。しかし急性期病院のスタッフは、認知症に関する知識が少なかったり、認知症高齢者に慣れていないことが多く、認知症の行動・心理症状を起こす患者の対応に苦慮しています。身体拘束や無視など医療者の不適切な行為により認知症の症状が悪化し、身体的疾患の治療を終えても入院前の生活場所へ戻ることができないケースも増えています。しかし、急性期病院でも、認知症高齢者の視点を尊重したケアと工夫により、認知症の症状を悪化させずに治療を行うことができます。
 小社刊『急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア』では、急性期病院での認知症高齢者に対するさまざまな取り組みについて紹介しています。


■急性期病院での認知症高齢者の現状

 

地域の高齢者施設では、認知症であっても高齢者がその人らしいあり方で暮らせることを重視した支援が求められています。しかし、急性期病院では治療優先のため、認知症高齢者は行動制限や身体拘束などによる苦痛を余儀なくされてきました。徘徊する・大声を出す・処置を拒否する・自分の希望や痛みの訴え等を医療者にうまく伝えられないなどの認知症高齢者への対応に困って、仕方なく行われているケースも多いようです。

 

また、急性期病院のスタッフは、認知症についての知識が少なかったり、認知症高齢者に慣れていないことも理由の1つに挙げられます。『急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア』の編集で浜松医科大学教授の鈴木みずえ氏が急性期病院の看護師を対象に行った認知症高齢者の行動・心理症状(BPSD)についての対処困難感に関する研究では、認知症高齢者は「チューブ類を抜去しようとする」「立位困難なのに、立ったり、歩いたりなど危険行為をする」など、急性期医療現場でさまざまな対処困難な行動を引き起こしていることが明らかになりました。

 

看護師がこのようなBPSDにうまく対応できず、「どうせわからないから」と患者に説明をせずに勝手に治療や処置を行ったり、話を聞こうとせず無視したり、身体拘束や行動制限を常時行ったりすると、認知症の症状は急激に悪化してしまいます。鈴木氏は、地域の高齢者施設の関係者から、「軽度の認知症があった利用者さんが、(身体的な)病気で急性期病院に入院し、治療を受けて戻ってきたら、この施設では看ることができないくらい認知症の症状がひどくなっていて、専門の施設へ転所になった」という話も聞いていると言います。

 

人口の高齢化が加速している現在、急性期病院に入院する認知症高齢者は今後さらに増加していくのは避けられません。このような背景をもとに、認知症の専門科を有しない急性期病院でも、認知症高齢者のケアの質向上に向けた取り組みを行っている施設が徐々に増えています。

 

 

■認知症高齢者に対する集団ケア「なごみケア」
―聖隷三方原病院(静岡県浜松市)の取り組み

 

聖隷三方原病院は地域の急性期医療だけでなく、地域医療支援病院としての役割も担っています。A5病棟(呼吸器/消化器病棟)では2012年11月から、認知症高齢者に対して、「①入院環境にある高齢者の生活リズムを整え、予定された治療計画を実施できること」「②受け持ち看護師の介護負担を軽減し、看護ケアの充実をはかること」を目的に集団ケア「なごみケア」を実施しています。

 

呼吸器疾患で日常生活に支障がある患者と、大声を出す・徘徊する・昼夜逆転しているなどの症状を示す患者を対象に、病院の食堂を利用して、体操・塗り絵・習字・ちぎり絵・ボール投げ・将棋・囲碁・オセロ・パズル・カルタ・DVD鑑賞・童謡を聴く・読書などを、1人ひとりの状態に合わせて1日数分から数時間行っています。参加者は1日平均8人前後です。「なごみケア」開始以前、食堂はほとんど活用されていませんでしたが、開始後は患者・家族から日中の活動場所の一部と認知されるようになり、朝からにぎわいをみせています。

 

「なごみケア」の成果として、以下のことが挙げられます。

 

目的①に対しては、患者が目的を持って入院生活を送るようになり、患者・家族・医療者間のコミュニケーションが増え、情報収集の場をつくらなくても必要な情報を容易に得ることができるようになりました。ほとんど会話が成立しなかった患者でも、「なごみケア」に毎日参加することにより、徐々に会話ができるようになったのです。

 

また、患者の生活リズムが整い、身体拘束が減りました。もともと身体拘束はできる限り実施しない方針でしたが、チューブ抜去などを防ぐ目的で行うことはありました。患者が「なごみケア」へ参加することで医療者による見守りが可能になり、日中に身体拘束を行うことは減少しました。さらに、「なごみケア」への参加日数が増えるにつれて生活パターンが形成され、夜間に眠ることができるようになった患者が増えました。

 

目的②に対しては、BPSDやせん妄を発症している患者を受け持つ看護師が「なごみケア」担当者と連携することで、他の受け持ち患者のケアに余裕を持って臨めるようになり、精神的負担が軽減しました。「なごみケア」実施前、受け持ち看護師は、患者に対して負のイメージを持つことが多かったのですが、実施後は患者の日常生活のリズムを整えることに目を向けたかかわりができるようになってきています。

 

さらに、「なごみケア」に看護助手が主体的にかかわるようになったことで、看護助手は自分の力を発揮し、成果を感じることができ、以前よりも生き生きと目標を持って働くようになりました。

 

 

認知症高齢者に“困った患者さん”というレッテルを貼るのではなく、急性期病院でも認知症高齢者その人の尊厳を大切にし、その人が暮らしてきた生活そのものを重視した看護を構築することが急務となっています。「身体的疾患は治っても、認知症が悪化していた」ということにならないために、日々のケアを工夫していきたいものです。

 

 

パーソン・センタードな視点から進める
急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア
入院時から退院後の地域連携まで

 

-「看護」2014年4月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –

 


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