CC2013年3月号掲載【年齢や障害でなく“個人のニーズを見る”ケアの大転換に現場発の知恵を生かす デンマークの高齢になった知的障害者のためのケア付き住まい――スザンネ・ソビさん】紹介

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写真1

高齢者住宅の一画にある知的障害者の棟へ急ぐソビさん



文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)

日本での活動を再開しています。

ご感想は

mkimiko@mbf.nifty.com

まで。

 

〈お詫びと訂正〉
本誌2012年11月号連載「コミュニティケア探訪」の内容に誤りがございました。
43ページ 左段本文12行目
 (誤)「継続教育」は3年間で250時間以上
 (正)「継続教育」は3年間で35時間以上
謹んでお詫び申し上げ、訂正させていただきます。

 

前回(2013年1月号)登場のいつみ・ラワーセンさん。日本とデンマークで、本物のケアを求めてチャレンジを続けています。
そのいつみさんが今、注目しているのが、高齢になった知的障害者のためのケア付き住まいです。「ここでいろいろな工夫がされている」と聞いて興味津々、いつみさんと一緒に出かけ、スザンネ・ソビ(Suzanne Soby)さんにお話を聞きました。
(通訳者は大加瀬恭子さん)

 

「分類して枠に当てはめる」から
「個人のニーズを見て対応」へ“ケアの大転換”

 

“ケアの大転換”が、ヨーロッパ各国で20年ほど前から今もずっと続いています。
何から何への転換かというと……。
「障害や年齢などで分類し、その枠に当てはめてサービス提供する」旧来のスタイルから、「個々人の個性的なニーズをアセスメントして、それに合わせて、本人の力や周囲の力を最大限生かしながら、足りない部分だけサービスを提供する」スタイルへ、という方向の転換です。
これは、利用者さんを人として尊重して希望に沿うケアであり、ケアするスタッフにとっても納得がいき、費用面でも無駄がなく合理的、というわけで広がっています。
このケアの大転換の中で、前回登場したいつみさんの職場は「特養ホーム」から「ケア付き高齢者住居」に変貌しました。
そして、今回お訪ねする高齢になった知的障害者のためのケア付き住まい「プライエセンター・ベスタボー」も、この大転換の一環です。デンマーク中央部にあるフュン島のソノスー市にあります。
以前からデンマーク全体で、高齢になった障害者へのケアが障害者政策の中で浮き上がっていました。「ソノスー市に新しく高齢者施設が建つ」と聞きつけたのが、知的障害者ケア歴20年のスザンネ・ソビさん。長年温めてきたアイデア、「高齢者住宅の一角には、ぜひ障害者用を」と声を上げて、実現したのでした(写真1)。
「これは、デンマークの“社会サービス法”が、高齢者・障害者などの区分けをせず、“必要な人に、必要なだけ、国・市が可能な限りサービスを提供する”法律だからできること」と、いつみさんは言います。
このように、職員や住民がアイデアを出して、よい案は市の事業として実現するのが「現場感覚に直結したデンマーク流施策の進め方」。素晴らしいと思います(オランダでも活発です)。

 

ニーズ密着、現場発の念願がかない

 

近年のケアや治療の進歩で、知的障害者の寿命が延び、高齢期を迎えることができるようになっています。すると「若いときとはニーズが変化し、従来のケアでは対応できない」と、ソビさんは気になっていました。例えば、

 

  • 社会活動ケア(“ぺタゴー”という職種が活躍。囲み参照)に加えて、身体的ケアが必要になる
  • 活発な活動よりも、静かなゆったりした生活がよくなる
  • 日中だけでなく夜間、24時間ケアが必要になる

など。しかし、これならどの高齢者にも共通ではないかと思い、私は「知的障害の高齢者へのケアも、普通の高齢者と一緒でいいのでは?」と、さらに聞いてみました。
ソビさんは「普通の高齢者住宅では、家事援助と身体ケアが主です。これだと知的障害者に欠かせない“ぺタゴー”による社会活動ケアが不足するので、補うことが必要なんですよ」と言います。なるほど、この説明には納得しました。
こうして「高齢になった知的障害者のニーズに対応できる生活の場をつくりたい」と、ソビさんが念願していたことが、ついに実現したのです。

 

→続きは本誌で

 

【囲み】 社会活動ケア=「ペタゴー」って何?
ソビさんのお話には、「ペタゴー」という言葉がよく飛び出します。いつみさんも「デンマークには“ペタゴー”という職種があって、これが日本にも必要。日本でペタゴー教育をめざしたい」と話します。ドイツにもあります。
「ペタゴー」をインターネットで検索してみると、ギリシャ語が語源で「若者を導く」、つまり教育学や教授法で一般的な用語です。自分の進む道を、自分で考え出し、その道を開くことを助け、社会的行動ができるようにサポートする営みです。「ペタゴギー」とも言います。
精神障害者の「ソーシャルスキルトレーニング(SST社会生活技能訓練)」に似ています。身体ケア・医療ケア・家事援助・認知援助に並ぶような「社会活動ケア」で、認知症の方にも必要だと思います。
いつみさんの夫のベンツさんもペタゴーです。ペタゴーとして、自分の提案した知的障害者の作業所に心血を注いできました。28年間の務めを終えたベンツさん、今は精神障害者のデイサービス所長です。

 

→コミュニティケア2013年3月号