評者:濱田 真由美(日本赤十字看護大学大学院博士課程)
看護独自の質的研究に関するテキストとなることを目指した本書では、本文中に引用されている研究が看護領域のものであり、看護の世界に身を置く読者にとっては研究課題と研究方法とのつながりがイメージしやすい。さらに、日本語版には1章と2章に「フォローアップ・ノート」が設けられ、訳者らによる解説によって読者の理解が深まるよう、工夫されている点も嬉しい。
本書には、研究課題別に比較された質的研究方法が示されていたり、モースが実際に助成を受けた研究計画書などが資料として掲載されている。また、3章以降に述べられている研究の実際では、経験豊富な著者らの研究活動を垣間見ているようだ。研究を実際に行っているかのようなわかりやすさで、初学者にも質的研究について伝えようと心を砕いた著者らの様子が、本書を通じて感じられる。
質的研究で用いられるさまざまな概念や、方法論についての哲学的な論争は、今もなお続いている。質的研究の成果を理論の開発であるとするモースらの立場も、質的研究を取り巻く哲学的論争の中の一つとして位置づけることができよう。が、まずは質的研究の概観を伝えることを目的とした本書を手に取ることで、読者は研究方法が研究目的によって方向づけられること、研究計画書の作成から研究の実施および発表までの、一連の流れと具体的なポイントを理解することができ、研究への初めの一歩を踏み出すことができるだろう。
-「看護」2012年10月号より –