書評『短歌と人生』(杉山 喜代子著/角川グループパブリッシング)

評者:守屋 治代(東京女子医科大学看護学部基礎看護学准教授)

 

生きていくことの深い根底には哀しみが満ちている。人は弱いからこそ強く、悲しみを突き抜けたところに喜びが生まれ、孤独だからこそ愛の深さを知る。限りある命を生きる中に永遠の命を見いだす。このような矛盾の中に、人が生きていくことの哀しさと美しさが同居している。

 

名歌に寄せる杉山氏の細やかな心情は、私にそのような感慨を深くさせた。氏は、人生の途上に病を重ねながら、長い間、看護教育・研究に携わってきた。

 

現在も決して自由とは言えない身体を生きている。その重荷は、かえって氏の心の世界を深くし、語る言葉を味わい豊かにした。氏が名歌に自分の人生を重ね合わせ、自分の過ぎ越してきた道を振り返り、これから進み行くあり方を求める姿に、まさに人が生きてゆくことの哀しさと美しさを感じざるを得ない。

 

だから、困難や苦痛の中にある人間をケアする方、その教育にある方に本書をお勧めしたい。短歌を詠むということが、深い体験世界を、あえて言葉につなぎとめておこうとする営為だとしたら、三十一文字には詠む人の命が宿っている。本書は、人をケアするということが、人間の根底にある哀しみに寄り添う業であることを洞察させると同時に、ケアが本質的に持っている尊さをも確認させてくれる。杉山氏とともに、そのような思いで名歌を鑑賞したなら、看護者は生老病死を生きる人の元へと新たな気持ちで向かうことができるのではないだろうか。

 

-「看護」2012年7月号より –