SPECIAL BOOK GUIDE 世界のエビデンスと日本の臨床看護師の知を融合 『JBI:推奨すべき看護実践』が刊行 国際的な情報共有がもたらす看護ケア実践の質向上

エビデンスにもとづく看護(evidence-based nursing:EBN)の国際拠点であるJoannna Briggs Institute(JBI)が集積する世界標準のベストプラクティス集、『JBI:推奨すべき看護実践〜海外エビデンスを臨床で活用する』の刊行を記念して、JBIより日本看護協会の会員の方々に向けてメッセージをいただきました。

 

Craig Lockwood Director, Associate Professor Implementation Science, Joanna Briggs Institute, University of Adelaide

 

■エビデンスに基づく実践のためのJNAとJBIの 連携を考える

公益社団法人日本看護協会(JNA)は、国民の健康と福祉を支えるために、看護職(保健師・助産師・看護師・准看護師)の会員、47都道府県看護協会と連携して活動する全国組織です。JNAのミッション・ステートメントでは、教育と自己学習に根ざした専門性に基づく看護の質向上が掲げられており、これにはエビデンスに基づく実践が重要であることは言うまでもありません。

 

多くの看護師・助産師は、卒後研修や研究への参加といった生涯学習を通じて教育や自己学習の機会を得ています。実践のための研究はケアの質向上に不可欠であり、日本の看護師・助産師の専門性を示す多くの研究事例がさまざまな形で発表されています。

 

学問と臨床の連携は、看護・助産分野の研究における質と量の強化に不可欠な要素です。しかしそれを考えるときには、「エビデンスに基づく実践」(EBP:evidence-based practice)と「研究的な関与」が同じではないことを認識することが重要です。すなわち、研究的な関与が学問と学術団体に恩恵をもたらすものであるのに対し、そうした研究の蓄積から生まれるEBPは臨床現場を変革するリーダーシップとケアの質を向上させる能力の構築につながるのです。

 

JNAが取り組むミッションはグローバルな連携によってより強化され、多様化することができるのではないかと考えます。そして、それこそがJBIの
希望です。

 

■JBIモデルとJBIのビジョン
エビデンスに基づく医療のためのJBIモデル(図を参照)は、科学的・組織的な観点から、そうした理想をどのように実現できるかを示しています。このモデルは研究的な関与(エビデンスの生成)が、システマティックレビュー★1、ガイドライン、エビデンスサマリ★2といったEBPに欠かせないツールにどのように結びつくかを示しています。すなわち、教育、意思決定の補助、積極的な普及(エビデンス伝達)を組み合わせることによってエビデンスを実践に利用できるのです。日本の助産師や看護師は、さまざまな研究プログラムを通じてエビデンス生成に多大な貢献をしています。私たちはそれらに基づくケアの質向上、臨床指導力の開発、エビデンスの統合や移転を支援し、実践の変革をめざす日本の臨床家のためにパートナーシップ、研修プログラム、フェローシップの機会を拡大していきたいと考えています。JBIは国際的な機能として、各国の連携センターを通じて一連のプログラムを実施しており、日本の多くの看護師・助産師にも連携センターを通じてこのミッションに参加してほしいと思っています。

 

私たちJBIのビジョンは、ケアの意思決定に役立つ利用可能な最善のエビデンス情報が広く共有されることにより、世界中のコミュニティにおける健康状態の向上を実現することです。それをめざすため、世界中の連携センターとのコラボレーションを通じてシステマティックレビューを生成することにより、エビデンスの統合作業を行っています。

 

 

 

■日本の看護師とのコラボレーション
JNAとJBIは教育と自己学習に根ざした看護の質向上という共通ビジョンを持っています。そしてJBIは「推奨される実践」や「エビデンスサマリ」ならびに「ベストプラクティス情報シート」といった、臨床家にとって有用なツールやリソースの開発と提供を行っており、これらに基づく研修プログラムを日本で構築していく上で、今回刊行された『JBI:推奨すべき看護実践〜海外エビデンスを臨床で活用する』が大きく貢献することを願っています。

 

この世界標準のベストプラクティス集は、幅広いトピックを網羅した質の高いポイント・オブ・ケアのリソースにアクセスできる、新しくユニークな機会を提供しています。私たちはこうしたコラボレーションによって強い力を発揮することができるようになるはずです。JBIは、看護師や助産師がエビデンスに基づく看護実践の戦略に参加するための多様な機会をもたらす素晴らしい協力関係が続いていくことを期待しています。

 

★1 システマティックレビュー 科学的根拠に基づく計画に沿った研究の原著論文だけを対象にまとめたレビュー論文。エビデンスレベルが高く、根拠に基づく実践にとって重要なリソースとなる。
★2 一般的な治療行為や活動に関する既存の海外文献を要約した文献レビュー。

 

参考文献
・Jordan, Z., Lockwood, C., Munn, Z., & Aromataris, E. (2019). The updated Joanna Briggs Institute Model of Evidence-Based Healthcare. Int J Evid Based Healthc, 17(1), 58-71. doi:10.1097/xeb.0000000000000155
・Kuraoka, Y. (2019). The Relationship Between Experiential Learning and Nursing Management Competency. J Nurs Adm, 49(2), 99-104. doi:10.1097/nna.0000000000000717
・Kuwano, N., Fukuda, H., & Murashima, S. (2016). Factors Affecting Professional Autonomy of Japanese Nurses Caring for Culturally and Linguistically Diverse Patients in a Hospital Setting in Japan. J Transcult Nurs, 27(6), 567-573. doi:10.1177/1043659615587588
・Sato, K., Yumoto, Y., & Fukahori, H. (2016). How nurse managers in Japanese hospital wards manage patient violence toward their staff. J Nurs Manag, 24(2), 164-173. doi:10.1111/jonm.12281
・Tanaka, K. (2019). Experiences of community mental health nurses in Japan as the basis of their nursing philosophies. Perspect Psychiatr Care, 55(4), 636-643. doi:10.1111/ppc.12386

 

 

JBI:推奨すべき看護実践 

海外エビデンスを臨床で活用する

植木慎悟・山川みやえ 編集
牧本清子 監修
The Joanna Briggs Institute 協力

●A5判 368ページ
●定価(本体3400円+税)
2020年6月発行
ISBN 978-4-8180-2262-1
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-327

 

→看護2020年8月号より

 

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