SPECIAL BOOK GUIDE 「抑制のない看護は不可能ではない」 金沢大学附属病院に続け! 全国に広がる身体抑制ゼロへの挑戦


高度急性期病院では難しいとされてきた身体抑制減少に挑戦し、ゼロ化を達成した金沢大学附属病院の取り組みと成果を紹介した書籍『急性期病院で実現した 身体抑制のない看護―金沢大学附属病院の挑戦』が刊行になりました。ICUや精神科も含めた抑制ゼロの達成に驚くとともに、「金大ができたなら、当院でもできるはず」と決意を新たにした、という声も届いています。

 

 

 

 

 

■抑制は何のため、誰のために行うのか?
以前、金沢大学附属病院で看護職員に患者を抑制した理由を聞いたところ、「大切なチューブを抜くかもしれない」「転倒するかもしれない」「説明しても理解してもらえないかもしれない」といった不安、ハイリスク事象が発生するかもしれないという心配が多くを占めていました。案じていることを表すかのように、看護師は患者をかわいそうに思いながらも、抑制という手段をとっていました。

 

抑制は患者の安全と関係づけて語られることも多いですが、本当にそうでしょうか? 医療者は「抑制=ケアの実施」と勘違いしていたり、抑制帯が看護師の代わりを引き受けてくれると誤解したり、安全管理において抑制用具を過大評価したり、期待し過ぎている、という現実がうかがえます。

 

■身体抑制はケアではない
興奮しているので体幹抑制された結果、さらに興奮してしまう患者や、ミトンを自分で外し、ラインを自己抜去したり創部を触ってしまう患者もいます。抑制されている患者は時に、突如感情を暴発させることもあります。

 

一方で、看護師は患者を抑制することで安心してしまい、本当は必要な看護師の手と目、心が患者から遠ざかるということを招いているかもしれません。近年の医療技術の進歩や高齢化の進行の中で、患者は複雑かつ深刻な状況に置かれています。そのような中、看護においても、抑制帯の使用について「ほかに方法がない」「やむを得ない」という気持ちについ襲われることがあるかもしれませんが、だからこそ患者を「人として大切に思う」ことを根源においた抑制激減へのチャレンジが必要なのです。

 

■「抑制廃止なんてできるわけない」という現場スタッフの本音
同院看護部長(当時)の小藤氏が「身体抑制激減」に取り組もうと決意し、看護部目標に掲げたのは2014年のこと。その結果、2015年度前半の中間報告会では、身体抑制等を減少させることへの看護師たちの努力はうかがえたものの、全体的に「現実的には激減できそうにない」という雰囲気がありました。

 

実際に現場スタッフからは、「部長はいったい何を考えているのか」「そんなこと、できるわけない」「部長は現場を知らないからそんなことを言うんだ」という声があったそうです。また、「チューブを自己抜去してしまい、生命に関わる重大な事故につながってしまったら……」「勝手に動き回り、転倒してしまったら……」「医師から抑制の指示があったら、従わざるを得ない」など、自分が責任を負うことへの不安・心配も多く聞かれました。

 

■「私たちには無理」から、

   「こんなふうに工夫して実現できた」へ
現場スタッフは「患者さんの尊厳を大切にしたケアをしたい」という共通した思いを持ちながらも、患者の安全性を重視するあまり、“危険行動をする患者” “意思疎通困難な患者”には「抑制はやむを得ない」と考えがちでした。

 

しかし部署内でカンファレンスを行い、臨床倫理担当副看護部長からアドバイスを受けることを繰り返す中で、また他部署の身体抑制減少の取り組みや効果について院内研修・発表会で聞くことで、次第に「何かあったら誰が責任を取るのか」から、「こういうふうにしたらどうだろうか」というケアのアイデアが出てくるように変化してきました。

 

このように全部署が身体抑制廃止に向けての意識を高め、実践した結果、2016年2月、一般病棟・精神病棟での身体抑制件数がゼロとなったのです。

 

■読者からの声、続々届く
本書の刊行後、読者の方から次のようなうれしい反応がたくさんありました。
「身体抑制のない看護が他院で実現できるなら、そのノウハウを知りたいと思いました。組織が一体になって取り組まないと実現しないと思いますが、不可能を可能にできる気がしています。」
「高度急性期病院に勤務している立場としては、身体拘束の廃止は無理だとずっと思っていました。この本が出版されたことによって、『高度急性期病院では身体抑制ゼロなんて無理』という考えが全面的に否定されたと思います。」
「為せば成る──本当にそうですね。やらなかった自分たちの姿勢を見直します。」

 

金沢大学附属病院では、2016年2月に身体抑制件数がゼロになったのち、抑制実施が4件ありましたが、そのたびにケアのあり方を見直し、現在も抑制ゼロの状態が続いています。金沢大学附属病院の抑制ゼロへの挑戦は今も続いています。この挑戦が全国に広がり、いつか挑戦ではなく、当たり前のこととして定着する日が待ち遠しいです。

 


『急性期病院で実現した 身体抑制のない看護

―金沢大学附属病院で続く挑戦』

 

[目次]
Part1 医療者が倫理を学ぶ意味とは

 

Part2 急性期病院での身体抑制ゼロに向けた
            看護管理者の役割
1. 身体抑制をしない看護を目指した院内体制づくり
2. 臨床倫理に関する院内および看護部の組織体制づくり
3. 院内教育体制づくり

 

Part3 金沢大学附属病院のチャレンジ
1. 制止しない、身守りのケアを行っての学び
2. 寄り添うということの真の意味
3. ミトン装着患者の尊厳を考える
4. 認知機能が低下した患者の苦痛緩和と思いに寄り添うことの大切さ
5. 医師との話し合いにより実現した傍らで看守るケア
6. 「観る」から「看る」ケアへ
7. 抑制への理解を深めたことでできたこと
8. 幼児期の子どもの成長を育くむミトン外し
9. 傍らに寄り添う看護を支えるチームワーク
10. ふれあう看護の力で患者の回復力を引き出す
11. 患者の思いや行動を尊重しながら取り組んだ「抑制ゼロ」
12. 「もうあんなことになりたくない」という思いを大切にして
13. 認識力低下に至った時期に人生の自己決定の実現を支える
14. それでも大切にしたいこと、そのためにとことん考える
15. 傍らで看守る看護の原点
16. 患者の尊厳を大切にした看護がしたい!
17. 医師から身体抑制の指示が出た患者への対応
18. 最期を過ごせる居場所になれた
19. 精神科病棟における行動制限最小化への取り組み
20. 常同行為のある患者を抑制せず、その人らしく過ごすことができたかかわり
21. 周術期に身体抑制せずに穏やかな時間を過ごせた患者に対する看護の喜び

 

小藤幹恵 編
●B5判 200ページ
●定価(本体2800円+税)
ISBN978-4-8180-2121-1
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 


→看護2018年9月号より

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