さまざまな生活の場での看取りに学ぶ「最期までその人らしく生ききる」ことを支援する看護ケア

宮崎 和加子(みやざき・わかこ)さん
前・一般社団法人全国訪問看護事業協会事務局長
1977年、東京大学医学部附属看護学校卒業。
健和会柳原病院にて訪問看護に従事した後、1992年に東京都指定第1号となる北千住訪問看護ステーションを開設、
同所長に就任。
その後、健和会訪問看護ステーション統括所長、グループホーム福さん家ホーム長、社会福祉法人すこやか福祉会理事、
健和会看護介護政策研究所所長、
社団法人全国訪問看護事業協会事務局次長、
一般社団法人全国訪問看護事業協会事務局長を歴任。

 

在宅・施設での看取りのケア本人・家族が満足できる看取りとは―?「生活の場」での看取りケアの実践書『在宅・施設での看取りのケア―自宅、看多機、ホームホスピス、グループホーム、特養で最期まで本人・家族を支えるために』の著者の1人で、日本の訪問看護の第一人者である宮崎和加子さんに、看取りのケアにおいて大切なことや本書の活用方法についてうかがいました。

 

 

 

 

 

 

――本書発刊の背景を教えてください。
本書の前身となる『在宅での看取りのケア――家族支援を中心に』を2006年に発刊し、現場で重宝しているという声をたくさんいただきました。しかし、10年が経過し、社会情勢や看護師に求められる役割・機能も変化してきました。病院ではないが自宅でもない「さまざまな生活の場」での看取りが増え、今後さらに増加が見込まれます。そこで、実践書として活用していただくために、現状に合わせて内容を見直すことにしたのです。
また、「最期までその人らしく生ききる」ことを支援する看護について、もっと掘り下げたいという気持ちがありましたので、本書ではその視点についても加筆しています。

 

――病院などの「医療の場」と「生活の場」では、看取りにどのような違いがありますか?

「医療の場」は救命・治療が最優先ですから、回復・延命をめざして支援します。一方、「生活の場」では、人生の最期の時間を充実させることを重視しています。
以前、病棟経験の長いベテラン看護師が「死ぬ前は苦しまなければならないと思っていた」と言っていたのが忘れられないのですが、私は、訪問看護に携わる中で、苦しまずに本当にいい顔で人生を締めくくった人をたくさん見てきました。生活の場での看取りでは、臨死期の治療やケア、過ごし方について、本人が何を望んでいるか、家族と一緒に繰り返し話し合います。そして、本人の希望を尊重し、その人らしく生ききるためのお手伝いをさせていただくのです。
もちろん、医療の場における救命・治療は非常に重要です。しかし、生活支援に主眼を置いた看護という分野も面白い、そういう考え方もあるのだと、多くの看護師に知ってほしいと思います。

 

――さまざまな生活の場ごとの看護ケアの違いは何でしょうか?

場所によって、主に生活支援を担う人が異なります。自宅であれば家族が中心であることが多く、看多機や特養は介護職と看護職が協働で支えます。ホームホスピスは運営主体によって違いがあります。グループホームは介護職が中心となり、看護は訪問看護として外部からかかわります。いずれにしても、「生活の場」においては主体的な生き方を支援するという看護の目的は変わりません。

 

――現場ですぐに役立つ内容になっていますね。

本書は、臨死期に焦点を当て、どの段階で本人や家族に何をすべきかを順序立てて解説しています。巻末の「看取りのパンフレット〈例〉」も大いに活用していただきたいです。
また、現場の先輩看護師たちが実践してきた声かけ例や事例、エピソードも満載です。経験豊富な人も、他の人の実践や反省を知ることで、新たな発想や気づきが得られるのではないでしょうか。

 

――看取りのケアにおいて大切なことは何でしょうか?

私は「本人が納得できる、その人らしい生き方を最期まで支援する」ということを常に心がけています。たとえ、本人の希望が非常識と思えるものであっても、「そんなこと、とんでもない」と否定するのではなく、まわりと協調しながらその希望を叶える方法がないかと考えることが大切です。
一方、家族や友人など周囲の人たちが悔いを残さず、心温まる看取りになるよう支援することも重要です。死ぬのをただ見ているのではなく、その人の人生の最期にかかわり、生ききる姿を見届けることが、残された人が死を乗り越えて生きていくための支えや勇気になるのです。家族や周囲の人は、単なる介護の担い手ではなく、本人の心に深くかかわる相手です。家族が介護に疲れ切ってしまうことがないように、看護師の配慮が求められます。
看取りにかかわる看護師は、死について自分なりの考えを持つと同時に、専門職として客観的に評価する視点も大事です。

 

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
この40年ほどで急激に病院死が増加したことで、患者さんやご家族の多くは「看取り=病院死」のように、死の捉え方が一元的になってしまっているのではないかと感じます。「生活の場」での看取りは十分に可能であることを、本書のエピソードを例にぜひ伝えていただきたいですね。また、看護師が中心となり、看取りも可能な「生活の場」を立ち上げる動きが広がっています。病棟勤務の皆さんにも、「生活の場」での看取りをより深く知っていただき、チャンスがあれば「豊かな生活の場」をつくり出すことにも挑戦してほしいのです。「その人らしい生き方を支援する」看護は病棟でも実践可能です。一緒に頑張っていきましょう。

 

-「看護」2016年8月号「SPECIAL INTERVIEW」より –

 

在宅・施設での看取りのケア

自宅、看多機、ホームホスピス、グループホーム、特養で最期まで本人・家族を支えるために