看護師のキャリア開発において ポートフォリオの活用が注目されています

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鈴木 敏恵さん (すずき・としえ)
シンクタンク未来教育ビジョン代表/教育デザイナー/一級建築士/日本赤十字秋田看護大学大学院非常勤講師/国立大学法人千葉大学普遍教育非常勤講師/東北大学高度教養教育非常勤講師/放送大学非常勤講師(専門:心理と教育)
「意志ある学び」を理念とし、21世紀の教育を構想・提唱し、自らも実践。未来教育プロジェクト学習やポートフォリオを手法とし、自ら学ぶ意欲、考える力、課題発見力、課題解決力、洞察力などを高める研修を全国で展開している。教育界・医療界・自治体など公的機関の指導者養成、人材育成の分野でも広く活躍。http://www.suzuki-toshie.net
 
 
 

 

 

キャリアストーリー これまでの活動の成果や学びをファイル等にまとめ、自らの思考・行動を可視化する「ポートフォリオ」(以下:PF)を、看護師のキャリア開発に活用しようと提唱する鈴木敏恵さんに、このたび刊行した『キャリアストーリーをポートフォリオで実現する』の内容と活用法についてうかがいました。

――PFとは何でしょうか?

 

PFとは、もともとはデザイナーや建築家が、自分が手掛けた仕事や作品を綴じた作品集のことを言います。PFがキャリア開発に有効といえるのは、単なるこれまでの記録ではなく、そこに至るまでのその人の思考や行動のプロセスが見えるからです。目標に自分の意志で向かっていく全プロセスを俯瞰できるので、意欲やモチベーションが湧き、主体的な学びを実現できます。

 

 

――なぜ看護の現場に求められているのですか?

 

私は看護師ほど知的意欲が高い人たちはいないと思っています。新人からベテランに至るまで“学び心”があります。組織を成長させるのは1人ひとりの“意志ある学び”であり、これをかなえるのがPFです。PFが役立つ理由は次の3点です。

 

①看護実践や現場を表現できる: PFはその人が何を考えて仕事をしたか、その工夫やそこにかける思い、数値化できない能力・資質などを顕在化することができます。看護で最も大切な“臨床知”を表現できるのです。

 

②「成果と成長」が見える:PFにはこれまで行ったことが入っているので、自分を客観的にみること(メタ認知)が可能となり、看護師としての成長をもたらします。PFがあることで自分の変化をストーリーとして捉え、成果と成長を実感できるので、さらにキャリアを高めたいというモチベーションが湧いてきます。

 

③経験を価値化し、「学び」に転換できる: PFを見返すと「この経験から学んだことは何か」という、次へ活きる振り返りができます(経験の価値化)。看護師同士で見せ合い、現場の知を共有できるので、組織全体が向上します。

 

 

――本書の構成について教えてください。

 

多くの現場では、ファイルにただ「入れる」だけで有効に活用していません。「スカスカなPF」も目立ちます。キャリア開発を促す「PFの8つの機能*1」を理解し、働かせることを意識しながら、セルフコーチングを身につけ、「入れる」「めくる」「気づく」を繰り返すことで活用効果が上がります。  成功の秘けつはPFに「A:専門・スキル・研究・経験」「B:人間性・社会性・挑戦心・自らを変化させる力」「C:才能・感性・もち味・得意」がわかるものを偏りなく入れることです。第1章では、PFのつくり方と中身を詳しく書きました。

 

第2章では、PFを活かし、自分の思考や行動を客観的に振り返るリフレクション(Reflection)と、見方を変えて捉えるリフレーミング(Reframing)の手法を紹介しました。なぜ自分がこの行動をとったのか、どうすればよりよい判断や行動ができるのかがわかり、課題発見から解決に至るクリエイティブなアイデアが浮かび、目標へ到達できます。

 

第3章では、看護師の4つのキャリアシーンにおけるPFの活用法とセルフコーチングをお伝えしています。目標管理、就職や転職、職場復帰など、現実のシーンにあった具体的なコーチングのセリフが書いてあるので、すぐに実践できます。  章末には、課題解決コーチングシートなど、キャリアビジョンを現実化する「キャリアポートフォリオ実践シート集」を掲載しました。シート集はホームページ*2からダウンロードできます。ぜひ、ご活用ください。

 

 

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 

私が継続的にPFを指導している施設では、新人看護師が1年目に1人も辞めないという実績をあげています。本書はすべての人がキャリアストーリーを描く上で役立ちます。特に、中堅の方に活用してほしいですね。中堅は職場の宝物です。豊かな経験がぎっしり詰まっているPFを管理職をはじめ皆で共有し、感謝したり、たたえることがキャリア意識を高めることにつながります。PFによって看護師が持つ暗黙知が目に見える形となり、組織全体で“知”をシェアすることができます。それが看護の質を上げます。ぜひ、皆さんの職場でPFが並び、個人知が集合知となるような未来を実現していただきたいと願っています。

 

*1 ①意識化/②一元化/③俯瞰/④可視化・顕在化/⑤価値化/⑥行動化/⑦評価・フィードバック/⑧ストーリー化

 

*2 http://jnapcdc.com/files/pdfs/pft_sheet.pdf

 

 

 

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プロジェクト学習による
看護基礎教育の取り組み

PFとプロジェクト学習(PBL:学習者主体の課題解決型学習)への取り組みは看護基礎教育でも広がっている。5年一貫の看護師養成課程を持つ埼玉県立常盤高等学校では今年度、文部科学省の「スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール」(専門教育の重点校)に看護教育で唯一選ばれたことを受け、5年間のPF・PBLの導入と体系化に着手。5月30日には同校スーパーバイザーの鈴木さんを迎え、在校生計160人を対象に第1回研修を行い、1年生は「学び方の工夫集をつくる」というPBLをスタートさせた。同校看護科主任の三津橋佳子さんは「鈴木先生の指導を受けながら、意志ある学び、生涯学び続ける力を身につけてもらいたい」と期待する。 

 

 

 

-「看護」2014年9月号「SPECIAL INTERVIEW」より –

 

キャリアストーリーをポートフォリオで実現する