原 玲子 先生インタビュー

月刊「看護」2010年2月号「SPECIAL INTERVIEW」に掲載した『看護師長・主任のための成果のみえる病棟目標の立て方』の著者、原玲子先生へのインタビュー記事の全文をご紹介します。

 

病棟の「目標管理」の要は、まず「現状分析」を行い、そこで浮かび上がった問題を解決するための「目標設定」を行うことですが、どのような病棟目標を立てればよいのか毎年苦労する、という師長さんの声を聞きます。小社『成果のみえる病棟目標の立て方』の著者である原玲子氏に、本書の示すヒントについて伺いました。

 

 

「病棟目標の設定」が注目される理由は

 

——「病院機能評価」の評価項目で、「看護部門の目標が設定され管理されている」ことが示されていることもあり、目標管理に取り組む看護管理者が増えています。新刊は、6部構成ですが、病棟運営を行う師長さんのために、特に「病棟目標」を設定する際のポイントに重点を置いて解説しています。このテーマに取り組むことになったきっかけを教えてください。

 

原:私は、現在は大学教員なのですが、以前は認定看護管理者教育に携わっていました。ファーストレベルからサードレベルまでの各研修では、管理者としての立ち位置は違うものの、質の高い看護サービスを提供していくためのビジョンを掲げ、目標達成に何が必要なのかを分析して組織的に問題を解決していく過程を学習することが重要だと思いました。

 

特に、セカンドレベルのカリキュラム基準では、教育目的の1つに「施設の理念ならびに看護部門の理念との整合性をはかりながら担当部署の看護目標を設定し、その達成をめざして看護管理過程が展開できる能力の拡大をめざす」とあったので、研修課題の1つとして、「看護管理実践計画書の立案」を取り入れていました。セカンドレベルの受講生は病棟師長がほとんどで、実践上の具体的な問題意識をお持ちでした。ところが、なぜ、それが問題なのか、根拠を示す分析が不足しており、目標を提示しても、何をもってそれが達成できたと示すのか、つまり「現状分析」を行い「成果指標」を提示することに、とても苦労されていたのです。

 

私自身も、看護師長として病棟運営に携わっていた時は目標管理シートに沿って年間目標を立案していたものの、「現状分析」や「成果指標」の考え方のトレーニングを受けていたわけではありませんでした。

 

そこで、セカンドレベルの講義や演習を担当する際に、「コツ」がつかめるようなオリジナルな資料をつくろうと、さまざまな文献を参考にしながら取り組んだのが本書執筆のきっかけです。

 

 

「成果がみえる」とエネルギーが生まれる

 

——本書の第3部では「成果のみえる目標」というキーワードが頻出しますが、「看護実践の可視化」というのは、近年の看護管理分野の重要テーマでもありますね。

 

原:2009年の日本看護管理学会年次大会のテーマも「可視化」でしたね。可視化とは、人間が直接「見る」ことのできない現象や事象などを「見えるようにする」ことですが、看護現場には膨大な量の実践とその実践から生み出された技術や知識が溢れています。一人ひとりの看護師のこの努力の成果を見えるように示すことは、満足感にもつながり、それが看護の質を高めていくエネルギーになると思います。

 

 

「ヒト」の育成に大切なこととは

 

——看護管理の要は「ヒト」「モノ」「カネ」の3要素をいかにマネジメントするかですが、本書ではスタッフのキャリア開発支援の大切さも強調されています。

 

原:言うまでもなく、組織はヒトの集まりです。「組織は人なり」とよく耳にしますが、まさしくそのとおりです。看護師の力量は看護の質に大きく影響しますが、最初から高い実践能力を備えた看護師はいません。質の高い看護師が欲しければ育てるしかありません。そのためには「育む」という技が必要になります。

 

どんなに良質な草花の苗を植えても、開花させるためには、その種類に応じた水・肥料・光を与え手入れをする必要があります。ヒトの育成も似ています。個々人の育ち方に違いはありますが、伸びる芽を摘まないように、育つための環境を整えることが管理者の大きな役割だと思います。看護管理者は個人の特性を見極め、そのことを本人に伝えながら、ともに成長していけるような関わりを持つことがとても重要です。

 

 

身に着けたいタイムマネジメントの習慣

 

——本書の第5部「タイムマネジメント編」を本誌2009年6〜9月号で先行掲載しましたが、医療の高度化・平均在院日数短縮化が進み、仕事の密度が濃くなる中での時間のやりくりは、ますます重要なテーマになりますね。

 

原:連載した後の反響の大きさには少々驚きました。タイムマネジメントと看護の実践をリンクさせてある本はあまりなく、「日々の自分の時間について振り返ってみた」「何か元気が出てきた」という声をいただき、嬉しく思いました。

 

忙しい日々の中で時間を有効に使うということは、とても難しいことだと思います。私自身、連載中は、時間に追われて仕事が重なり、集中することが難しくなることも多々あり、その度に、タイムマネジメントというテーマで文章を書いている自分に苦笑いをしていました。何とか仕事を楽しみたいと思うのですが、これは至難の業ですね。

 

ただ、自分の時間に何か一つ、自分自身を高めるための時間、感動を発見する時間、学習する時間を意図的に取り込んでいくことを心がけるだけで、「何のために働いているのだろう」と悩む負のサイクルから抜け出せるのではないでしょうか。それを見つけ出していくことが重要だと思います。

 

 

元気で生き生きと働ける職場づくりを目指して

 

——最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

 

原:医療を取り巻く環境は、本当に激しく変化しています。「医師不足・看護師不足」「新人看護師の早期離職問題や研修制度の努力義務化」「中堅看護師の育成」「病院の生き残り戦略」「良質な看護サービスの提供」「患者さんにも職員にとっても魅力的な職場環境づくり」……看護管理者が取り組むべき課題は山積しています。

 

だからこそ、今後の医療・看護の方向性を見つめて、自分自身のビジョンを持ち、それを示していくことが重要です。

 

そのためには、常に、くもりのない目で現実を捉え、柔軟にものを考えていきましょう。言うは易く行うは難しということは十分理解していますが、それでも、魅力的な看護の現場をつくるのは看護管理者の腕にかかっていると思うのです。

 

そして、魅力的な病棟づくりは、看護師長という仕事の醍醐味だと思います。師長自らも学び続け、元気で生き生きと働ける職場づくりを進められることを応援します。