近代ホスピス運動の創始者 シシリー・ソンダースの生涯

がん末期患者が激しい痛みに苛まれることなく、最期のときまで人間らしく穏やかに過ごせるための休憩所をつくりたいと願い、セント・クリストファー・ホスピスを設立したシシリー・ソンダースの幼年期から晩年までを綴った1984年版書籍に、亡くなるまでの約20年の記述を追加した『シシリー・ソンダース 増補新装版』が好評発売中です。

 

強い意志と、死にゆく人へのあつい思いやり、そして天性のリーダーシップを持つ類まれな1人の女性の生涯の一部を紹介します。

 

■家族の反対を押し切り、看護の道へ

 

小さなころから成績優秀だったシシリーですが、オックスフォード大学の入試に失敗し、当時は正式な大学と認められていなかったソサエティ・オブ・ホーム・スチューデンツ(後のオックスフォード大学セント・アン・カレッジ)にようやくのことで合格しました。
しかし世界中が第二次世界大戦に揺れる中、実際に身体を使い、人のためになる仕事をしたいと考え、両親の反対を押し切り、大学を辞めて、セント・トーマス病院ナイチンゲール看護学校に入学します。訓練は厳しいものでしたが、シシリーは看護を天職と感じ、充実した日々を送っていました。
ところが次第に、生まれつきの脊椎彎曲の痛みが悪化し、看護の仕事を断念せざるを得なくなってしまいます。

 

■常に患者とともにいたいと、医療ソーシャルワーカーの道へ

 

看護の道を閉ざされたシシリーは、それならば常に患者とともにいられる職に就きたいと考え、アルモナー(現在の医療ソーシャルワーカー)をめざします。母校のセント・アン・カレッジに復学し、必要な学位を修得して、セント・トーマス病院でアルモナーとして働き始めました。

 

■死にゆく人との恋という体験と、そこから生まれたホスピスの発想

 

そこでシシリーは、自分のその後の人生を変えることになる男性デヴィッド・タスマと出会います。デヴィッドはシシリーがアルモナーとして最初に担当した患者でした。彼は終末期のがんで、余命いくばくもない状況でしたが、2人は恋に落ちました。
デヴィッドはポーランドからの移民で、家族も友人もなく、お金もなく、激しい痛みに苛まれ、人生に深い絶望感を抱いていましたが、シシリーとの交流を通して、やがて「人々のために何かしたい」という思いを持つに至ります。

 

シシリーは死を目前としたデヴィッドと過ごす中で、末期患者に対する肉体的・精神的な苦痛を緩和するためのトータルケアがいかに大切かを学びました。これが後のホスピス設立の発想へとつながることになったのです。

 

ベッドサイドで患者に寄り添うシシリー・ソンダース医師

(写真提供:セント・クリストファー・ホスピス)

 

■医師をめざす

 

デヴィッドの死後、「死にゆく人々のために仕事をしたい」と決意したシシリーは、死に瀕している貧困者のためのホーム「セント・ルークス」で夜間のボランティア看護師として働き始めます。そこで行われていた、痛みが襲ってくる前に定期的に鎮痛薬を投与するという先駆的な方法が、後にシシリーの鎮痛薬の用い方の基礎となりました。

 

一方、セント・トーマス病院での上司、バレット医師に「末期患者を見捨てているのは医者なんだ。学校に戻って、医学を勉強したまえ」と言われたシシリーは、医師をめざすことにします。シシリー33歳のときのことでした。

 

■痛みの研究

 

シシリーはセント・トーマス病院医学校に入学し、猛勉強の末、成績優秀で卒業し、38歳で医師免許を取得しました。そして父親の知人の紹介で、運よく、セント・メアリー病院で末期患者の痛みの研究をする職に就くことができたのです。

 

研究の傍ら、シシリーはセント・ジョセフ・ホスピスで医療麻薬の投与方法の工夫を始めました。痛みがコントロールされた患者の穏やかな表情や、看護師や修道女による献身的できめ細かなケアの方法は大きな評判となり、シシリーの名は徐々に知られるようになりました。

 

■神の御意志に従い、ホスピスの設立へ

 

セント・ジョセフ・ホスピスでの実践を通して、シシリーは「いつか自分のホスピスを建てたい」という夢を抱くようになりました。1950年初頭、イギリスでは末期患者へのケアはまだあまり注目されておらず、国は死にゆく人が適切なケアを与えられていないことを認識してはいましたが、処置は講じられていない状況でした。シシリーは自分がやるべき仕事に確信を抱いていたものの、具体的にどうすればよいか考えあぐねていました。

 

休暇中のある日、聖書を読んでいたシシリーは突然、「準備をし、待つ年月は終わった。夢を実現するためには、具体的に何かを始めなければならないときに来ている」という神の声を聞きます。彼女は「ついにそのときが来た。今こそ前進するべきだ」と考え、ここからホスピス設立に向けて邁進していくことになるのです。

 

 

この後シシリーは、ホスピス設立に当たって、金銭的・制度的・宗教的問題など数々の困難に直面するものの、持ち前の熱意とバイタリティとリーダーシップを駆使し、また天から授かった幸運も味方にして、1967年にセント・クリストファー・ホスピスを開設しました。

 

その後のシシリーの人生とセント・クリストファー・ホスピスの物語については、ぜひ本書をお読みいただきたいと思います。神に選ばれた1人の女性の生き方に圧倒されることでしょう。

 

 

『近代ホスピス運動の創始者
シシリー・ソンダース 増補新装版』

シャーリー・ドゥブレイ、マリアン・ランキン 著
若林一美 監訳
●新書判 576ページ
●定価(本体2,800円+税)
ISBN:978-4-8180-1939-3
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 

[目次]

Chapter 1 少女時代
Chapter 2 オックスフォード大学から看護学校へ
Chapter 3 邂逅
Chapter 4 デヴィッド
Chapter 5 医師をめざして
Chapter 6 病める人とともに
Chapter 7 行動のとき
Chapter 8 アントーニ
Chapter 9 セント・クリストファー・ホスピスの設立へ
Chapter 10 愛の共同体
Chapter 11 死の恐怖を越えて
Chapter 12 痛みと症状の緩和
Chapter 13 死にゆく人の日記
Chapter 14 マリアン
Chapter 15 語り継ぐべきこと
Chapter 16 手放すこと
Chapter 17 広がる地平線
Chapter 18 患者としての癒し

 

-「看護」2017年7月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –

 


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