Conviviality

写真:相模原市藤野のファーマーズ・マーケット「ビオ市」のサイトより。

連載:考えること、学ぶこと。

"共愉"の世界〜震災後2.0 香川 秀太 profile

この連載について

 

昨今、多様な人々が緩やかにつながり、新しい働き方やライフスタイルを創造しようとする試みがあちこちで広がってきています。その中には、経済中心だった社会(資本主義)の在り方や個体主義(心・精神とは個人の頭の中に存在するという考え)を、意図のあるなしにかかわらず、根本から変えていくことにつながるようなコミュニティ形成活動があります。

 

たとえば「プロボノ」と呼ばれる、本業以外の場で、しかし自分のビジネススキルを生かして行われるボランティア活動、通貨でありがなら儲けよりも人との互助的な親和関係を活性化する「地域通貨」、自然環境と人間生活との関係を問いながら自給自足生活を行う「パーマカルチャー」が挙げられます。他にも、地域・職場・医療・教育……さまざまな領域で新しい動きが次々と発生してきています。

 

特に、我が国では東日本大震災および福島原発事故の大きな危機やインパクト後、従来の資本制社会を見直す新しい動きがあちこちで発生し、7年たった現在においてさらに展開してきています。これらは、危機を経て生まれ拡大していっている可能性です。

 

新しいコミュニティでは、次の三つの『共(きょう)』がキーワードになります(不等号の右側が、新しいコミュニティのキーワード、左側がそれとは対照的なキーワードです)。

 

1."きょうゆ":教え諭す教諭 < 共愉(共に愉しむ)、共癒(共に癒す)、共遊(共に遊ぶ)、共由(共に自由になる)……

 

2."きょうせい":強制、矯正 < 共生(共に生きる)、共成(共に成る・成す)、共精(共的な精神〈こころ〉)……

 

3."きょうそう":競争 < 共創(共に創る)、共奏(共に奏でる)、共走(共に走る)……

 

言葉遊び的ではありますが、いずれも本連載のキーワードです。

 

この連載では、哲学や心理学の諸理論、それから実際のコミュニティ形成活動の事例をご紹介しながら、今起こりつつある新しい働き方やライフスタイル、さらには「資本主義の次の社会の在り方」について、皆さんと少しでも一緒に考えて行ければうれしく思います。なお、大震災を直接の契機として始められた事例を中心にご紹介していく予定ですが、それに限らず大震災後の現在において展開されてきている、次の社会の創造のヒントになりうる事例や議論もあわせてご紹介していく予定です。

 

事例の中で、都内から北海道に移住して新しい生活を試みるようになった看護職の方もご紹介する予定です。ぜひお楽しみに。

 

 

第1回 共に愉しみ、創り、生きる社会 [前]

第2回 共に愉しみ、創り、生きる社会 [後]

 

"Post-COVID-19 Society"グローバル資本主義のあとに生まれるもの前 篇 ── はじめに 

第3回 「経済 vs. 生命」

第4回 「新型コロナウイルスが破壊する7つのもの」

第5回 「逆のエネルギー/破壊を逃れた要素」

第6回 「従来の経済活動への回帰とナショナリズム     の高揚/新しい福祉国家へ」

後 篇 ── はじめに 

第7回 「資本主義とポスト資本主義のグレーゾーン     を問う」

第8回 「世界共和国へ、あるいは……」

第9回 「マルクス&エンゲルスの「予言」、そして     交歓」

第10回 「おわりに」

香川 秀太 かがわ・しゅうた

青山学院大学社会情報学部准教授。博士(心理学)。広島県出身(80年生まれ)。異質な集団間の越境過程や、多様な人やモノが結びつく中で発生していく創造活動を研究。なかでも、これまでの経済優先の社会に代わる新しい社会形成の在り方について検討。主たる研究領域は、マルクス哲学から生まれた学習理論(状況論・活動理論)とポスト資本主義論。これらの理論をもとに現実のコミュニティやネットワークや組織におけるフィールド調査やアクションリサーチを進める。社会活動としても、相模原市を中心に非営利の地域コミュニティやまちづくりの活動に参加。著書に『越境する対話と学び』(新曜社)、『パフォーマンス心理学入門』(新曜社)、質的心理学辞典』(新曜社)、『Learning and Expanding with Activity Theory』(Cambridge University Press)他。日本教育心理学会優秀論文賞、社会安全研究財団一般研究助成最優秀論文、ISCAR(国際活動理論学会)優秀賞受賞。 >> 香川秀太研究室 http://k-shu.xsrv.jp/index.html

 

 

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会   (C) 2020 Japanese Nursing Association Publishing Company.

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