谷口陽子 (たにぐち・ようこ 北里大学病院看護部 副看護部長 / 看護研修・教育センター長)
神戸大学医療技術短期大学看護学部卒。1988年4月北里大学病院入職、同病院呼吸器センター師長、教育専従師長を経て、2016年度から現職。2017年東京慈恵会医科大学大学院修士課程看護管理分野修了。
「令和時代の新人」という言葉は、何か魔物のような響きがします。しかしこの「令和時代の新人」は、コロナ禍において医療や看護の厳しさを映像で見たにもかかわらず、その世界に飛び込んできた勇気ある若者たちです。私たち看護管理者はこの勇気ある若者たちを同じ看護職の仲間として受け入れ、育成していかなければなりません。しかし一方で、コロナ禍を経て、新人看護師の就業状況が大きく変わってきていることに翻弄されているのも事実です。
2019年度末から本格的にコロナ禍に入り、看護基礎教育は2年近くリモート授業が定着し、臨地での実習ができない、もしくは縮小せざるを得ない状況にありました。臨床においても個食が推奨され、密を避ける対応として食事会などのインフォーマルなつながりも減少していきました。2020・2021・2022年度の新入職の看護職がその影響を受けています。2020年度の入職者は基礎教育での影響は少なく、入職直後にその影響を受けて集合研修の場が減少してしまったこと、グループワークなどによる横のつながりが持てずに孤独感が強くなっていったと考えます。2021~2022年の入職者は、基礎教育における臨地実習の中止や減少、リモート授業の増加により、人とのかかわりが少ない学校生活を送ってきました。臨地実習体験がないことから、看護実践に何がしかの影響があるのではないかという懸念がありました。予想どおり、この2年の新卒者の離職は10.3%(2021年度)、10.2%(2022年度)と高い値を示しています1)。
2021年4月入職時の新人看護職員研修で私がまず感じたことは、新人看護師の体力と集中力の低下です。立ったままの演習が1時間と持たず、急きょ椅子を用意しました。休憩時間にはお菓子をカバンの中から出して一人で黙々と食べているなど、今までに見たこともない新入職者の光景に大きな違和感と不安を感じました。そして臨床に配属後、看護管理者から「同期同士がライバルになっていて支え合えない」「突然の退職の申し出があり、何の問題もないと思っていたので驚いている」「退職の理由が分からない」という話をよく聞くようになりました。このような状況が一つの要因となったのか、1年間就業が続くのではなく、年度途中の退職者が増えていきました。
退職者だけではなくメンタル不調による休職者も増え、その後2年はこうした状況が続きました。しかし、今振り返ると、コロナの影響は一時的にさまざまなことを加速させたに過ぎず、コロナ禍が始まる2~3年前から新人看護師の変化は見受けられていました。私の施設においても、10年前は新人看護師の離職率は2~3%でしたが、2018年には6%台になるなど徐々に上がってきました。
「何の問題もないのに突然やめる」ということが看護管理者の間でよく話題になり、何とかその状況を打破したいと考えてさまざまな本を手に取り、今時の若者について学習しました。その中で、Z世代や指示待ち姿勢である若者の特徴に加え、そもそもドナルド・E・スーパーが提唱している「キャリアの探索期」にある世代である、という見解にたどり着きました。看護系の専門学校や大学に入り看護学を学び、看護職として就職しても「キャリアの探索期」であることから、キャリアを転換させることにはあまり躊躇しないということです。実際その頃の退職者は、看護職以外の職種で再就職している人が多かったように記憶しています。
加えて、学生の間で転職サイトの影響が拡大していることが臨床側にも伝わってきました。現在はほとんどの看護学生がスマホに転職サイトのアプリを登録しており、就職後も継続して利用しています。入職して数カ月、指導者の手も離れ、毎日多重課題への緊張と困難さを抱える中、転職サイトから流れてくる「夜勤なし」や「時間外なし」といった情報は、窮地にある新人看護師には救いの神となり、離職を決断させるものになっているのではないでしょうか。まさに、第1回 で金間大介氏が述べている「メンタルの安定」を求めている現象です。
また、コロナ禍を経た最近の早期離職の理由に「同期が先輩に叱られるのを見て、自分もそのようになるのではないかと不安」ということがよく上がります。これも「メンタルの安定」が脅かされることに起因していると考えられます。自分の現状にフォーカスが当たりすぎ、常に、何が自分にとって脅威なのかに重きを置き、できていることや成長への実感も持てず、他者と同じ体験を被らないために辞めていくということです。冒頭で述べた「勇気ある若者」が、このようなことで勇気を失い、看護から離れていくという現実は非常に悲しいことです。