Z 令和6年の新人 今どきの若者とどう向き合い、共に働くのか generation
第1回 「いい子症候群」の若者たちと共に前へ進むために

金間大介 (かなま・だいずけ / 金沢大学 融合研究域融合科学系教授)

北海道生まれ。バージニア工科大学大学院、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授などを経て、2021年より現職。博士号取得までは応用物理学を研究していたが、博士後期課程中に渡米して出会ったイノベーション・マネジメントに魅了される。それ以来、イノベーション論、マーケティング論、モチベーション論等を研究。主な著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち:部下との1on1の前に知ってほしいこと』(PHP研究所)など。

「目をつけられる」の新しい意味

素直でまじめ。だけど本当のところは何を考えているかわからない。

人の話はよく聞くけれど、自分の意見は言わない。

言われたことはやるものの、それ以上のことはしない。

 

最近(具体的にはここ10年くらい)の間に、頻繁に聞かれるようになった若者像だ。僕は、拙著『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)で、そんな若者を「いい子症候群」と定義し、たくさんのデータを示したうえで、彼らの行動特性や心理的特徴を描いた。その中では、日常の些細なエピソードも多く盛り込んでいる。

 

例えば、今の若者にとって、「目をつけられた」という表現は、悪いことをして監視対象になることを意味していない。「昨日の授業で質問したら、先生に『いい質問だね』って言われた。目をつけられたかも」というように、まるで面倒に巻き込まれてしまったようなニュアンスで使う。ここでのポイントは、皆の前で褒められた若者が「周りの同期たちから『あいつは意識高い系だ』と思われたらどうしよう」と思っていることだ。

 

実際にそう思われているかどうかは関係なく、周囲の視線を恐れて、大人しくしていようと考える。質問や意見は持っているけれども、周りの目(を気にすること)がそれを押し留めている構造にある。つまり、いい子症候群の若者にとっては、よい意味で目立つことも、悪い意味で目立つことも、同じように捉える傾向にある。彼らにとっては何も言われない状況が最善で、褒められたり怒られたりすることは、評価としては下の方に位置づけられる。

 

別の視点から、もう1つ。最近の若者の多くは、「安定した企業で働きたい」と言うが、その際の「安定」の解釈にも注意が必要だ。もちろん倒産しない企業という意味もあるが、「圧をかけてくる先輩がいない」とか、「難しい仕事を強要されない」などの心理的な安定を指していることが多い。

 

こういったエピソードに代表されるように、今の若者の多くは、目立ちたくない、100人のうちの1人として埋もれていたい、自分に向けられる他人の気持ちが怖い、横並びでいたい、皆と同じでいい、といった気持ちが強い傾向にある。

 

よく語られるZ世代像の違和感

Z世代とは一般的に、1990年代中頃から2010年前半に生まれた人たちを指す。2024年でいえば、ちょうど20代がすっぽり収まるイメージだ。

 

「Z世代」という言葉に対し、外の世界とどんどんつながり、意識高く生きているイメージを持つ人も多いかもしれない。彼らはデジタル・ネイティブであり、物心ついたときにはすでに世の中にスマホがあった。それ1台で外の世界とつながり、デジタルを駆使してさまざまな社会課題を解決できるのが彼らの強みだ。ワークバランスを大切にし、エコロジーやエシカル消費(倫理的消費)に興味を持つというイメージもある。

 

ただし、実際にこうした特徴を持つ「意識高い系」の若者はごく一部に過ぎない。実際には1割程度で、そんな彼らが圧倒的に目立つため「Z世代」を代表するような存在として語られる。しかし、実際に大半を占めるのは、先述のとおり、意識高い系とは対極の、大人しく、目立ちたくない若者たちだ。当然、職場における彼らの言動からは主体性が感じられず、指示待ちになる。

 

「いい子症候群」の若者が就職したい組織第1位とは

皆さんは、今の若者、特にいい子症候群の大学生たちが入りたい就職先といえば、どのような職種を思い浮かべるだろうか。ヒントは、先に述べた「安定」だ(もうすでにおわかりかも)。


昨今の若者全体の傾向として、文理・性別に関係なく公務員が第1位となる。重要なのはその先で、公務員の中で何がよいかも完全に決着がついている。いろんなリサーチ会社が独自の調査結果を発表しているが、そのうちの1つ、株式会社マイナビの「2023年卒公務員イメージ調査」1)によると、第1位が市役所、次いで第2位に県庁、第3位に国家公務員の一般職、その次に国家公務員の総合職を希望するというデータが出ている。

 

このように、今の若者たちにとっては、市役所あるいは県庁が理想の就職先となる。採用試験の日程的には霞が関、県庁、市役所をすべて受験することは可能で、実際にそうする学生もいる。そして興味深いことに、そのすべてに合格した場合、霞が関も県庁も辞退して市役所を選ぶ学生が非常に多くなっている。

 

組織の中の身分という意味では、国家公務員の総合職が圧倒的に上だとわかっていながら(いわゆるキャリア官僚だということも含めて)彼らは市役所を選ぶ。こういった行動は、上の世代には不思議で仕方がないようだ。若者に公務員になりたい理由を聞くと、ここでも「安定」が大差をつけて1位だ(株式会社マイナビ同調査による)1)。安定というと、生活に必要な給料が得られること、クビにならないこと、会社が潰れないことだと多くの人は考える。

 

しかし、いい子症候群の若者が就職先を選ぶに当たって重要視するのは「メンタルの安定」だ。彼らは、毎日一定のメンタルで落ち着いて仕事ができる職場を何より望む。上司から圧がかからない。ひっきりなしに電話が鳴らない。お客さまから無理難題を言われない。誰の目も気にせず定時で帰ることができる。この状態が、彼らがイメージする「安定」に近い。

 

もちろん、実際に毎日のんびりと安定して働けるか、というのは別問題だ。多くの若者が入りたいという市役所においても、昨今では地域の課題を一手に引き受け、奮闘する部署も少なくない。あくまでも、学生から見て「そう見える」ということだ。

 

最もやりたくない役割はリーダー

同じく安定という面では、いい子症候群の若者が最もやりたくない役割としてリーダーが挙げられる。「最近の若者は質問してこないし、会議でも何も言わない」「こちらから当てても当たり前のことしか言わない」とよく言われる。いい子症候群の若者は、目立ちたくない、埋もれていたいという意識が強く、「変なことを言ってしまったらどうしよう」と常に考える。

 

一言で言えば、他人の気持ちが怖いという傾向が強い。この「怖い」という感情がポイントで、周りから変な人だと思われたらどうしよう、できないやつだと思われたらもう生きていけない。だから自分で決めたくないし、失敗したくないし、責任を取りたくない。そんな気持ちが強くなっている。

 

その点リーダーは、自分で何かを決定し、周りにその通りに動いてもらい、何かあれば責任を取る役割になる。彼らはこの状態を「安定していない」と捉える。裏を返せば、いい子症候群の若者が一番やりたいのは、指示を待っている立場になる。自分以外のリーダーが、すでに決まったことをわかりやすく指示してくれる状態が理想だ。そのため、いい子症候群の若者は研修を好む。僕が今まで多くの学生と話したかぎりでは、研修が充実している会社は人気がある。丁寧なマニュアルがあり、きちんと振る舞いを教えてくれる環境は、それらの指示どおりに動けばよいからだ。

 

それでもリーダーをやってほしいというなら、その心理的負荷に見合うだけのインセンティブを付与しているかどうかが問題となる。が、今の日本で、そんな充実したインセンティブを用意している組織をそう見たことがない。その帰結として、以下のような振る舞いをすることが「合理的」となる。

 

  •  じっとしているほうが得
  • 「できないふり」「忙しいふり」をする
  • 「やらない」を選んでおいた方が無難

 

昨今の若者はこのことをよく知っている節がある。

 

今の若者にとっての理想の上司像

それでは、今の若者にとっての理想の上司像とは何か。いくつかのデータから解きほぐしてみよう。

 

日本能率協会「2022年度 新入社員意識調査」2)では、文字どおり新入社員を対象に、「あなたが理想的だと思うのはどのような上司や先輩ですか」というアンケートを実施し、その結果を公表している。この調査の興味深いところは、経年変化があることだ。ここ10年間、そのときの新入社員がどのように感じていたかが見て取れる。

 

その結果は、この10年間変わらず「仕事について丁寧な指導をする上司・先輩」が第1位となった。興味深いのは、この10年で、その割合がおよそ20ポイントも増加していることだ。2022年に至っては、10人のうち7人がこれを理想とする状態だ。

 

このほか、この10年間で10ポイント以上の顕著な上昇を示している項目はというと、「部下の意見・要望に対し、動いてくれる」がある。この上司像を理想とする若者は、この10年間でほぼ倍増している。いまや、上司や先輩は、若者の話を聞くだけではなく、自ら動いてあげなければ部下の期待に応えられない時代となりつつある。

 

逆に大きく票を減らしたのが、「場合によっては叱ってくれる」上司だ。これはこの10年間で半減している。同様に急降下しているのが「仕事の結果に対する情熱を持っている」だ。この項目は、2012年には上から数えて3番目の支持を集めていた。それが2022年には10番目となっている。上司が仕事の結果に熱意を持つことが、なぜそれほどまでに現在の若者に敬遠されるのか。

 

その解釈を助けるキーワードは、やはり「圧」や「安定」にある。今の若者の多くは、意識高い人たちを「あっち系の人」などと言って距離を取る傾向にある。彼らは自分たちとは違う世界の人たちであり、そんな人を上司や先輩に持つと、おのずと自分にも「圧」がかかる。そんな状態こそ「安定」した職場とは真逆に位置し、警戒すべき対象となる、というのが僕の解釈だ。

1

2

トップ|看護と自由

特集:哲学で問いを見つける

特集:ナイチンゲールの越境

考えること、学ぶこと。

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company