「ひとりっ子の僕が
母さんを介護?」
[連載小説] ケアメンたろう

文・西尾美登挿画・はぎのたえこ

©2019 Taeko Hagino

第1話 青天の霹靂 県立高校のラグビー部に所属する東尾太郎は、明日の練習試合を前にグラウンドで練習に励んでいた。そこへ母親が事故に遭ったとの知らせが……。▶▶ 第2話 急な入院 脳出血を起こした母さんが手術を受けることになった。もし障がいが残ったりしたら、一人っ子で母子家庭の僕は、これからどうなるんだろう……。▶▶ 第3話 “何かあれば開くようにする鞄” いったん家に帰った太郎は、以前から母親に言われていたとおり、洋服棚の一番上に置かれたバッグに手を伸ばす。中身をゆっくりと確認する暇はない……。▶▶ 第4話 一晩を越した運動部員の足は臭い…… 病院で医療費の説明を受けるが、太郎には何もかもが知らないことばかり。家でたった一人になると、母と自分はこれからどうなるのか不安でいっぱいに……。 ▶▶ 第5話 男子の家事事情 一人暮らしを始めた太郎だが、洗濯機の使い方すらよくわからない。入院している母の着替えはどうしよう。下着だって用意しなきゃいけないし……。 ▶▶

連載のはじめに

 

女性の社会進出が一般化し、男女ともに仕事を持つようになった昨今、結婚せずに生きる人々が増えたことから、家庭内で親の介護に直面する男性たち=ケアメンズの数が増加しています。

 

そんななか、メディアで報道される介護殺人を含む虐待事件では、加害者が男性で被害者が女性というケースをしばしば見かけます。介護ストレスが大きな要因となるそうした悲劇には「男らしさ」への固執からか、悩みごとを周囲に相談しない・できない男性たちの事情が、少なからず影響しているように思います。

 

以前、ある男性の医師に「どうして男の人は困ったとき周りに相談しないのかな?」と尋ねたところ、彼が口にした「人に相談するなんて習ってないからできないよ」という予想外の回答に衝撃を受けました。相談なんてわざわざ習うものじゃないのに……という、当たり前だと思っていた前提が覆された私は、男性が悩みを抱えているのを察知するためには、どのようなことに着眼すべきかについて研究を始めました。そして同時に、男性介護者に向けて「男性の家庭内進出」を啓発する活動を開始しました。

 

福岡市に在住する私は、めんべいや辛子明太子を製造販売する地元企業・株式会社山口油屋福太郎に協力を得て「ケアメンズキッチン」を立ち上げ、男性介護者を対象とした料理教室を定期的に開催しています。この活動を通して出会うケアメンたちには熱心で一途な方が多く、彼らには「できないこと」を恥と感じて自身を叱咤しながら介護に向き合う傾向があります。さらに「男らしさ」への呪縛も重なって、人に相談しない・できない状況に陥りがちとなり、出口のない困難を抱えたまま孤立してしまうのではないかと思うのです。

 

看護師である一方で、もともと文章を書くことが好きな私は、幸運にもこれまで幾度かにわたり執筆の機会に恵まれてきました。『ばたばたナース 秘密の花園』(講談社文庫、ペンネーム・桜木もえ)を出版した当時に出産した一人息子は、すでに選挙権を持っています。高校生のとき、彼はある日ラグビーの試合で肩を脱臼をしたのですが、無事なほうの肩でスクラムを組み、最後までプレイを続けました。「なぜ交代を申し出なかったの?」という私の質問に、息子は「ほかにも怪我をしている選手が多くて、交代要員がいないから」と答えました。

 

コンタクト・スポーツに情熱を傾ける男性や寡黙な男性に対して、私は「男らしさ」を感じますが、しかしまた同時に、そこには男性特有の自己犠牲のようなものがあるように思えてなりません。そこで私は、そうした男性たちに向けて、もしケアメンになっても自分自身の人生や生活を大切に送れるように、ぜひ知っておいてほしいことを物語にしてみようと思い立ちました。

 

この連載を読んでくださることで、ケアメンへの垣根が低くなり、誰かに頼ること・頼れることについて、少しでも理解が深まるよう願いを込めて。

 

2019年4月 西尾美登里

 

 

にしお・みどり 1973年生まれ、福岡市在住、日本赤十字九州国際看護大学講師。1995年より看護師として働き始める。2015年 九州大学大学院医学系学府保健学修了・看護学博士。家族を介護する「男性」を対象とした研究や、男性の家庭内進出をテーマに活動している。一児の母親。著書にシリーズ・エッセイ「ばたばたナース(ペンネーム・桜木もえ)などがある。

>>「ケアメンたろう」を読む

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company.

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