鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

- 最終回 -

第10回 看護師が自分の体を知るということ

何かとストレスの多い現代社会では、診断のつかない不調に悩む方がたくさんいます。不調は単なる不快感だけでなく、「大きな病気が隠れているのではないか」という不安も引き起こします。看護師は自分自身の不調な状態をついつい後回しにしたり、薬でごまかしたりしがちです。本連載の最終回では、自分の体に耳を傾け、日々の生活を整えることの大切さについて考えてみたいと思います。

 

東洋医学で不調を考える

 

東洋医学の視点で自分の抱える症状を捉えてみると、原因が見つかることがよくあります。たとえば、片頭痛がいつもよりひどい場合、鎮痛剤で痛みを抑えるだけでなく、次のように考えることができます。

 

「胃腸の調子は大丈夫かな。最近、暴飲暴食気味だったかもしれない」

「雨が降っていて気圧の変化も影響しているのかな」

「湿気も多いから、体の中に湿(しつ)がたまって頭痛がひどくなっているのかも」

 

このように原因を探っていくと、食生活の見直しや、体の「湿」をとるための軽い運動など、対処法にたどり着きます。理由がわかるだけでも、不調が少し和らぐことがあります。東洋医学では、「発病には至らないものの、健康な状態から離れつつある状態」を未病といいます。この未病の段階で、自分で対処することが理想的です。東洋医学を知らなくても、日々のちょっとした体の変化に自分で気づくことが大切です。

 

自分の体を知ること

 

現代医学は、病気や症状が「治る」「よくなる」ことを求めます。そのため、医療者は不調もゼロにしなければいけないと考えがちです。医療を受ける患者も、不調がなくなることを求めているでしょう。しかし、不調をゼロにすることは、果たして可能なのでしょうか。人は老化していきます。歳を重ねるとともに、付き合っていかなければならない体の不調は、どうしても出てくるものです。

 

私が鍼灸学校の学生のときに「鍼灸の治療をしても、半日しか効果がもたなかった」とがっかりしていると、鍼灸師の先生が「半日は効果があったということでしょう。痛みがとれなくても、じんわり汗をかいたとか、温まったとか、そういうことも効果の1つだよ。体が反応しているのだから」と話してくれました。

 

先生の教えから、私は体の不調と付き合うためには、次のことが大切だと気づくことができました。

 

  • 症状改善だけでなく、体が反応したことを見落とさずに感じること
  • 症状はゼロにはならないが「これをすると楽になる」ものを見つけること

 

ちょっとしたよい変化も悪い変化も、自分で感じることでしか評価はできません。養生、つまり日常生活を整えることは、「10だった不調を8にする」「以前よりほんの少しでも楽になる」といった変化を目指すことだといえます。私が「聖路加健康ナビスポット:るかなび」で行っている市民向けのセルフケア講座も、自分の体を知り、自分に合った体の整え方を参加者が1つでも見つけられるように企画・開催しています。

 

看護師として人の不調をサポートするには、自分の体に常に意識を向け、体の反応を感じる経験が必要だと思います。なぜならば、看護師が自分の体からのメッセージに無頓着だと、他人の不調に関する「ちょっとした言葉」をキャッチできません。そして、曖昧な言葉かけのまま、その人の状態を深く知るための意図的な質問もできず、「不調に対してできること」を共に見つけることは難しいでしょう。

 

看護師だからこそ、自分の体に対してもできることがあるはずです。ぜひ、対処療法の薬を飲む前に、まずは自分の体の声を聴いて、感じて、自分でできることがないか、振り返ってみてほしいと思います。

 

冷えも万病のもと

 

不調と付き合うにあたり、自分でできることの1つが「冷え対策」です。第9回でお話しした「かぜ」と同様に、冷えは万病のもとです。気血の滞りや、水分代謝の異常、臓腑の働きの低下の原因になります。つまり、体の冷えは、前述した「未病」の状態といえます。自分の体が冷えていないか、一年を通して意識することが大切になります。

 

たとえ体感で冷えを感じていなくても、実際にはお腹、お尻、手足などが冷たいことがあります。おしゃれな服も楽しみたいですが、気温や体調に合った服装を心がけましょう。首まわり、手首、足首を冷やさないように、スカーフやマフラー、レッグウォーマーなどで調整するとよいでしょう。また、できれば一日の終わりは湯舟に浸かり、冷えた体を温め、ゆるめたいものです。前述したセルフケア講座で冷え対策を取り上げたところ、「湯舟に浸かり、足のツボ押しをすることで何となく調子がよいです」という声もありました。

 

食事では冷たいものは避け、できるだけ温かい食べもの・飲みものを摂りましょう。生姜やシナモンなど、体を温める作用のある食材がおすすめです。生姜は、生よりも加熱した方が体を芯まで温める力が強くなります。煮込み料理に入れたり、生姜パウダーを使ったりすると効果的です。

 

冷え対策にはお灸もおすすめですが、やけどや煙が気になり、ハードルが高いと感じる人が多いかもしれません。お灸の代わりに手軽にできる「ペットボトル温灸」というセルフケアを紹介しますので、ぜひ役立ててください。

 

連載のおわりに

自分の体は自分のものです。自分を大切にする「日常生活を整える。」こと、これからもさまざまな形でお伝えしていきたいと思っております。言葉にして残す機会をくださり、サポートしていただきました編集部の椚田直樹氏、村上陽一朗氏に心より感謝を申し上げます。

 

参考文献

若林理沙:安心のペットボトル温灸, 夜間飛行, 2014.

コラム:かぜ対策のツボ「風門」

  1. ホットドリンク用の350mLのペットボトルを用意します(コールドドリンク用や缶は使用できません)。
  2. 水1:お湯2の割合でペットボトルに入れます(例:水100mLに沸騰直前のお湯200mLを入れます)。その際、ペットボトルが変形しないように、先に水を入れます。
  3. ツボ付近(イラストは足三里の付近:第4回参照)の地肌に当てて、熱いと感じたらすぐ離します。3~4回が目安で、肌がピンク色になったらストップします。ツボの場所がわからなくても、冷えを感じるところに、当てやすい角度で、直接皮膚にペットボトルを当てればOKです。

   る   か   な   び   情   報  

▶️▶️ 連載のはじめに

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