鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第7回 気の流れを感じて生活をする

中国最古の医学書「黄帝内経」(こうていだいけい)には、子午流注(しごるちゅう)ということばが書かれています。

 

「子午」とは、時刻の意味です。24時間を2時間ずつ12等分にして、12支に対応させています。「流注」とは、臓腑の気血の流れを意味し、時刻ごとに対応する臓腑があります。臓腑が対応した時刻に、その臓腑の気血の流れが活発になるといわれています(流注については、第5回第6回でも少しお話しました)。

 

今回は子午流注(下図)をもとに、1日の気(生命エネルギーのこと。第4回も参考してください)の流れをみていきたいと思います。

 

 

胆の時間(23時~1時)

 

中医学の胆も、現代医学の胆のうと同じく、胆汁を貯蔵すると考えます。「胆(たん)がすわる=きもがすわる」という言葉があるように、決断力、勇気とも深くかかわります。この時間は成長ホルモンも多く分泌され、体を整え、体がつくられる時間になります。

 

肝の時間(1時~3時)

 

肝に血が戻り、血を浄化させる時間で、自律神経を整えるためにも、この時間帯の睡眠を充実させるとよいといわれています。肝の気の乱れがあると、この時間帯に中途覚醒することもあります。

 

1日を通して、自然の中の「陰の気」がいちばん強いのは「胆・肝」の時間(23時~3時)です(1日の陰陽については、第3回を参照)。人の体にある「陰の気」もこの時間につくられます。陰気が不足すると、体の陰陽のバランスが崩れて、不調につながります。元気な人も、病気の人も、少なくとも22時くらいには寝るための支度をして消灯し、寝る前の30分は電気を暗くしてゆったりする時間をもち、23時には眠っていることが理想です。

 

肺の時間(3~5時)

 

肺は全身の気の調整を行います。この時間は、より全身に気血を巡らせる時間になります。肺気が活発になることで、肺に熱がある喘息の人は、肺気の変動が起きて、喘息発作が出やすくなります。

 

大腸の時間(5~7時)

 

大腸の時間に起きて、コップ一杯の白湯を飲んで目覚めさせましょう。便秘の方には特におすすめです(詳細は第5回を参照)。

 

肺と大腸は表と裏の関係になります。大腸の調子が悪いと、喘息など呼吸器のトラブルも悪化しやすくなります。また、喘息や風邪などで肺に熱があると便秘になりやすいです。肺の時間(3~5時)に起きるのはなかなか難しいですが、朝起きたら窓を開けて、新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んで肺を整え、1杯の白湯で、胃腸を整えましょう。

 

胃の時間(7~9時)

 

この時間は、胃が活発に動きます。温かい食事で、1日のエネルギー補給に適した時間です。

 

脾の時間(9~11時)

 

脾が気血を生み出したり、全身に気血を巡らせたりするのに適した時間です。軽く動いて流れを助けましょう。

 

胃の時間に朝食を摂らないと、脾の時間に気血をつくり出すことができません。しっかり朝食を食べましょう。朝、食欲がない人は胃腸のむくみが考えられます。水分摂取が多くないでしょうか甘いもの、脂っこいもの、冷たすぎるものを摂りすぎていませんか朝に胃もたれしている人は、夜遅い時間に夕食や間食を摂っていないか、食生活を振り返ってみましょう。

 

心の時間(11~13時)

 

昼食をゆったり摂って、小休憩。午後に備える時間です。1日の中で、陽から陰への転換点になります。短い昼寝や目を閉じるなどして、体を休めましょう。

 

小腸の時間(13~15時)

 

小腸は清濁の分別(栄養の吸収)を行います。小腸の時間に適度な水分補給をし、次の膀胱の時間に備えましょう。

 

膀胱の時間(15~17時)

 

尿をしっかり出して、デトックスの時間。膀胱経の気は、経絡に沿って大脳に到達するので、集中力が高まる時間ともいわれます。最後のひと踏ん張り、お仕事や勉強などをがんばりましょう。

 

腎の時間(17~19時)

 

生命エネルギーと関係が深い腎の時間に夕食を摂り、腎へのエネルギー補給、生命エネルギーの補給を行いましょう。腎を補う黒い食べ物(黒豆、黒ゴマ、黒きくらげなど)を摂るとより効果的です。

 

心包の時間(19~21時)

 

心包は、現代医学では心臓を包む心膜にあたるといわれます。外邪(体の外からやってくる病気や不調の原因)の侵入から心を守る働きがあります。リラックスを心がけて、ゆったりお風呂に入ったり、ストレッチを行ったりしましょう。心や気の流れを整えます。

 

三焦の時間(21~23時)

 

三焦とは、中医学独特の概念です。気、水(津液ともいい、体液のようなものです。津液は、「しんえき」と読みます)の巡る通路です。三焦は肝の機能により維持されています。肝が興奮すると、睡眠に影響が出ます。この時間は、ゆったりと過ごすことで、全身の気血の巡りをよくします。

 

この時間は、血が全身の皮膚組織の末端まで隈なく巡る時間です。気血が隅々までパトロールし、外邪を捕まえて尿から排泄してくれます。風邪などで体調が悪いときは、21時までに就寝するとよいといわれています。

 

子午流注を意識して生活することは、大自然のリズムに体を合わせることです。それぞれの臓腑を整え、体全体を整えるために、子午流注を意識することも養生の1つになります。現代人は不規則な生活になりがちです。この通りに生活するのはなかなか難しいですが、全部できなくても、1日の中でできる時間はやってみる、もしくは、日々できなくても体調が悪いときやゆっくり過ごせるときはやってみる、から始めてはいかがでしょうか。

 

私が「るかなび」で行っている健康講座の参加者の中に、子午流注の表を冷蔵庫に貼って、自分や家族が見られるようにしているという人がいました。このように、1日の生活習慣を振り返るために利用してもよいかもしれません。子午流注などで「気」の流れを意識して生活することは、自分でできる「元気を補う方法」の1つになるはずです。

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