鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第5回 便秘のおはなし─東洋医学で考える

これまで東洋医学の基礎的な内容をお伝えしてきましたが、今回は症状を通して、東洋医学における考え方をお伝えしていきます。

 

腸は脳と自律神経やホルモンを介して密に関連し(腸脳相関)、情動変化や神経疾患にも関係すると言われ、「腸内環境」が注目されています。そこで、腸に関係する症状のなかから「便秘」を取り上げてみたいと思います。

 

東洋医学における消化と吸収の捉え方

 

東洋医学における五臓六腑の働きは、現代医学のそれとは「似て非なるもの」と言えます。東洋医学では、脾・胃・小腸・大腸が、食べ物の消化・吸収に関係するとされています。脾と胃では、食べ物を消化します。このとき、「気の素」(生命エネルギー:第4回参照)もつくられます。小腸で胃からの食べ物を受け取り、栄養を吸収し、大腸で食べ物を粕(便)に変化させると考えます。「気」のこと以外は、現代医学の働きとほぼ同じです。

 

東洋医学から診る便秘

 

東洋医学では、便秘は「大腸の乾燥」と捉えます。その原因にはいくつかあり、大きく2つに分けることができます。1つは、腹満感・腹痛を伴う便秘、もう1つはあまり不快感を伴わない便秘です。腹満感・腹痛を伴う便秘は、気の滞りが影響するタイプ。不快感を伴わないタイプは、体の弱りや虚弱体質が関係しているタイプです。以下、詳しく見てみましょう。

 

1. 腹満感・腹痛を伴う便秘

 

1)熱秘タイプ:胃腸のトラブルによる便秘

暴飲暴食、辛い物や油っこいもののとりすぎで胃腸に熱がこもり、気の流れが滞るため、胃腸の働きが悪くなるタイプです。便が乾燥して硬くなる、肛門の灼熱感、腹痛、口臭、口の渇き、過食などの症状があります。

 

2)気秘タイプ:ストレスによる便秘

ストレスにより気が滞ることで、自律神経に影響し便秘になるタイプです。腹部の術後に起こる便秘や腹満感も腸の気が停滞して起こるので、このタイプになります。便意があるのに排便できない、腹満感、腹痛や胸の張り感、げっぷが多い、イライラしやすいなどの症状があります。

 

2. 不快感を伴わない便秘

 

1)虚秘タイプ:虚弱による便秘

気血不足で便を押し出す力がない、または体の潤い不足による便秘です。虚秘タイプの便秘は、次の3つの原因に分けることができます。

 

① 気が足りない(気虚)

病後や虚弱体質の場合に生じやすい。いきむ力がない。便意はあるが排便困難。息切れ、倦怠感がある。脱肛。

 

② 血が足りない(血虚)

貧血、月経中や出産後などの場合に生じやすい。長期間の便秘、コロコロ便、めまい、つやがない、唇や爪が白っぽい。

 

③ 潤すものが足りない(陰虚)

熱性の病中、病後に生じやすい。コロコロ便、手のひら、足の裏のほてり、寝汗。

 

2)冷秘タイプ(冷えによる便秘)

冷えによって大腸の動きが悪いために起こる便秘です。最初は太くて硬い便が出ますが、最後は下痢になりやすいという特徴があります。腹部や四肢の冷え、腰痛、夜間尿などといった症状が生じます。

 

 

食事の養生による便秘対策

 

便秘対策の食べ物といえば、バナナやヨーグルトが浮かびます。食物繊維や乳酸菌など、便秘によい成分が含まれますが、体質的に合わない人もいます。摂取すると便通がよくてなっても、実は乳糖不耐症で消化不良による下痢となってしまう場合もあります。

 

また、果物や乳製品は体を冷やします。体に熱がこもる熱秘タイプと、虚秘タイプの「③潤すものが足りない状態(陰虚)」にはよいのですが、その他のタイプでは腸の機能低下につながります。豆類、イモ類も食物繊維が多く、よい食材ですが、気秘タイプの人はもともとお腹が張りやすい上に、助長させるので控えましょう。お腹に力が入りにくい虚秘タイプにはよい食材です。

 

食事の養生でおすすめしたいのは、お味噌汁です。味噌の発酵には、麹、酵母、乳酸菌が寄与します。原料の大豆は食物繊維が豊富です。生味噌の植物性乳酸菌は生きたまま腸に届き、味噌に含まれるオリゴ糖は善玉菌の餌となり、腸内環境を整えます。具は体を補う、きのこ類やわかめなどの海藻類がおすすめです。簡単でアレンジの利く薬膳料理ですね。

 

下剤と体質

 

下剤の中には強制的に腸を動かし、排便させるものもあります。腸が「痩せ馬にムチ打つ」状態になり、下剤で腸が少し動くようになっても、それ以上は動けなくなる場合があります。あまり不快感を伴わない便秘の虚秘タイプと冷秘タイプは要注意です。体が弱っている状態なので、温めたり、潤したりして気や血を補うことをしなければ、下剤は逆効果になります。

 

白湯の効果

 

中国最古の医学書「黄帝内経」(こうていだいけい)には、それぞれの臓腑の気血の流れが活発になる時間があると示されています。排泄に関係がある大腸の時間は朝5時~7時です。この時間に空腹で白湯を飲むことは、胃腸を活発にするため便秘に効果的です。

 

よく、朝コップ一杯の冷たい水を飲むとよいと言われますが、東洋医学的には、陰から陽へ変化していく時間帯には1日の活動に向けて体温を上げ、陽気を取り入れるほうがよいと考えます。そのため、起床後すぐの冷たい水(陰)はおすすめしません。

白湯を飲むと胃腸全体が温まり、活性化して消化力が高まります。胃腸全体が活性化すると、老廃物の排泄もスムーズになり、便秘の解消につながります。便秘だけでなく、基礎代謝が上がり、リンパや血液の流れがよくなり、老廃物や余分な水分の排泄にもつながります。

 

起床時に50℃前後の温度、200mL程度を10~20分かけて飲むとよいでしょう。温かい飲み物も、飲みすぎると体温まで下がり、体に残り、むくみや冷えのもとになるので気をつけましょう。夜は寝る30分前に飲むと、リラックス効果があり、眠りやすくなります。

 

肺と大腸

 

五行では、肺と大腸は同じグループに分けられるため、お互いに影響し合います(五行については第2回参照)。たとえば、風邪をひいて肺に熱を持つと、その熱が大腸に影響して便秘になります。便秘があると大腸の熱が肺に影響して、喘息が悪化するなど、相互に関係があります。そのため、便秘の場合は肺に関係するツボや経絡を用いて対処することもあります。

 

便秘一つをとっても、東洋医学ではいろいろな視点から原因を見つけ、対処法につなげます。自分のタイプに合った養生をぜひ試してみてください。

コラム:便秘に効くツボ「合谷」

合谷(ごうこく)は、陽明大腸経という経絡にあるツボで、便秘のほか、頭痛や歯痛、鼻炎などにも効果があるとされており、「万能のツボ」の一つと言われています。合谷の場所は、親指と人差し指の間、人差し指側の骨(中手骨)の下に位置します。骨と骨の間にできた(合する)くぼみ(谷)を意味し、気がよく集まるところです。

合谷

人差し指の中手骨

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