鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第4回 「気」を意識して体の調子を整える

「お元気ですか?」

私たちが普段よく使う言葉です。

 

「元気」とは中医学の用語の1つで、「生命を支える基本的なエネルギー」を意味します。全身を満たす気、全体の気のことです。何気なく使っている「お元気ですか」には、なかなか深い意味があります。

 

東洋医学の独自の考え方である「気」とは、大まかに一言で表すと生命エネルギーのことです。やる気、勇気、元気、気が散る……というように、気という文字を使う言葉でもさまざまなものがあることがわかります。気はエネルギーなので、使うと減ります。ちなみに、気が消耗した状態を証(東洋医学の診断)では気虚といいます。もともと気が少ない、気虚体質の人には気の変動が大きく影響します。

 

気と心の関係

 

心の動きも気に影響します。周りに気を遣うと「気疲れ」します。これも気虚を助長します。気が少ないと気分が落ち込み、やる気も下がります。

 

「気を遣う」という言葉は配慮するという意味ですが、相手に対して何か面倒なことがある、あまりやりたくないというネガティブな意味が含まれます。過剰に気(エネルギー)を消耗しそうなことがうかがえる言葉ですね。似たような言葉でも、「気を配る」は、相手が不便しないように自分が気(エネルギー)を使う、という意味です。看護を行うにあたっても、「気を遣う」のではなく、「気を配る」ほうが、ネガティブなエネルギーがなく、相手も自分も気疲れしなさそうな感じがします。

 

さらに、「心配り」にはあれこれと気を遣うこと、心遣い、配慮の意味があります。「気を遣う」「気を配る」と同じ意味ではありますが、「気を配る」は自分の立場で考えて行動し、「心配り」は相手を思い、どうしたら心地よいかなど、相手の気持ちに寄り添って行動することになります。

 

「聖路加健康ナビスポット:るかなび」で重視している「People-Centered Care」では「心配り」になるように心がけています。来訪者の発する言葉をもとに対話をしながら、困りごとを聴き、一方的な指導ではなく、それぞれの生活、健康観、人生観を知り、その人と一緒に対処方法を考えていきます。

 

看護全般においても「心配り」が求められているように思います。病院では「診療の補助」が中心となりますが、看護師には「療養上の世話」つまり、患者さんの日常生活の援助という大事な仕事があります。家族や看護助手などもできる業務だと思いがちですが、各々の病気や治療を考慮した上で、その人に合った「日常生活を整える」ための心配りは、まさしく看護ケアの本質だと思います。

 

東洋医学では、五臓(肝・心・脾・肺・腎)と対応する感情(五志:怒・喜・思・憂・恐)があります。東洋医学における心(しん)は、循環器系の働きだけでなく、精神の統括を担うと考えます。心(しん)と対応する感情は「喜」。「心を配る」ということは「喜びを与える」ということかもしれません。

 

心を配ったケアや会話、対応をすると、心地よい、うれしい、よかったというポジティブな感情、喜びが相手の中に生み出されます。提供する側も、共感、満足感、達成感が得られ、喜びにつながります。ナイチンゲールも「看護は犠牲行為であってはなりません。人生の最高の喜びのひとつであるべきです1)と述べています。

 

いずれにしても「病は気から」という言葉があるように、看護師が「心配り」で対応することは、患者さんにも、看護師にとっても「心地よさ」によって気を巡らせることになり、ストレスも少なく、体に優しい対応といえるのではないでしょうか。

 

気と体の関係:体を休めることも大切な養生

 

気が心の影響を受けることをお話しましたが、気が不足すると体にはどのような影響があるのでしょうか。

 

気が不足したときの特徴的な症状は「疲れやすい」です。疲れがなかなかとれないときは、気の不足が関係しているかもしれません。気が消耗する要因は、精神的な気疲れのほかにも、ハードに活動しすぎることや睡眠不足など生活リズムの乱れ、汗のかきすぎ(汗と一緒に気も消耗します)、飲食の不摂生(気の素のをつくり出す食べ物の不足)、病中・病後、出産後などがあります。

 

気が消耗した状態である気虚に対しては、「しっかり休むこと!寝ること!」。この当たり前のことが、とても大事なことです。しかし、現代人はなかなかこれができません。やることが多くて、体調が悪くても、疲れていても、「何か行動する」ことがよいことだ、と考えていませんか。

 

自然界が昼と夜でバランスをとっているように、人間の体も活動と休息のバランスは大切です。疲れがとれないのは、やはり活動と休息のバランスが崩れている状況です。あるいは、バランスが崩れた状態が続き、あまり自覚はないけれど、病気の一歩手前、東洋医学では「未病」といいますが、その段階になっているかもしれません。

 

私が行っている健康相談でも、休むことに罪悪感を覚えている人や、話を聞くと「これ以上難しいのでは?」と思うほど十分に活動しているのに、健康のためにさらにがんばろうとする人が多い印象です。健康のために「休みます!」という答えが出てくる人はなかなかいません。必要なときに、その人ができる「休み方」を一緒に考えることも看護の1つかもしれません。人との比較ではなく、自分で感じて休むということも大切な養生だと思います。

 

気にはいろいろな働きがありますが、体の防衛機能にもかかわります。風邪を引きやすくなる、感染症にかかりやすくなる、花粉症などのアレルギーも出やすくなるといった影響が現れます。忙しく、がんばりすぎる日本人は、多くの人が気虚で、気を補う必要があります。休息をしっかりとる、暴飲暴食をしない、気疲れしたら一人の時間をとる、体を冷やさない、日光を浴びるなど、日々の当たり前がとても大切な養生となります。できることからやってみてはいかがでしょうか。

 

引用文献

ナイチンゲール著,湯槙ます監修,薄井坦子他訳:ナイチンゲール著作集 第2巻,現代社,p.128,1974.

コラム:気を補うツボ「足三里」

松尾芭蕉の奥の細道にも出てくる万能のツボ。膝のお皿(膝蓋骨)の下、外側のくぼみから指4本分下に位置し、足陽明胃経という胃にかかわる経絡上にあるツボです。胃腸が弱ると、気の素がうまくつくられません。気持ちよい程度に押したり、お灸で温めたりしてみてはいかがでしょうか。足三里にするお灸は「長寿の灸」とも言います。腹部疾患全般のほか、動悸・息切れ、喘息、つわり、月経困難などに使われます。

足三里

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