鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第1回「るかなび」での健康相談 ――自己紹介を兼ねて

仕事中の立ち話で、「頻尿に効くツボはあるの?」「肩こりにはどこのツボがいいの?」といったことをよく聞かれます。同様に、「〇〇が治る薬はないの?」「〇〇を治すにはどこに行ったらいいの?」などの質問も受けます。これらの質問に対して、押すだけでよくなるツボ(特効穴)や特効薬といったものを具体的に回答するのは、なかなか難しいものです。簡単に治せる方法を求めたり、自分の健康維持や病気の改善を誰かに委ねてしまったりする人が多いように感じます。

 

聖路加国際大学では、「市民が主体となり、保健医療専門職とパートナーを組み、自分の健康課題の改善に向けて取り組むPeople-Centered-Care(PCC)」を提唱し、“自分の健康を自分で創り守る社会”の実現を目指しています。その一環として、地域に開いた聖路加健康ナビスポット「るかなび」では、健康に関する図書の閲覧サービス、健康チェック、健康相談、健康講座、ミニコンサートなどを通じて、市民の主体的な健康づくりを支援しています。私はそこで、看護師として鍼灸師の資格を活かしながら働いています。

 

講座参加者の皆さんとともに冷え対策のツボを確認。各々のツボの位置を確認して回ることもあります。

 

困り果てている人に向き合う

 

「るかなび」には、医師でも対応が難しい不調や不定愁訴を抱えた方が健康相談に訪れることがあります。病院を受診して検査しても問題なく、「様子をみてください」「年ですね」と濁されて困り果てている人や、「慢性疾患で医師から言われたことをやったけど、よくならない」というような悩みを抱えた人など、背景はさまざまです。

 

訪れたかたの一人ひとりに、看護師としてどう向き合うかが重要となります。私は東洋医学の考え方を取り入れながら、相談者の悩みや困りごとを聞いています。不調を抱えると、多くの人はついつい病院や薬に頼ってしまいますが、現代医学にも不得意なものがあります。東洋医学のよいところは、現代医学で診断がつかなくても、症状をもとに治療や養生法を考えられるところです。

 

東洋医学では「治療は3割、あとの7割は生活の中での養生」と言われています。養生とは命を養うことです。具体的には、食、体、心を整えること。つまり日常生活を整えることです。病気は日常生活の中で生じますから、 病気を予防したり、治したりするためには、自分で自分の心と体を知り、日々の生活を整える7割の部分が大切です。

 

「るかなび」での健康相談では、来訪者の話を聞き、現代医学の視点から質問をし、アセスメント(評価・分析)を行い、生活習慣を見直して不調の要因を探ります。医師による精査や診察が必要なものは受診を促し、受診の必要はないと判断した場合や精査・診察が済んでいる場合は、看護師が一緒になって改善する手段を考えます。

 

現代医学の考え方で答えが出にくい場合は、東洋医学的な診察法「望・聞・問・切(望診・聞診・問診・切診)」のうちの1つ、「問(問診)」の方法を用います。体質や症状の原因を見つけるための問診で、現代医学と違い非常に細かく体のことを聞きます。例えば、「息が苦しい」という症状1つとっても、吸いにくいのか、吐きにくいのかでも証(東洋医学的診断)が変わってくるからです。

 

東洋医学で重要な切診(切:舌や脈をみることや腹診)はこの健康相談ではできませんが、たたずまいや表情などを見る(望)、声を聴く(聞:声量、咳があるなど)などを同時に行いつつ、一日の活動内容、食事、睡眠、ストレスの程度、生活環境、メンタル、家族とのかかわりなどを東洋医学的な視点で伺い(問)、アセスメントして、どのように今の生活を整えていくか、その人にできることを一緒に考えていきます。健康相談を受けて、「自分でまだできることがあった!」とほっとする人や、病気との付き合い方をもう一度見直す人は多くいます。「生活改善をしてよくなった!」と報告に来てくれる人もいます。

 

看護師が健康でなければ、よい看護はできない

 

病院や健診などでも看護師による生活指導はありますが、その人に合った方法を一緒に考える時間は限られています。以前、私も人間ドックで生活指導を行っていましたが、一人にかけられる時間は5分程度で、検査結果から一般的な内容を話すことで精いっぱいでした。「その人の健康のために、その人に合った養生をともに考え、伝えることが看護の神髄なのに」と、もどかしさを感じることもありました。その点では、「るかなび」での健康相談は、私にとってやりがいのある仕事です。

 

東洋医学では、人と自然界の密接な関係を重視しています。自然界の変化は直接的・間接的に人体に影響し、生理的・病理的な反応を引き起こします。これらの反応に対して、湯液(漢方薬)、鍼灸、あん摩といった治療方法や、食事・睡眠・運動などを改善する養生法で体を整えます。

 

養生法は、看護師自身の健康を守ることにも役立ち、患者さんへのケアの幅を広げる手立てにもなります。看護師自身が健康でないと、よい看護はできません。自分の体のことをあと回しにせずに、日々の生活を振り返る習慣を身につけたいものですね。

 

次回からは、自分自身を大切にするための養生法や、看護ケアに応用できる東洋医学の知識などをお伝えしていけたらと思います。

   る   か   な   び   情   報  

▶️▶️ 連載のはじめに

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company