鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第9回 かぜは万病のもと ──東洋医学で早めの対策

かぜは、悪寒、発熱、頭痛、鼻づまりなどを主症とする上気道の急性炎症です。東洋医学では、風の邪気である「風邪」(ふうじゃ)が、「風門」(ふうもん)というツボから体に侵入してかぜになるといわれ、不規則な生活や寒暖差、過度の疲労、虚弱体質などが原因で体表を守る力が弱くなり、罹患すると考えます。

 

東洋医学によるかぜの治療では、漢方薬の出番です。今回は、知っておくと役立つ漢方薬のポイントをお伝えします。

 

かぜに効く漢方薬

 

東洋医学的には、かぜは大きく2つのタイプがあり、タイプに合った漢方薬を使用しなければ逆効果になります。代表的な漢方薬である葛根湯も、かぜに対してオールマイティに使用するものではありません。

 

1. 風寒型への漢方薬

体がぞくぞくする風寒型のかぜは、次のような症状が当てはまります。

 

  • かぜのひき始めに、背中がぞくぞくして寒気がする
  • くしゃみが多い、鼻水が透明でたらたら出る
  • 手足や首元が冷え、首や肩がこる
  • 節々が痛む

 

これらは寒の邪気である「寒邪」(かんじゃ)、つまり冷えが原因の症状です。冷えにより、汗腺が閉じて汗が出にくくなったり、血行不良になったりします。この場合、体を温めて発汗を促すことで寒邪を追い出します。そのため、体を温める作用のある葛根湯(かっこんとう)が適しています。悪寒の程度や発汗の状態によっては、桂枝湯(けいしとう)や麻黄湯(まおうとう)などを使い分けることもあります。

 

葛根湯は、温める効果を高めるためにお湯に溶いて飲むと効果的です。服用は、発汗し始めて悪寒がおさまるまで続けます。発汗がみられたら服用を中止しましょう。その段階で、冷えから熱症状に変わった可能性があるためです。

 

養生としては、発汗を促す次のような事柄がポイントとなります。

 

  • 温かい味噌汁やスープなどを摂る。
  • 冷たい飲食物は避ける。
  • 滋養性の高い飲食物は、消化に気血が使われるため控える。
  • 熱めのお風呂に数分入って温まり、長風呂は避ける。

 

2. 風熱型への漢方薬

かぜのひき始めに喉が腫れて痛い、頭が熱っぽくなってぼーっとするタイプを風熱型といいます。ほかにも、次のような症状が当てはまります。

 

  • 鼻の粘膜が腫れて痛い
  • 熱が高い
  • 喉が渇く
  • 尿の色が濃い
  • 舌の先端が赤い

 

このような熱症状(炎症症状)があるタイプは、東洋医学では「熱邪」(ねつじゃ)が原因と考えます。かぜの初期から汗が出やすい状態のため、葛根湯などの発汗を促す漢方薬は逆効果です。代わりに、熱を鎮め、炎症を抑える作用のある「銀翹散」(ぎんぎょうさん)が適しています(銀翹散は市販薬のみで、処方薬はありません)。

 

養生のポイントは、次のとおりです。

 

  • 脱水を防ぐため、発汗を抑えつつ解熱を行う。
  • 発汗を促す香辛料類、体を温める飲食物は控える。
  • 滋養性の高い飲食物は、消化に気血が使われるため控える。
  • スマホやパソコンの使用を控え、部屋の明かりを落として休む(目を使うと頭に熱がこもりやすくなる)。
  • 衣類が汗で濡れたら、こまめに取り換える。

 

漢方薬の携帯や服用のポイント

 

前述したように、「ぞくぞくする、節々が痛い場合は葛根湯」「喉の痛み、頭が熱っぽいときは銀翹散」といった具合に、使い分けることがポイントになります。

 

家に常備し、冬場は1包ずつバッグに入れておくと安心です。「かぜを引いたかな?」と思ったら、症状が変化していく前に服用しましょう。ただし、持病があり常用薬がある人は、あらかじめ主治医に服用について相談しておきましょう。

また、市販の漢方薬を購入する際は「満量処方」と書かれた医療用と同量の成分のものを選ぶとよいでしょう。

 

かぜに罹ると、体は防衛反応として熱を上げます。ウイルスや細菌と戦うために熱を上げようとしている反応が悪寒で、そのときに解熱剤を使用しても効果はありません。熱が完全に上がりきったタイミング(悪寒がおさまり、汗をかき始める)で使用しましょう。

 

葛根湯は前述のとおり、体が熱を上げるときに使い、汗をかき始めたら中止します。したがって、解熱剤と葛根湯の作用は拮抗するものなので、同時に服用しないよう注意が必要です。

 

なお、東洋医学では、風邪(ふうじゃ)には「動く」性質があると考えられ、それに合わせてかぜの症状もだんだんと変化していきます。症状が複雑化しても漢方薬で対応できますが、漢方専門の薬剤師や医師の判断が必要です。かぜの初期対応で改善がみられず、漢方の専門家への相談が難しい場合は、内科で診察を受けましょう。

 

生薬と食養生

 

漢方薬の生薬は食材として使うものもあり、漢方薬を「養生」の一環として考えることがあります。しかし、生薬の中には注意が必要なものも存在します。たとえば、交感神経を刺激して血圧を上昇させる作用を持つ麻黄や、摂取量によっては偽アルドステロン症の要因になる甘草などです。また、漢方薬には長期間服用するものがある一方で、短期間で切り替えるものもあります。

 

今回ご紹介した葛根湯のように、その人の状態によっては逆効果になるものもあるため、漢方内科や漢方薬局などで東洋医学的な診断(証)を受けたうえで処方してもらうことが望ましいでしょう。

 

葛根湯の中には、葛根(葛)、桂皮(シナモン)、生姜といった食材としても使される生薬が体を温める・巡らせる目的で入っています。そのため体が冷えたときには、生姜やシナモンの葛湯を飲むとよいでしょう。また、喉の調子が悪い時や胃もたれの時には、胃腸を整えたり、熱を冷まし、炎症を抑える薄荷(ミント)を使ったミントティを飲むとよいでしょう。薄荷は銀翹散にも使われています。生薬でも食材としての使用は効果がマイルドなので、かぜ対策の食養生としておすすめです。

コラム:かぜ対策のツボ「風門」

風門(ふうもん)は、膀胱経(ぼうこうけい)という経絡上にあるツボで、発熱や頭痛、咳嗽といったかぜ症状に効果があるとされています。風門の場所は、上背部の肩甲骨と脊柱の間(第2胸椎の高さ)です。風門の周辺には風邪や喘息など呼吸器系によいツボが集まっています。首にマフラーを巻く、低温カイロを貼るなど、温めるとよいでしょう。

風門

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