(るかなび看護師・鍼灸師)
今回は第5回の「便秘」、つまり腸とも関係が深い自律神経のおはなしです。
自律神経の不調とは?
自律神経とは、生きるうえで欠かせない、呼吸、消化、代謝といった基本的な活動を調整している神経です。ご存じのとおり、自律神経には活動を活発にする「交感神経」と落ち着かせる働きの「副交感神経」があり、この2つで体のバランスをとっています。東洋医学の陰陽論で考えると、昼に活発になる交感神経が陽で、夜に活発になる副交感神経が陰になります(陰陽論:第3回参照)。
自律神経の不調とは、そのバランスが崩れて、動悸やめまい、手足の震え、脈拍や血圧の上昇、イライラ、不安などの症状がみられることをいいます。原因としては、ストレスや冷え、ホルモンバランスの変化、食事の変化、睡眠不足などが考えられます。一時的なものであれば自然に治りますが、症状が重い場合、現代医学では投薬による治療やカウンセリングによるストレス緩和を行います。
東洋医学での自律神経の考え方
東洋医学では、自律神経をどのように考えるのでしょうか。五臓(第2回を参照)の中で、自律神経のような働きをするのは「肝」です。いわゆる現代医学の肝臓とは違って、精神や情緒の安定に関係したり、「血」(けつ)を貯蔵して、夜に浄化したり(現代医学での肝臓の解毒に似ています)、血の量を調整し、体の各所に分配します。そのため肝の不調は、各臓腑を滋養する気血量に影響し、各臓腑の不調につながります。これが多種多様な不調、メンタルの不調を起こす理由です。
ちなみに「血」とは、現代医学の血液と似て、全身の各組織を養い、潤す働きや、全身の老廃物を運搬して排泄することに関与します。また精神活動にも「血」の量が関係していると考えます。精神を統括する「心」(しん)の血の量が減ると、動悸や不眠、情緒不安定などの症状が現れます。
ここで、肝の不調をタイプ別にみてみましょう。
ストレスタイプ
ストレスによるイライラや怒りは、直接「肝」に影響を及ぼします。怒りで頭に血が上るといいますが、強い怒りは熱を持ちます。実際に、怒っている人の顔は赤くなり、血圧も上昇します。怒りによって熱を持った気血は、自然の摂理通り(温かい空気は上に昇る)、頭の方に過剰に上がります。
その影響で、頭痛やめまい、多汗、耳鳴りなどといった頭部の症状が現れます。熱が脾胃に波及すれば、食欲不振、胃痛などの消化器症状も現れます。
胃腸が弱っているタイプ
五臓の「脾」と「胃」は、気血の“もと”をつくります。胃腸が虚弱の人は、エネルギー不足で気血のもとをうまくつくることができず、肝の血量にも影響していきます。肝に十分な血がないため、そのほかの臓器も滋養されません。症状としては、現代医学でいう貧血症状(めまい、食欲不振、疲労感など)があります。
暴飲暴食で胃腸が弱っている場合には、体に余分な熱や水が停滞するので、胃やみぞおちのつかえ感、腹満感、体が重いといった症状が生じます。
加齢や疲労タイプ
体の温度調整は腎の気で行います。疲労や加齢に伴い、体を冷ます気が減ると、温める気が相対的に強くなるため、体に熱を持つ状態になります。五臓の「心」の熱や「腎」の弱りによる動悸、のぼせ、ほてり、足腰のだるさ、などが生じます。
臓腑は連動して働いています。東洋医学では、精神活動の統括は「心」、ホルモンの働きに関係するのは「腎」といわれています。現代医学でもメンタルやホルモンバランスが自律神経の症状に影響があるように、心と腎のトラブルが肝に影響することもあります。
肝を整える
肝はのびやかで気血の流れがスムーズであることを好みます。気血の巡りをよくすることが大切です(五行:第2回参照)。好きなことや楽しいことをすると気血の巡りをよくします。
食べ物にも五臓に合った味があります。東洋医学では、食べ物の味を五臓に関連して酸・苦・甘・辛・鹹(かん)の5つに分けて考えます。なお、鹹は塩からい味を意味します。
肝と関連する五味は酸になります。酸味があるものや、香りのよいものが気血の巡りをよくします。レモン、グレープフルーツ、梅干し、イチゴ、ヨーグルト、お酢、ネギやしそなど香味野菜、ジャスミン茶、ミント茶などの食べ物が肝を整えます。好きな香りのアロマオイルを活用するのも気を巡らせます。また、第5回で紹介したツボ「合谷」には気の巡りをよくする働きがあるので、ツボ押しなども効果的です。
また、自律神経を整えるためには、23時までの就寝をおすすめします。時刻ごとに対応する臓腑があり、23時~1時は肝と同じグループである胆が活発になり、1時~3時は肝の気血の流れが活発になります。成長ホルモンが多く分泌され、体をつくったり、肝が血を浄化したりする時間です。そして、この時間は陰がいちばん強い時間になります。陰を補うには、この時間の休息(活動が陽で休息が陰になります)が必要です。肝が調節する「血」も陰に分類されます(ちなみに「気」は陽、「水」は陰)。肝を整える大事な時間になります。
関係する臓腑を整える
肝に関連する臓腑を整えるために心がけたいことには、以下の事柄が挙げられます。
気血を補う(胃腸の働きを整える)
気血のもとをつくる胃腸(脾胃)に負担をかけないよう、暴飲暴食を避け、冷たいものを摂りすぎないようにしましょう。気血を補う、お米、いも類、豆類、栗、カボチャを食べるとよいでしょう。
冷え対策(腎の働きを整える)
冷えは血の運行に影響するので、冷え対策が重要です。また、冷えは腎に負担をかけます。腎の働きである水分代謝に異常をきたすと、体に水分が停滞し、その水分が体を冷やすという悪循環に陥ります。
水分は重力で下に行き、冷気は下にたまるので、下半身の冷えが悪化します。反対に熱は上昇するので体の上部へ向かい、のぼせやすくなります。まずは、お腹や腰、骨盤内を冷やさないようにすることが大切です。
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東洋医学には診断・治療を行う際に、基本となる考え方として「整体観」というものがあります。整体観とは、人体と自然界との関係を重視すること(天人相応:第2回参照)、人体の全体性を重視することです。
人の体は、熱い夏には発汗して体の熱を下げるなど、調整する力があります。「日の出とともに起き、日の入りに合わせて就寝すること」は、自然の一部である人間にとって、体内バランスを維持するためにもよいことです。
現代社会は不規則な生活になりがちで、自律神経の不調は誰にでも起こりうる状況です。人の体は、さまざまな部位や臓腑が連動して働いています。今、気になる不調だけでなく、気づいていない不調や、「大丈夫だろう」と後回しにしている不調はありませんか?
ちょっとした体の不調に気づきメンテナンスすることが、自律神経に限らず大切です。少しでも体にやさしい生活が送れるように、自分の体と対話をしてみてください。
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