福祉と音楽の祭典「糸賀一雄記念賞音楽祭」(第10回・2011年)で、信楽学園の子どもたちを対象に行った音楽ワークショップのようす。

はじめに

 

この連載では、主に精神障がい者、知的障がい者、認知症高齢者などの「支援」の現場において展開される「表現活動」の意義や可能性、その実践を通じて紡がれてゆく新たな「支援観」=「そもそも支援とはなんなのか?」といった問いに対する現場からの声を、伝えてゆきます。

 

昨今、精神障がいや知的障がいのある一部の人たちが創作した造形物が「アウトサイダーアート」や「アール・ブリュット」などと呼ばれ、さまざまなシーンで注目されています。また障がい者と健常者が交わりながら、ともにユニークなダンスや音楽を作り上げてゆく舞台公演も盛んに開催されています。また認知症介護の現場でも、ダンサーや音楽家がこれまでの芸術療法とは異なるアプローチから独自のワークショップを行う機会も増えて来ました。

 

私はこの十数年来、音楽制作や文化事業のプロデュース、文筆業などを通じて、広く「表現活動が社会に及ぼす可能性」について考え、実践してきました。あるときはミュージシャンとして、知的障がいのある人と協働した音楽ワークショップに参加し、またあるときは文筆家として、精神障がいや知的障がいのある人たちの造形活動にまつわる取材をし、またあるときは活動家として、精神科病棟に長期入院する患者の地域生活実現を目的としたNPOの立ち上げに関わってきました。

 

もともと、支援やケアといった領域とは何の縁もなった私が、なぜこういった現場に関心を持ったのか。もちろんきっかけは障害のある人のつくった作品に魅了されたことが大きい。しかし、それだけではないのです。それ以上に私が関心を持ったのは、支援・ケア現場で働く人たちがときに戸惑いながらも「本当の支援とは何か」という問いに真摯に立ち向かってゆく姿、といったものでした。

 

これらの現場においては、障害のある人、病を抱える人、老いを抱える人などは、それぞれのその弱さの特性において、ときに(福祉サービスや施設の)「利用者」となり、ときに「患者」となります。そしてこれらを支援・ケア“される”方々を支援・ケア“する”のが、「支援員」や「介護士」や「看護師」と呼ばれる方々です。しかし一方で、実際の現場ではこれらを自明のこととは言い切れないような気持ちの揺らぎに悩まされることもあるのではないでしょうか。

 

利用者や患者である前にもはや「“その人そのもの”と向き合っている」としか言いようがないメッセージを相手から受け取ってしまうこと。相手の人生の一端に生々しく触れた感触が消えることなく、職業的責任感のみでは整理できないような問いが胸中に渦巻いてしまうこと。そうしたとき、そもそも「支援」をいったいどこからどこまでの行為として捉え直せばよいのか。私はその答えを探るひとつのメガネとして、「表現」という営みは“使える”のではないか、と思っているのです。

 

この連載では、私自身がさまざまな立場で一関係者として協働してきた具体的な支援現場での表現活動や、それを経て変化してゆく現場の多様な関係性のルポと関係者へのインタビューを通じて、読者の皆さんと一緒に、支援を悩みながら突き詰めたその先の「超支援」について、探りあうことができれば幸いです。

 

2017年4月

第一回 支援と表現活動のハザマから考えうること

第二回 地域福祉の実現に並走する美術館運営という「支援」

―ボーダレス・アートミュージアムNO-MA(社会福祉法人グロー)の実践から―

アサダワタル

 

1979年生まれ。大阪出身・東京在住。文化活動家・アーティスト。大阪市立大学都市研究プラザ博士研究員、サウンドメディアプロジェクト「SjQ/SjQ++」ドラマー。

 

音楽や言葉の創作、文化事業(アートプロジェクト)やワークショップの企画演出を通じて、障害福祉やまちづくりなどさまざまなフィールドで文化活動を展開。また実践と並行して2016年に滋賀県立大学大学院環境科学研究科にて博士号(学術)取得。

 

著作に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ 表現と仕事のハザマにあること』(木楽舎)、『表現のたね』(モ・クシュラ)、『アール・ブリュット アート 日本』(編著、平凡社)、『ひとびとの精神史第9巻 震災前後―2000年以降』(共著、岩波書店)など多数。

 

これまで、数々のNPOや社会福祉法人と協同して、表現活動と支援(ケア)の関係性について実践と研究を重ねてきた。障害のある人々の表現をテーマにしたラジオ番組・KBS京都ラジオ「Glow 生きることが光になる」パーソナリティ、ボーダレス・アートミュージアムNO-MA懇談会委員、NPO法人多様性と境界に関する対話と表現の研究所理事、NPO法人kokoima理事などを歴任。ホームヘルパー2級取得者。

 

https://www.kotoami.org

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