Cafeここいま」の入り口。晴れた日に「ふくまる軒下マーケット」という名のバザーを行なっている。Facebook日記より転載。

 

 

「超支援?!」。そんなちょっと大仰なタイトルをつけて書き始めたこの連載では、主に障害福祉や精神看護の分野における「支援」や「ケア」という取り組みについて、現場に関わりながらいろいろと感じてきたことを、僕なりに書いていくものだ。と言いながらも、僕は看護や福祉の現場人ではないし(ホームヘルパーをやっていた時期はあるがかじっただけ)、またその分野の研究者や専門家でもない。芸術文化活動。これが僕の軸足。ではなんでそんな立場の者が、「支援」についてあれこれ書いているのか。

 

それは数年前から福祉施設や病院などで行われる当事者(入所者や利用者や患者)を対象とした表現活動(絵画や彫刻などの造形活動、ダンスや音楽などのパフォーマンス活動)に関わり続け、人が「障害者」や「患者」である前に「多様な面を持ち合わせた◯◯さん」であるという、当たり前だけど見過ごしがちな事実に気付かされてきたからだ。そしてまた、生活支援員や看護師との交流や対話が増えるなかで、「その分野の専門性」を高めていくことが、より力強く当事者の支えになる一方で、時として「支援の常識」という壁にぶつかり、「一生活者としての相手に向き合う」という前述したコミュニケーションが取りづらくなっていく、そのような支援・ケア従事者当人の語りや状況に対しても、モヤモヤとした関心を高めてきたのだ。

 

こうした現場に関わり始めた当初は、当事者の方々が表現活動を通じてご自身の類い稀な才能や可能性を社会に開いていくプロセスに関心があったのだけど、いつしか活動を通じて支援・ケア従事者が「“真の支援”ってなに?」と悩み揺らぎながら、「福祉」や「医療」や「看護」といった分野の外にその答えを求めつつ新たな「支援者」へと生まれ変わってゆくプロセスにこそ、一層深い関心を持つようになったのだ。

 

さてさて。前回までは、主に知的障がいのある人たちの地域福祉に取り組むなかから、障がいのある人たちの一部が、とてつもない表現衝動から見たこともない造形物を生み出していくことに着目し、やや強引にまとめるなら「芸術文化をきっかけにした、障がい者の地域福祉の実現」に奔走してきた、滋賀県の社会福祉法人グローの取り組みや、その象徴としてのボーダレス・アートミュージアムNO-MAの活動に触れてきた。

 

そして今回からは、看護の世界に目を向けてみたい(この連載サイトの常連読者の方々、お待たせしました!)。とは言っても僕の場合は、もともと「障がいってなに?」ということが関心の根っこにあったので、障害福祉領域と比較的隣接しやすい「精神看護」という分野における、看護師たちの「超支援?!」的事例を紹介していこう。なお、ここでは客観的な視点で描くよりも一関係者(NPOの理事)として微力ながら並走してきた僕の立場ゆえに見えること、語れることをできるだけ丁寧に描いていきたい。

 

 

「Cafeここいま」という場

 

Cafeここいま、くつろぎの風景。浅香山病院に入院する精神障がいのある患者と看護師たちが、珈琲を飲んで語らい合う。

 

大阪は堺市の香ヶ丘町。南海電鉄浅香山駅前の商店街の一画に、2015年12月、あるカフェが立ち上がった。名前は「Cafeここいま」。10坪ほどの店内は清潔感のある白い内装で、奥では日々、店主たちが来客や飲食の準備をしている。メニューをみれば、珈琲やトースト、ホットサンドや日替わり定食など。ときに自家製の蕎麦寿司や近所に住む留学生がつくる地元料理なども食べられたり。

 

店内では、向かいにあるスーパーでの買い物帰りに立ち寄るご老人や、近所でスナックを経営する常連さん、すぐ近くにある関西大学堺キャンパスの教員や学生などがお茶を飲み、店主たちとの会話に花を咲かせている。そしてその隣には古着やアクセサリーや古本などがところ狭しとズラリ。そこはリサイクルショプ・コーナーだ。さらに商店街の通りを挟んだ向かい側には「おめでたい」という不思議な名前が縫われたタペストリーが掛けられているスペースも。

 

カフェの倍くらいの広さはあるそこでは、何人かの男性たちが古着の布を裂いたり、なにやらゆったりと作業をしている様子。首輪をした一匹の猫がいて、カフェスペースと作業スペースをスタッフに連れられ行き来しながら、ここに集うみんなに癒しと元気を与えているようだ(猫ご本人様は飄々としているけど)。

 

生後2カ月の頃にCafeここいまへやってきた、ふくまる。小川さんと毎日車で通勤している。>>「ふくまる日記」

 

 

さて、これらの場を運営するのはNPO法人kokoimaだ(2015年11月設立。法人格認証2016年3月)。運営を担う主要理事は、精神科病棟に勤務してきた看護師たち。代表理事でCafeここいま初代店主で、現在は就労スペース「おめでたい」の所長を務める小川貞子さんは、2015年春まで徒歩10分圏内にある浅香山病院の看護部長兼副院長を務めてきた、勤続年数35年のベテラン看護師である。

 

浅香山病院は、とりわけ精神科医療が充実していることで知られ、小川さんの専門も精神科看護だ。多くの患者たちの看護に精力的に取り組んできた彼女だが、61歳で希望退職し、このカフェの経営に乗り出している。そして副代表理事で現在のカフェ店主を務める廣田安希子さんも、小川さんのもとで同病院に24年間勤めてきた。彼女は当初、看護師とカフェ運営の二足のわらじ状態だったが、2017年3月に病院を退職。また、もうひとりの副代表理事 北村素美恵さんは病院での勤務を継続しながら、さまざまなカタチでNPOの運営に携わっている。未知なるチャレンジへと彼女たちを駆り立てた出来事の数々は、この連載で数回に分けて伝えていくつもりだが、端的には「長期入院している慢性期の精神障がいの患者を、いかにして地域での生活につなげるか」、このテーマを突き詰めた結果が、現在の「転身」に結びついていることは間違いない。

 

ここでNPOの設立趣旨を確認してみたい。

 

主に日常生活に手助けを必要とする精神障がい者に対して、地域のなかに居場所を提供し、同時に地域社会を精神障がい者にとってより住みやすい場所にしていくための事業を行い、社会的弱者である高齢者、子ども、障がい者などすべての人々が健やかに暮らせる地域社会づくりと福祉の増進に寄与すること

(NPO法人kokoimaパンフレットより抜粋)

 

ここにある「地域のなかに居場所を提供」については、まさにコミュニティ・カフェの運営を通じて、その理念と役割を担おうとしている。しかしそこに留まらず、居場所を見つけたその先には「地域社会を精神障がい者にとってより住みやすい場所にしていくための事業」として、実際に彼ら彼女らが病院を退院し、この浅香山周辺エリアで家を借りて「住む」に至るまでを目論んできたのだ。でも、一人暮らしを始めるにも、長年の入院生活のなかで生活に必要な家事、調理、買い物などが満足にできない人たちが大半だ。自立生活を始める準備段階から失敗も含めて徐々に実践できる現場がないと「いきなり」は難しい。また、グループホームなどを地域に立ち上げ、彼ら彼女らが共同生活をするような道筋を描くにも「精神障がい者の人たちが住んでいる家」という存在は、悲しいかな地域住民にとって必ずしもすんなり受け入れられるものではない。

 

そういった数々の課題、厳しい世間のまなざしに向き合いながら、地域住民との信頼関係を段階的に構築するプラットフォームにもなりえる場として「看護師が運営する地域に開かれたコミュニティ・カフェ」としてのCafeここいまを先行的に立ち上げた、というわけだ。

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>> 連載のはじめに・バックナンバー

第六回

病院から地域へ。精神看護と地域づくりのハザマから見えること。その1

― カフェここいま(NPO法人kokoima)の実践から ―

  • >> 今回の視点 〜 編集部より

    スタッフとして、看護部長として精神科の長期入院患者に長く寄り添ってきた小川貞子さんが定年直前に退職し、病院近くの商店街に開店した「Cafeここいま」は、オープンから2年が経ちました。

     

    “人々の健康な生活を支える”という看護の本質を突き詰めつづけた一つの結論であるその実践は、小川さんの「自分が本当にしたい看護とはどういう形をしているのか」という問いが静かな駆動力となって、着実にそして予想外の拡がりをもたらしながらいまも進行中です。

     

    それは多くの当事者や支援者の人々に支えられた賑やかな毎日である一方で、暗闇のトンネル掘りのように一寸先は闇の日々でもあるようです。しかしひとたび開通すれば、後に続く多くの人がその道を自由に歩けるようになるはずです。

     

    当事者とかれらを支援するさまざまな立場、また何より、そのどちらにもふだん接したり関心を寄せることの少ない人々との間に引かれた、社会の見えない境界線をどのように溶かしていくのか。そしてこのNPO活動に理事として当初から深くかかわるアサダさん自身はどのような問題意識を小川さんと共有されているのか……。それは冒頭にある次の一文から読み取ることができそうです。

     

    ──「その分野の専門性」を高めていくことが、より力強く当事者の支えになる一方で、時として「支援の常識」という壁にぶつかり、「一生活者としての相手に向き合う」という前述したコミュニケーションが取りづらくなっていく、そのような支援・ケア従事者当人の語りや状況に対しても、モヤモヤとした関心を高めてきたのだ。

    (本文より)

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