大学院で学ぶ理由

 

戈木:西名くんは学部で勉強をした後、6年間臨床にいましたね。そのときに学部時代に学んだ研究の基礎というものが役に立ちましたか?

 

西名:幸いにも、僕は学部からGTAの基本に触れることができました。臨床に出てGTAを使って研究することはできませんでしたが、概念レベルに物事を抽象化して捉え直すというGTAの考え方は役に立ちました。臨床で患者さんを通して経験したことを自分の中で理解しようとするときに、見たままではなく少し抽象化して考える癖がついたように思います。そうすることで、一度経験したことを別の患者さんやご家族と接する際に活かしやすかったという感覚があります。

 

戈木:そうして6年間臨床にいた後、質的研究を学ぶために大学院で学ぼうと思ったのには何かきっかけがあったのですか?

 

西名:臨床の現場で感じるいろんな疑問だったり課題を自分の中だけで整理するのであれば、自分自身の看護や仕事にはフィードバックができますが、それをもっと人に伝えたり発信していくためには、エッセンスだけでなくちゃんと研究方法として学び直す必要があるなと、経験を重ねるごとに感じていきました。

 

戈木:臨床ではPICUで働いておられましたが、今は院生として別のPICUでデータを取っていますね。違う立場で同じような現場に関わっていて何か気づきがありますか?

 

西名:臨床にいたままだと当たり前だと思って済ませていたことに、気づきやすくなった感じはします。ですが、臨床現場で毎日働くことがいかにデータへのアクセスに恵まれた環境であったかということも実感しています。

 

戈木:岩田さんも臨床経験を経て大学院で学び、今は学生指導で臨床の現場に行っておられますが、どうですか?

 

岩田:私の場合は、学部の卒業研究でインタビューをまとめたのですが、それがどういう方法論に則っていたか自分ではわからなかったんですね。当時は臨床に出て研究が必要だなんて思っていなかったし、ノルマとして自分にも回って来るんだろうな、という見通しでしかありませんでした。研究ノルマが回ってくる前に臨床を離れたのは、病棟で頻繁に亡くなっていく子どもたちや、その親御さんたちにうまく関われたという実感が持てずに、少し燃え尽きてしまったところがあったからです。

 その後、戈木先生の論文「最期の場を整える:看護技術としての子どもの死の時期の予測」(日本看護科学会誌, 21(5) : p.50-60, 2001.)に出会ったのですが、臨床の場で先輩たちの間で「ああだよね、こうだよね」と曖昧に語られていたことが、そこにははっきりと書かれていました。もし臨床にいるときにこの論文に出会っていたら、自分の関わりは変わっていたのではないかと思います。先輩たちは、論文に書かれていることを言語化して私たち後輩に語ってくれなかったし、また私自身も自分の後輩にやはり曖昧にしか伝えることができなかった。でも論文があればそれを言葉として理解し、人に語ることができるんだと思ったんです。そして、そういうことが看護の質の向上のつながっていくんだと考えたことがきっかけとなり、戈木先生のゼミで学ばせていただきました。

 臨床の時に行っていた看護は、自分の経験に基づいた価値観だけでやっていたと思うんですが、学生に何かを伝えるときにはそういうことを曖昧には語れません。一緒に実習へ行くと物事を捉える、正確に見るということがとても看護では大事だなと思います。ゼミで行った病棟での観察法トレーニングでは、子どもと看護師さんのやりとりという一場面を一生懸命に見る訓練をすると、すごく学生たちの「見る力」がつくことを実感しました。

 つまりデータ収集という行為が、看護の中で物事を捉える情報収集に役立つんだなと思いました。GTAに限らず観察法は役に立つと思いますが、実習先で子どもの反応がわからないというような学生がいるときに「じゃあ今見たことを書いてみようか」という形で、自分が行う教育にも取り込めています。

 

戈木:看護師さんたちって、すごくいい「技」をもっていて日々それを使っているのに、そんなことは当たり前で普通だと思っていて、わざわざそれをどこかに発信する必要なんかないと思っておられることが多いじゃないですか。例えばゼミ生のAさんは、看護の臨床経験がすごく長い方で、とても面白いデータを取ってくるのに本人は全然そう思っていない。ある意味、彼女は優秀な臨床看護師の典型例かもしれませんね(笑)。

 だけど自分自身がそこに価値を感じなければ、持っている知識や技は、いつまでも外に出ることなく「お家芸」として終わってしまいかねません。それは大変もったいないことですから、優秀な看護師の技を「研究」という技術を使って引き出していくことは大切だと思います。

 

(2014年3月24日、日本看護協会出版会にて)

 

 

※この対談の前編は本誌でご覧になれます。

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