伝えたいこと、伝えてほしいこと
三井:実は私、吉田さんがこの対談シリーズでもずっとテーマにされてきた、看護師の学ぶ場や機会をつくるって、具体的にどういうものを目指しているのか聞きたかったんですよ。単にスキルを伸ばすって話じゃないですよね。それよりももっと、人とつながっていく力とか、自分のいる世界を少し違うところから見ることのできる力とか、そんなことだと思うんだけど。
吉田:私が、佐藤紀子先生(東京女子医科大学看護学部教授)の「臨床の知」という概念にすごく惹かれているのは、その時その場の状況に合わせた振る舞いの中に、看護師としての臨床の知というのは現れるっていう、そういうものの見方なんですよ。それは理論的知識や標準化などについて知らなくてできることではなく、それらをわきまえた上で状況に沿った行動を自然にしてしまうことであるんです。そういう振る舞いというのは非常に言葉にしにくくて、というか言葉にすると、とたんに、その状況の中の一部分を語ることになってしまうんだけど。
ともかく、そのような言葉にならないけど本当に大事なものが何かをわかって実践している看護師が、あちこちにいっぱいいるんじゃないかと、私は思っているんです。だけどそれをやっていいんだという気概をすぐに持てない「理由」がいっぱいあるんですよ。例えば自分には理論的知識がないとか、勉強してないとか、権限がないとかね。私はつまりそういう人たちを勇気づけたいわけなんです。「あなたがいまその患者さんに対してよいと思ったことを信じて行動すればいい」って。
そのためにはまず、いま自分を取り巻いている環境、あるいは自分が立っている場所を規定している「枠」からちょっと出てみて、それを外から眺めてみることが大事だと思うんです。日々当たり前のように思っている線引きやルール、関係性がどんなものなのか。これまでこの対談のシリーズにご登場いただいた方々はみんな、そのためのユニークな視点を提供してくださったと思います。
三井:じゃあ私は何を提供できるだろう。
吉田:看護師である私も、そして三井さんも互いに大事にしたいと思っているのは、人と人が支え合って生きていく営みが社会の中で大事にされるってことですよね。そしてその時に、人はみんなそれぞれ何かが足りなくて完璧な人なんていないという考え方も似てますよね。三井さんはそれを福祉の現場で実践することもできれば、研究者として追究することもできる。私自身もそれに近いかもしれないけど、今、看護師という職業を背負って仕事に臨まないといけない人は、その立ち位置でしか頑張れないことに力を尽くしてほしいから、そういう人にメッセージを送ってほしいですね。
日本看護協会出版会
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