「Nursing Today」2013年10月号

[Web版]対談・臨床の「知」を発見しよう! vol.4

編集担当者が発信する、本と雑誌の関連コンテンツ

専門職の学びの環境はどうあるべきか

 

吉田:備酒先生が理学療法士になってこられた時代は、医療業界の中でその職種の立ち位置を決めていくパイオニアとして活躍された時期ですよね。看護の場合は違っていて、もともと課せられた業務があって、それが自分たちがやりたいことなのかどうかを問いかけながら、もう一度つくり直していっているようなところがあるんですけど、それと比較すると相当先駆的な時期があってそこに立ち会われていたんだろうなと。

 

備酒:何もないところに出てきたから、確かにチャレンジャーでしたよね。だけどその後、回復期リハビリテーションというものができて、それまでの病院職員数は、看護師10人に対してOT・PTがそれぞれ1〜2人といったイメージだったのが、今は5〜6人になってるんですよ。一つの病院に100人規模のOT・PTがいるようなケースがもはや普通です。看護師さんはたくさん卒業し、就職して、たくさん辞めていくでしょ。つまりリハビリの世界でも今それが起こりつつあるんですよ。

 

吉田:看護師と同じ集合教育の問題が見え始めたんですね。小さい集団で学び合えていたのが、大きな集団で学んでいく必要が出てきたんだ……。

 

備酒:そうなんです。だけど看護の世界には看護部長がいるでしょ。すなわちガバナンスができるんです。ところが理学療法士の世界にはそれがない。

 

吉田:全国の病院でリハビリテーション部や理学療法部の部長を、医師でない人がちゃんとやれているところってどれくらいあるんでしょう。

 

備酒:まだまだ少ないですねえ。

 

吉田:看護師の場合は、病院内にすごい人数いますから、その数に「黙らせる」ために、看護師のトップを置いておくみたいに使われる一面もあると思います。ガバナンスと言えることもやれる一方で、組織にとって都合のよいように飼い慣らされてしまう面もあるかなと思ってしまいます。

 

備酒:ちょっと話が逸れるんですが、社会人の学び直し授業というものを、国の委託事業でいろんな大学が手を上げてやったんですよ。その最終年度の取りまとめを某工業大学が担当しました。設計のCADを町工場のおっちゃんにも広げようという取り組みを彼らはやったんです。そのミーティングに参加するため大学へ行ったら、大学院の研究室に町工場のおっちゃんが普通にうろうろしてるんですよ(笑)。その大学の人は「東大と違って、うちのような大学の工学部はこうでないとダメなんだ」とおっしゃってましたね。そういう環境をつくるために、そこでは学長→事務局長→副学長という権限になっているんですって。研究室で会話を聞いてたらものっすごいざっくばらんやった。ある種のアカデミズムというものを感じさせへんねえ。

 

吉田:行ってみたい……。

 

備酒:行ってみたいでしょ〜。見てて気持ちよかったわ〜(笑)

 

吉田:かつて看護の世界は、とにかく医師と医学に認められない限り看護の自立はないという価値観が中心だったんですよ。そのためか、アカデミズムに偏重していく部分もあって、その結果、現場の看護職と話せる看護学研究者が減ってきてはいないかと心配なんです。学術用語や英語を覚えることも重要だけど、言葉にならない看護現象を、現場では働く人たちととことん語り合えないでいったどうするんだと思いますよね。

 

備酒:僕、英語がほとんどダメなんですけど、国際会議で外国の人と交流したら、最後にいちばん仲良くなっているのはいつも僕ですよ(笑)。言葉なんて片言でもいいんです。スキルよりも議論するものを持ってるかどうかが大事なんです。だから今のアカデミズムというものは、何か間違った方向へ進んでる気がするんですよ。

 

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