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ケアする者にとっての「マギーズ東京」
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● 岩城 典子 いわき・のりこ
NPO法人マギーズ東京、常勤看護師。がん・非がんのホスピスケアを経験し、暮らしの保健室に感銘を受け現在に至る。
マギーズ東京を訪れる来訪者の中には医療者の方もいらっしゃいます。
たとえば、がんの当事者として──。医師や看護師でがんになられた方は、周囲から医療者と見られていることが気になったり、また医療知識や臨床現場をよく知っているからこそ、相手に本音が言えなく“いい患者”を演じてしまい「本当はよくわからなく聞きたかったけど、職場の状況がわかるから聞きにくかった」や「本当は怖かった、つらかった、誰かの肩を借りて泣きたかった」と、ひとりの人として本音を語られ「やっと本音で話せた、素になれた、楽になった」と穏やかな表情になられる方もおられるのです。
そのほか、ケアする側として訪れる人も──。見学で来訪されたある訪問看護師の方に、マギーズ東京を来訪された方々がここで想いの内を吐露していくうちに、心が楽になり五感を取り戻していかれることについてお話したところ、突然泣き出されたことがありました。その方はこうおっしゃいました。
「私も吐き出していいでしょうか……。実は、訪問看護に入っていた40代のお母さんで、まだ手のかかるお子さんがいらっしゃる方が、スキルス胃がんで、今朝亡くなりました。深く関わっていた方だったので、その方が亡くなられたことを申し送りで聞いたとき、スタッフ皆、涙しました。でも私は泣けなかったんです……というか感情が麻痺していることに気づき、はっとしました。けどそのことを思えば思うほど苦しくなって……」
他の患者さんやご家族の想いにも寄り添えない自分とスタッフとの温度差に苛立ち、苦しんでいたこと。その背景として私生活が大変な状況で仕事をされていたことを嗚咽しながら話されました。
ひとしきり話されたあと、徐々に落ち着いて庭をゆったりと眺めながら「はぁ……。本音を吐き出すことって大事ですね。昨日まで、飛んでいる鳥を見ただけで石をぶつけてやろうか! と思うほど苛々していたのに、今はここの中庭に舞い降りた鳥を見ただけで、あぁ、なんて愛おしいんだろう……あぁ、命ってなんて尊いんだろう……って。(テーブルの花を見て)あぁ、お花ってこんな色をして、こんなふうに咲いているんですね……生きてるって凄いですね……。五感が蘇る感覚ってこうなんですね……。今流している涙は感動の涙です」と話され、私も思わず感涙しました。
ケアする側の五感が麻痺していると、人に寄り添うことができない。当然のことですが、医療者は専門職としての知識があるので、その知識に頼り、対処し続けることで、いつしかさまざまな物事を感じる力が麻痺してしまい、気づくと本音を見失って自分らしく生きていくことへの意欲がだんだんと失せていく。そのような状況に陥りやすい方々にとっても、マギーズ東京は必要な場であることを実感させられます。
医療者の方々にも是非、活用いただけたらと思います。
(おわり)
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