連  載

「まなざし」を綴じる

─ZINEという表現のかたち

第1回: ZINEという表現のかたち

藤田 理代

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>>「KONO flower FES」にて

 

ZINEについて

 

編集者によってまなざされた事柄が、著者をはじめ多くのクリエイターや職人の手で表現され「編集」という工程で洗練されていく「本」というかたち。たくさんのプロフェッショナルの手で、その時代のまなざしと素材を持って生まれ、触れた人の手の跡を刻み、光や空気を吸いながら時代を越えて読み継がれていく「本」というかたちだからこそ抱くことができるもの。手にした人に伝わり、共有されていく力。1冊の本をつくりあげるには相当な時間や力が必要であり、またその多くは出版社から取次、書店へと、長い旅を経て読み手の元へと届きます。

 

そうした「本」の美しいかたちを持ちながら、身の回りの道具や素材を使うことで、より身近に思いを伝えあおうという考えから生まれたのが「ZINE」です。コピー機の登場で「印刷する」という術が身近になったことが後押しとなり、自分の想いを原稿に綴り、印刷して小冊子を綴じて共有していくコミュニケーションのかたちとして生まれました。

 

magazine(雑誌)やfanzine(同人誌)が語源とも言われるZINEの発祥については諸説がありますが、「ZINEの本質は写真、ドローイング、ポエムとさまざまな手法で自由に綴るということ」(『ZINE(ジン)入門』2015年)とされているように、何よりも「自由」であることがその特徴です。自分の感じたことや見たものを誰かに伝えるために表現されたそのささやかな小冊子は、作り手から読み手へと直接手渡される行為を中心に広がっていきました。

 

筆者が初めて「ZINE」という言葉に出会ったのは、2012年。日本国内でZINEが盛んになり、随分経った頃でした。その年からZINEの制作をはじめ、2015年にはアート出版に特化したブックフェア「THE TOKYO ART BOOK FAIR」にも出展しました。毎年個性豊かなアートブックやZINEなどを手がける出版社、ギャラリー、アーティストが国内外から集まるブックフェア。出展者も来場者もアートを学ぶ学生から、本好きな高齢の方まで本当にさまざま。コピー用紙をホチキスで綴じた軽やかなZINEから、紙を漉いて染めるところから手づくりした製本家の作品、プロの写真家や印刷会社によって製作されたアートブック…コストやかたちの大小に関わらず、自由な作品が並びます。

 

会場では、作り手と読み手の境界が曖昧となり、異なる文化が混ざり合いながら、老若男女、国内外さまざまな人びとの間で、本を介したコミュニケーションが生まれていました。この他にも「MOUNT ZINE」「PHOTO! FUN! ZINE!」「Zine it!」「ZINPHONY」「ZINE DAY OSAKA」など、全国各地でZINEのマーケットが開かれていて、書店などでもZINEの棚をよく見かけるようになりました。

 

また、最近では図書館でもZINEに着目するところが出てきています。私もスタッフとして関わっている兵庫県の伊丹市立図書館ことば蔵では、2012年から「ことば蔵zine部」がはじまり、隔月でZINEづくりのワークショップを開催。参加者の制作したZINEが5年分ずらりと棚に展示されています。また、宝塚市立図書館でも2015年から「みんなの たからづかマチ文庫」というプロジェクトがスタート。市民が制作した「宝塚のまちに関するZINE」を図書館の蔵書として展示貸し出しするという試みが行われています。

 

このように、本づくりに関わったことがない人々のあいだでも、ZINEを通して何かを表現したり、共有していこうという動きが見えてきました。

 

 

自分の手で綴じるということ

 

一方、人の命と向き合う看護や介護の現場を眺めてみると、用意された写真をもとに回想していく「ライフレビュー」や、聞き書きなどによる「ライフヒストリー」、自らを振り返り書き綴る「自分史」、撮影者の語りを添えた写真の発表を通して表現する「フォトボイス」など、さまざまなかたちで人生を辿り、共有する手法が、専門スタッフのサポートのもとに実践されているようです。

 

しかし、私自身や家族の闘病を振り返ると、自分たちがいた病院や施設ではそうした機会はなく、治療に加えそのような場を探して参加するという心身の余裕もありませんでした。あの当時、もっと自分が表現したり、表現されたものに触れたりする機会があれば、もう少し楽になったのかもしれません。そこで、まずは自分や家族の生死を通して感じてきたことを題材に、ZINEに綴じるという表現をはじめました。

 

次回へつづく ─

 

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