コンパッション都市・コミュニティへの旅 ~喪失と死を共に受けとめ、助けあって生きるために~

text by   竹之内 裕文

たけのうち・ひろぶみ/静岡大学未来社会デザイン機構副機構長、農学部・創造科学技術大学院教授。東北大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。ボロース大学(スウェーデン)客員教授、グラスゴー大学訪問教授。松崎町まちづくりアドバイザー。死生学カフェ、哲学対話塾、風待ちカフェ主宰。専門は哲学、倫理学、死生学。著書に『死とともに生きることを学ぶ 死すべきものたちの哲学』(ポラーノ出版、2019年)、『農と食の新しい倫理』(共編著、昭和堂、2018年)ほか。

はじめに〜連載の展望

 

「コンパッション都市・コミュニティへの旅~喪失と死を共に受けとめ、助けあって生きるために」と題して、今回から連載を開始します。月1回のペースで寄稿してゆく予定です。はじめに、連載の展望を描いておくことにしましょう。

 

世界では「コンパッション都市・コミュニティ」(Compass-ionate Cities and Communities)という新しいアイデアが注目を集め、多くの国や地域で実践が展開されています。「コンパッションコミュニティ」とは、老病死や社会的孤立、生活上の困窮など、人生で直面する困難な課題を共に受けとめ、互いに助け合うコミュニティをいいます。「コンパッション都市」とは、政策や制度を整備し、それらのコミュニティを支援する自治体をいいます。

 

世界に目を向ければ、ヨーロッパ、アジア、アフリカの諸国で、またオーストラリアやカナダで、数千の「コンパッションコミュニティ」が形成されています。「コンパッション都市」の代表例としては、コジコデ(インド)、バーミンガム、プリマス、インバークライド(英国)、オタワ(カナダ)、ブリュージュ(ベルギー)、ケルン(ドイツ)、ベルン(スイス)、バルセロナ(スペイン)、台北(台湾)などが挙げられます。

 

「コンパッションコミュニティ」の試みは、日本でも展開されています。代表的な例としては、穂波の郷(宮城県大崎市)、ほっちのロッヂ(長野県北佐久郡軽井沢町)、善西寺(三重県桑名市)、だいでんケアネットワーク(佐賀県小城市)などが挙げられるでしょう。

 

とはいえすべてのコミュニティは、萌芽的な「コンパッションコミュニティ」といえます。隣近所であれ、学校や職場であれ、趣味やボランティア活動のためのサークルであれ、あるいは寺社や教会などの宗教組織であれ、そこでは程度の差こそあれ、コミュニティメンバーは互いの弱さを受けとめ、互いにケアしています。病や老い、また喪失や死と無縁な人など、ひとりもいないからです。ただ「コンパッションコミュニティ」を育て上げるためには、一人ひとりが基本的なスキルやリテラシーを身につけ、コンパッションを発揮しやすい環境を構築していく必要があります。「だれひとりとり残されない」ためには、異質な個人どうしが「喪失」と「死」を共に受けとめ、助けあって生きることを促進する制度や政策が求められます。だからこそコンパッション都市が必要とされるのです。

 

「コンパッション」とはなにをいうのでしょうか。ある人が苦しむ姿を目の当たりにしたとしましょう。あなたは素通りするかもしれないし、足をとめるかもしれない。足をとめて注意をむけると、当人を苦しめているものが浮かび上がってきます。苦しみが感受され、わかちあわれるのです。苦しみの感受は、それに対する応答を引き出します。相手の苦しみに突き動かされて、あなたは助けの手を差し伸べるでしょう。それが「コンパッション」のはたらきです。

 

コンパッション都市・コミュニティの基礎理論と社会実践の足場は、医療社会学者アラン・ケレハーの著書(Allan Kellehear,  Compassionate Cities, Public health and end-of-life care, Routledge, 2005)によって築かれました。日本でも同書の訳書『コンパッション都市 公衆衛生と終末期ケアの融合』(竹之内裕文・堀田聰子監訳、慶應義塾大学出版会、2022年)が公刊され、コンパッション都市・コミュニティに対する関心と学びのニーズが高まっています。

 

これらの関心やニーズに応えるべく、筆者は「喪失と死を共に受けとめ、助けあって生きる~コンパッション都市・コミュニティへの招待」と題した短期連載を、雑誌『コミュニティケア』(2025年10〜12月号、日本看護協会出版会)の誌上で担当しました。全3回の表題は、以下の通りです。

 

  • 第1回:コンパッション都市・コミュニティとはどのようなものか~5つの基本的な考え方
  • 第2回:なぜコンパッション都市・コミュニティなのか~2つのモデルチェンジ
  • 第3回:コンパッション都市・コミュニティを実現する~実践のための展望

 

短期連載では、コンパッション都市・コミュニティとはどのようなものか(What)、なぜ必要とされるのか(Why)、どうやって実現したらよいのか(How)、という3つの問いに回答しました。コンパッション都市・コミュニティの概論をコンパクトに提示したといってよいでしょう。とはいえ3回の寄稿では、とり挙げられなかったことも少なくありません。また理論的な枠組みを示すだけでは、コンパッション都市・コミュニティの魅力と可能性が十分に伝わらないのではないかという懸念も残りました。

 

それを踏まえて本連載では、筆者がどのようにしてコンパッション都市・コミュニティ出会い、どのような活動を展開しているのかを紹介することにします。そのうえで「コンパッション」の概念について掘り下げて考察し、「コンパッション社会の実現」というビジョンを共有します。本連載は、『コミュニティケア』での短期連載の続編という位置づけになります。連載は以下の構成になる予定です。

 

  • 第1回:旅のはじまり~アラン・ケレハーとの出会い
  • 第2回:仲間とともに歩みだす~コンパッションコミュニティ・ジャパンの創設
  • 第3回:小さな自治体の挑戦~コンパッションタウン松崎
  • 第4回:コンパッションコミュニティUKへの旅~アラン・ケレハーの基調講演
  • 第5回:「コンパッション」と「共感」
  • 第6回:「コンパッション」と「対話」
  • 第7回:「コンパッション」の思想を掘り起こす
  • 第8回:コンパッション社会の実現へむけて

 

 次回(第1回)は「旅のはじまり~アラン・ケレハーとの出会い」と題して、コンパッション都市・コミュニティとの出会いをふり返ります。筆者はどのようにしてコンパッション都市・コミュニティと出会い、なにに魅せられたのか。第1回の連載をどうぞお楽しみに。

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company