[連載小説]ケアメンたろう 第10話 家族 文・西尾美登里/挿画・はぎのたえこ

「太郎がさ、いろいろと乗り越えようとしてるし、澤田も大変なんだよなあと思うからさ、なんだか俺も向き合おうかなと─」

──(本文より)

©2020 Taeko Hagino

<  ● 

>> 前回まで/連載のはじめに

 

 

澤田は東京に行かない

 

「あいつの親、不妊治療してあいつを産んだんだってさ。そんで高齢出産だったんだって。妹も不妊治療してできたらしいよ」

 

「不妊治療?」

 

「うん。……親は今のところ元気だけれど、もうすく60歳らしいし、障害のある妹もいる。どんどん親は年をとっていく。だからあいつは地元に残るんだって。こんな家族を支えている自分と、恋愛したい人はいないんじゃないかなって」

 

「それ聞いて、ツッツーはなんて言ったん?」

 

太郎が尋ねた。

 

「そうか。ってしか言ってないよ。俺よくわかんなくてさ。俺んちも祖母ちゃんと爺ちゃんと曾祖母ちゃんがいて高齢化家族で、まだ元気でいるんだけれど年をとることや老いは年々感じてるからさ、わかっているから軽々しく言えんし」

 

「みんなそれぞれ、いろいろあるんだよなぁ……」

 

太郎は腕組みしながら、シミジミと言う。

 

「俺たち、来年の今頃どこで何してるんかな……。あのさ……」

 

慧人は最近、何度もそう言いかけては言葉を飲み込んでいる。

 

「何?」

 

二人が尋ねた。

 

「いや……」

 

「あのさ、慧人お前よく言いかけてやめるんだけど、それ気持ち悪いんだよ。何? 何か言いたいことがあれば言えよ」

 

ツッツーが呆れ顔で言い放つ。

 

「……母ちゃんのことなんだけれど」

 

「俺の?」と太郎が聞く。

 

「いや」

 

「オレ?」とツッツー。

 

「いや」

 

「慧人の?」と二人で尋ねると、慧人は「うん」と頷いた。

 

太郎やツッツーと仲良くなった頃、慧人にはすでに母親がいなかったように思う。だからといって、詳しいことを太郎もツッツーも聞いたことはなかったし、周囲の大人も何も言わなかった。

 

「俺の中では、封印してたんだよな。父親にも聞けないと思っているし」

 

「急にどうしたんだ?」

 

「いや、太郎がさ、いろいろと乗り越えようとしてるし、澤田も大変なんだよなあと思うからさ、なんだか俺も向き合おうかなと思うよ。……ずいぶんと昔の母親のこと、ボーっとしてて思い出すこともあるんだよね」

 

太郎もツッツーも黙っていた。

 

「俺が3歳の頃だったんだけど、その日はおばさんが幼稚園に迎えに来てさ、何が起こったのかよくわかんないまま家に帰ったら、母ちゃん交通事故に遭って死んでてさ。通夜の準備が始まってたんだ」

 

でも、俺はまだよく意味がわかんなくてさ、死んじゃってる母親の横で父親がぐったりして、うなだれて何にも動かないわけよ。そんでその時、なんだかさ、目の前にいる落ち込んだ父親が、かわいそうだって思った。死んだ母親を見ても、母親には全然かわいそうとか思わないの。いなくなった実感が湧かないままでさ、不思議だろ……。俺あのとき、通夜の準備する大人たちを手伝わなきゃなんて考えてた。それでもさぁ、最近まで母親の写真とか見れなかったんだよね。ずっと、受け入れきれてなかったんだ」

 

「わかるよ」

 

幼い頃に、父が行方不明になったきりである太郎は、何度も頷く。

 

「父親は多分ね、少し前から彼女とかいるみたいなんだけどさ……いや、いるんだけれどさ、俺には全然言わないの。だから俺が東京に行きたいのは、俺がここを出ればさ、父親は父親の人生をもっと謳歌できるんじゃないかなって、思ってもみるのさ。父一人・子一人でやってきたから」

 

一気に思いを吐露したようで、慧人は泣き出しそうな顔をした。父親の人生を気遣い、早くしっかりとなければならないと思っているから、こいつは人一倍大人びているのだろうか。

 

「慧人、母親の写真みれたんか?」

 

ツッツーが言うと、優等生の慧人は照れながら「うん」と答えた。

 

「よかったなぁ。でも慧人、澤田は東京には行かないよ」

 

太郎とツッツーが同時に言った。

 

慧人は、「だろーっ」と、頭を抱えた。

 

第11話 につづく

 

 

<  ● 

>> 前回まで/連載のはじめに

 

 

 

恋愛のススメ?

西尾美登里

 

介護・育児休業法で定められた制度として、男女問わず認められる育児休業がありますが、現場で男性が育児休業を取った場合にちょっとしたトピックになりやすいのは、男性が家庭内役割を望むことに驚きがあるからでしょう。男性は社会で働き女性を養う必要があると思っている人がまだまだ多いのです。

 

ところで、男性の多くは自分に収入がなければ、結婚はできないと思われているのでしょうか? そして女性の多くも、相手の男性に収入があることが結婚の条件であると思っているのでしょうか?

 

私の個人的な見解は、今のところイエスです。

 

その根拠は、男性は収入が増えるにつれ婚確率が急上昇するのに対し、女性は年収が増えても結婚確率は急上昇しないことと、30代男性の未婚率は正規労働者の31%に対し、非正規労働者は76%と2倍以上の水準で、賃金が低く雇用が安定しない男性は未婚者の比率が高いとされているからです(厚生労働省の調査より)。

 

50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合を「生涯未婚率」といいます。日本人の「生涯未婚率」は年々上昇を続け、2017年度版国立社会保障・人口問題研究所の統計結果によると、2015年度では男性の約23%・女性の約14%が生涯未婚率を占めます。これを見て意外だと感じる方も多いのではないでしょうか。なぜなら、私たちはよく「女性の未婚率の上昇や社会進出が少子高齢化を伸展させている」という意見をよく耳にするからです。

 

 

でも実際はというと、なんと男性のほうが未婚率が高いのですね。リクルートマーケティングパートナーズの調査では、20代で「異性と付き合ったことがない」と答えた男性は、39.5%という結果でした。それを知って、私は驚きとはがゆさが入り交じるような気持ちになりました。

 

多くの人は、主に青春時代に経験するだろう恋愛を通して、自分の力ではどうにもならないことや、友達のありがたさを実感できるものです。どうやって手をつなごうかと考えて一人で「キャー」と言っていた思い出は、私の胸の中で輝いています。

 

だから声を大にして言いたい。傷つくことや思いどおりにならないことを含めても、恋愛はいいものです。恋愛のなんやかんやを全てひっくるめて、今までお付き合いしてくれた男性にも恋愛にも、私は心から感謝しています。

 

恋愛はゲームのようにうまくいかなかったり、嫌になったからと言って簡単にリセットするわけにもいきません。若いうちに経験する大切なことは恋愛だけではありませんが、繰り返し言います。傷ついても思い通りにいかなくても、そこから学ぶことは多くある恋愛はとてもいいものです。一生懸命に人のことを想い、楽しむことができるのですから。

 

 

<  ● 

>> 前回まで/連載のはじめに

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company

fb_share
tw_share